風花の舞う刻  前編




「よー、剣心」

「なんでござるか?左之」

っつったか?お前のカミさん、新撰組にいたんだよなぁ?」

「カミさんって・・・そうでござるがそれが?」

「馴れ初め、教えろよ」


ニヤニヤ笑う左之助に剣心は呆れた顔を見せる
薬研やげんで薬草を磨り潰しながら「話せ」「話すような事ではない」の
押し問答の結果、左之助の勝利に終わった


「左之には負けるでござるよ・・・と初めて会ったのは
 拙者が遊撃剣士として京に戻った後でござった・・・       







京の夜は血の匂いが絶えない
この夜も剣戟の音と共に血の匂いが漂う



「チッ・・・今日も新撰組か」

「今夜もお相手願いますよ、緋村君」

「また、お前か・・・沖田」



その場に似合わない笑顔で刀を抜いたのは
新撰組一番隊組長沖田 総司

忌々しそうに舌打ちをして剣心は抜刀の構えをするが
一呼吸措いた後、沖田は激しく咳き込んだ



「ぐ・・・っ、げほ・・・・・・っ」


この隙を剣心が見逃すはずもなく沖田に斬りかかるが
甲高い金属音が響き、剣心の刃は受け止められた


血の匂いの中、仄かに香る桜の香り


以前、嗅ぎなれていた白梅香は甘い香りだったが
この香りはそこまで甘くない爽やかな香りだ



「な・・・!?」

「させません・・・沖田さん、ここは私が」

・・・・・・っげほっ」


剣心の刀を受け止めたのは新撰組独特の浅黄色のだんだら模様の羽織を着た女だった
沖田にと呼ばれたその女隊士は受け止めた刀を弾くと剣心と間合いを取る

佐幕派最強剣客集団と言われている新撰組に女隊士がいるなんて聞いた事がない
剣心は驚きを隠せずに狼狽する


「新撰組に女だと・・・?」

「女ではいけませんか?新撰組一番隊組長補佐  、参ります」



が刀を抜くと、後ろから剣心の聞きなれた声が響いた



!」

「・・・斎藤先生?」

「ここは俺が引き受ける、お前は沖田君を連れて退け」

「ですが・・・っ」



有無を言わさない斎藤の視線には渋々引き下がり
沖田を支えて剣心の前から姿を消した

その後姿を剣心は目で追った


自分の剣を受け止めた鋭い視線の女隊士・・・それが剣心の最初の印象だった


この日も斎藤とは決着がつかず互いに退いた









それから数日後、剣心は気分転換にふらりと出た先で再びに会う事になる




「お姉ちゃん、ちょっとそこまで付き合ってくんねえか?」

「いいですよ、どこまでですか?」



そんな話し声が聞こえてきて、剣心はのほほんとした女の声に呆れてしまう
危機管理能力のカケラも見えないその声の方を見てみると
どこかで見たことのあるような姿

どこで見たのだろうと考えながらも、ニヤつく男から助けるか・・・と足を踏み出した




「話の解るお姉ちゃんだ、じゃあ「待て」


肩に手を回して歩き出そうとする男の言葉を剣心が遮る
きょとんと剣心を見上げるのは

舌打ちをしながら男は剣心を睨むが、鋭い剣心の視線にたじろいでいると
の一言が男を恐怖のどん底に突き落とした



「緋村・・・抜刀斎・・・・・・」

「ば、抜刀斎・・・だと・・・」

「何故その名を・・・?」

「本物か!?」

「・・・そうだ、その娘は俺のつれだ、他をあたれ」



更に視線を鋭く男を睨むと、こくこくと頷いて男はその場から逃げるように去った
その男を不思議そうに見送る



「どこかに行くんじゃなかったのかな?」

「・・・はぁ、ああいう男には気を付けろ」

「何故?」



剣心の言いたいことを理解できないに剣心は脱力するが
こんなのほほんとした娘に会った事などないと
見間違いだったかとも思うが、自分の名前を知っていることに疑問をもつ



「どこかで、会ったか・・・?」

「え?解らないで私に近付いたの?」

「は?」

「前に名乗ったはずなんだけど・・・」



前に?と剣心は訝しんでいると後ろから声がかかる




!また変な男に引っ掛かって・・・って緋村君!?」

「沖田?・・・・・・・・・まさか・・・」



あの夜会った娘はこんなにのほほんとした娘ではなかったはずだ
鋭い瞳に殺気を纏い自分の剣を難なく受け止めた
新撰組一番隊組長補佐と名乗った女隊士だった

唖然としながらを見る剣心



「緋村君・・・に何か用かな?」

「沖田さん、私が誰か解らなかったみたいですよ
 それから変な男に・・・って引っ掛かってませんよ
 さっき何処かに付き合ってくれって言われましたけど
 緋村さんが声を掛けてきたら、どこか行っちゃいました」

「えっ、そうなの?」

「そうだ、が・・・・・・本当にあの夜に会った、沖田の補佐とかいう・・・」



困惑した剣心に沖田は笑いながら「そうです」と頷く
女物の着物を纏いほわんとした雰囲気の
剣心がなぜ困惑しているのかと首を傾げるが、自分の姿を思い出すと
ぽんと手を合わせてにっこりと笑った


「あぁ、あの夜とは着ている着物が違いますもんね」

「・・・・・・違うと思うよ、

「・・・・・・・・・(本当にあの夜の女なのか!?)」



のボケっぷりに沖田は突っこむが「違うんですか?」とまた首を傾げる
剣心はあの夜のの姿と今の姿が同一人物には見えず呆然としてしまう


「まぁ・・・解らなくても仕方ないか、解ってて近付いたんなら
 任務外だろうがなんだろうが抜くとこだけど・・・今日はを助けてくれたみたいだし」

「助けてって・・・私、別に困ってませんでしたよ?」

「「・・・・・・・・・」」



「何言ってるんですか?」と沖田を見上げるに言葉を失う剣心と沖田
お互い敵同士だということも忘れてに背を向け身を寄せ合う



「・・・大丈夫なのか?お前の副官は・・・」

「仕事の時は何も問題はないんですが・・・普段は・・・・・・」

「あぁ・・・危機管理能力がまったくないぞ」

「そればかりは僕達でもどうしようもなくて・・・」



疲れたような表情をする沖田に剣心はつい同情してしまう



「沖田さんと緋村さんって仲が良かったんですねっ」

「「・・・・・・はぁ・・・(まぁ、頑張れ?)(心の篭ってない激励ありがとございます)」」

「・・・とりあえず、屯所に戻ろうか」

「はぁい」


沖田は苦笑しながらを連れて剣心に背を向けた


夜には浅黄色を纏ったの姿を見かけたが、昼間の姿とかけ離れたその姿に
再び唖然とした剣心だった



最初は鋭い瞳が、二度目は暖かい雰囲気が印象的だった
この二面性を持つに剣心が惹かれるのに時間はかからなかった


なぜなら、幾度となく『変な男』に引っ掛かるを剣心が助け
時には一緒に茶屋でお茶を飲むという出来事があったから


『仕事中』ではないからとのほほんと自分とお茶を飲むに最初は頭をかかえたが
といる時間があまりにも暖かくて、お互い敵同士であるということを忘れてしまう
何よりその温もりが己のぼろぼろになった心を癒してくれた




も度々会う剣心に惹かれていた
自分の周りにいるのは試衛館に通っていた頃から共にいる沖田や土方、それに斎藤
寝食を共にしているということもあるのだろうが、家族のような存在で
『男』として見たことはなかった


そんなが初めて『男』を意識したのが剣心だった

(他にも一般の隊士など周りには男が沢山いたはずだが
沖田・土方などの幹部ががっちりと周りを固めているため
一般の隊士はに近付きたくても近付けないという事実を知らない)



お互い敵同士であっても育っていく心を止める事は出来なかった







剣心は敵同士であるという葛藤を乗り越え
は持ち前ののほほんとした性格(ボケっぷりともいう)で沖田達を唖然とさせて
晴れて恋仲となった・・・が、ここから剣心のある意味での苦悩が始まった











           、という訳でござるよ」

「ほぉ〜、そん時の話しも聞きたいな」

「左之・・・」



「また今度聞かせてくれよ」と笑いながら言う左之助に剣心は苦笑した


「あら、いらっしゃい左之助さん」

「おう、邪魔してるぜ。って訳でよ、飯食わせてくれよ」

「またでござるか?」



仕方ない、といった表情でを見る剣心の瞳は幕末の頃から変わっていない
その瞳は「愛しくてしかたがない」といっているような瞳だった