その家は人目から隠れるように街から随分と離れた場所にあった
森を抜けて少し歩いた所に建っているその家は青年が一人で住んでいた
青年一人が住むには丁度良いくらいの家は
手入れは行き届いているが決して立派といえるものではなかった
「さて・・・どうしたものかな・・・」
狼達から託された少女を自分のベッドへ運んで
自分はリビングらしき所のソファに腰を下ろした
時間は夜中を過ぎて明け方に近い
青年の身体は少々、いや随分と疲れきっていた
そのまま肘掛に頭を乗せ、寝転がると足を組んで反対側の肘掛に乗せる
青年の身長からすると少々ソファは短いようである
色々と考えたいことはあるのだが、襲ってくる眠気に抗いきれず瞼を落とした
ガタンッ ガタガタガタッ
太陽が空の真上に上がりきる前に耳に響く大きな音で青年は目覚めた
何事かと飛び起きて辺りを見回しそういえば・・・と思い出した
音は昨夜連れてきた少女を寝かせた自分の部屋からだった
少女が目覚めたのかと部屋へ向かい扉を開けると
その部屋に少女の姿はなかった
いや、気配があるところを見るとどこかに隠れているのかもしれない
そう考えて改めて部屋を見渡すと、ベッドの陰から少女の長い髪が見え隠れする
茶色いそれを目に止めると青年は苦笑を零した
随分と警戒されているらしい・・・
歩み寄ると今度はサイドテーブルの影に隠れる
困ったように頭に手をやり優しく微笑みながら青年は口を開いた
「足の具合はどうだい?僕はリーマス、リーマス・ルーピン。君の名前は?」
リーマスと名乗った青年は静かに膝を折り少女と視線を合わせた
少女の口から漏れるのは狼や獣が出すような唸り声
昨夜リーマスが着せたであろうシャツの袖を引き摺り少女はリーマスを威嚇する
「まいったな・・・ひょっとして言葉が解らないのかい?」
そう言うも少女からの返答は唸り声だけだ
眉尻を下げ本当に困ったと一人ごちた
立ち上がり、昨夜と同じようにどうしようかと考え始めると
自分の腹が空腹を訴え始める
ちらりとサイドテーブルの影に隠れる少女を見て部屋を出た
キッチンに向かい食材を漁るとリーマスは考えた
「・・・あの娘・・・・・・何が食べれるんだろう?」
先程の仕草というか少女の行動を見て
普通の人間ではないというと語弊があるがそんな感じがする
さしずめ昨夜の狼達に育てられたといったところだろうか・・・
そこでまた疑問が浮かぶが、とりあえず自分が食べるものと
少女に食べさせるものを簡単に作り上げることにする
料理を作っている時も部屋からはカタカタと小さな音がしていた
出来上がったものを皿に盛り、テーブルに並べてまた考える
「一緒に・・・は無理だろうなぁ・・・」
仕方なしに料理をトレイに乗せテーブルに置いてあった杖を握ると小さく呪文を唱える
するとトレイはふわりと浮き上がりリーマスが歩くとその後ろをついてくる
リーマスはついでに足音を消して気配を断ち部屋へと向かう
そっと扉を開けて中を覗くと、少女が四つん這いで歩き
部屋のあちこちの匂いを嗅いでいる、まるで犬のようにも見える
狼に育てられたと考えたのは当たらずとも遠からずといったところである
とりあえず扉を軽く二度ほど叩くと少女はびくりと跳ね上がり
さっとベッドの陰に隠れてしまった
「・・・やれやれ・・・・・・君の口に合うといいんだけど・・・」
そう言いながらトレイを床の上に滑らせた
少女はリーマスとトレイに乗せられているものを交互に見ているが
決してベッドの陰から出てこようとはしない
リーマスは苦笑を零してそっと部屋から出てみた
先程のように気配を断ち中を伺っていると
少女はおずおずとベッドの陰から出てきてトレイの上の料理の匂いを嗅いでいる
そして握られた手でちょんちょんと触ってみたりしているのを
笑を堪えながら見ていたら、少女はそのまま料理に顔を近付け食べ始めた
顔が汚れる以前の問題である
リーマスは溜息を零し自分の食事に向かった
ココアを飲みながらこれからどうするかを考える
「どうしよう・・・君なら・・・・・・君達ならどうする・・・?」
昨年逝ってしまった親友達を思い出す
親友だと思っていた男に裏切られ一気に全てを失ってしまった
本当は関わりたくなかった
けれど何故か放って置けなかった
自分を見つめる真っ直ぐな狼達の瞳が彼等に似ていたからかもしれない
くっと自嘲的な笑みを浮かべふと少女が怪我を負っていて
軽い応急処置しかしていなかったのを思い出す
しかしあれほど警戒されているからにはそう簡単には怪我の治療はできない
そこでまた頭を悩ませる
「・・・仕方ない・・・あの人に連絡をとってみるか・・・
あの娘の家族のことも判るかもしれないし、忙しいかもしれないけど・・・」
リーマスは杖を一振りして羊皮紙とペンを呼び寄せると手紙を書いた
そして豆梟を呼んでそれを託した
「早くても2・3日かかるかなぁ・・・それまでどうしていようか・・・」
リーマスのその考えは杞憂に終わった
空に星が煌きだした頃、リーマスの元に一人の老人が現れた
「・・・っ、ダンブルドア・・・!」
「元気にしておったかね?リーマス」
「は、はい。お忙しいのに・・・」
「いや、かまわんよ。夜分にすまんな」
「いえ・・・僕の方こそ・・・急にお呼び出しして申し訳ありません」
「なに、お主のことも気になっておったところじゃ
して・・・手紙に書いてあった娘はどこかのぅ?」
「あ、こちらです・・・」
半月のメガネの奥にある瞳をキラキラさせながらダンブルドアと呼ばれた老人は
リーマスに案内されるまま足を進める
少女は自分が何処に連れてこられたのか解らず
不安を抱いたまま床の上で身を丸めうつらうつらとしていた
すると微かな足音が少女を覚醒させる
はっと身を竦め足音に耳を欹てる
カチャリと音がして扉が開くと同時に少女はベッドの陰に身を潜める
「おや・・・随分と警戒されておるのぅ、リーマス?」
「はぁ・・・・・・実は足に怪我を負っていて、多分それもあると思うのですが・・・」
「ほう、それはいかんの・・・ふむ、魔法を使って眠らせることはしなかったんじゃな?」
「えぇ・・・あまり良いこととも思えなくて・・・マグルの子供かもしれませんし」
「うむ、じゃが・・・ほんの微かにじゃが・・・この子は魔力を持っているようじゃ
スクイブに近いかもしれんのぅ・・・とりあえず怪我を治さねばなるまい?」
「は、はい・・・」
ダンブルドアが杖を一振りすると少女は光に包まれゆっくりと瞼を閉じた
そしてその小さな身体がふわりと浮かび上がりベッドの上に寝かされる
「では、僕は包帯などを用意してきます」
「うむ、・・・これは酷い、リーマス・・・何故このような怪我が?」
「あ・・・罠にかかってしまったようで・・・」
「なんと、可哀想に・・・」
リーマスは少女をダンブルドアに任せ自分は必要なものを取りに向かった
自分が月に一度は怪我をするのを見越してか包帯などは沢山用意してあった
それを抱えて部屋に戻ると治療は終わっていた
「綺麗に治すことも可能じゃが・・・身に持つ治癒能力を低下させてしまうわけにはいかん」
「はい、それで・・・この娘は・・・」
「そうじゃの、この子の持つ記憶を見ることはできん
が・・・お主の考えが当たっておる、と儂は思う。そこで、なんじゃが・・・」
ダンブルドアはリーマスを見てにっこりと笑う
厭な予感が拭えず頬を引き攣らせるリーマスにダンブルドアは更に笑みを深めて言った
「この娘はお主に任せるとしよう、儂はこの娘のことについて調べてはみる
その間だけでも面倒を見てやってはくれんかのぅ?」
「ダンブルドア!?」
「あぁ、気にするでない。この娘の後見人は儂がなろう」
「そうではなくて!」
「なんじゃ、儂がお主を雇う・・・この娘の教師として」
「満月の日はどうするのですか・・・」
「その時は儂が預かろう・・・それまでに他人に対する警戒心が解ければ良いのじゃが」
「はぁ・・・僕も職を無くしたばかりですし・・・・・・」
「では決まりじゃ、そうそう娘の名は?」
「は?名前、ですか・・・って知らないですよ。校長がつけてあげてください後見人なんですから」
「ふむ・・・、うむ、と」
「解りました、、ですね」
「宜しく頼む、養育費などは明日にでもお主の金庫に振り込んでおくとしよう」
「えぇ!?」
「遠慮はなしじゃよ、リーマス」
パチンと片目を瞑り「おやすみ」と言葉を残して我が道を行くリーマスの恩師は姿を消した
残されたリーマスはがっくりと肩を落としソファに腰を降ろした
「・・・まずは、あの警戒心を解くことからか」
翌日から始まる騒がしい日々
それはリーマスにとって吉とでるか凶とでるか・・・それは神のみぞ知る
70000Hitありがとうございます!
名前変換一箇所だけだなんて・・・なんてことでしょう
次回、悩みに悩むリーマス青年です(笑