【奇襲】





新しい時代を迎え巴の教えてくれた『小さな幸せ』の灯がより多く灯るまで・・・
・・・俺はもう一度『修羅』に戻ろう・・・       







京の都を目指し、雪解けも終わりにかかった山間の道を一人歩く剣客
その髪は紅く、頬には十字傷。道の先を見据える瞳は暗く、憂いを含んでいる
長い手拭いを襟巻き代わりにして、ただひたすら歩を進めている



「・・・?」


山道も終わりに差し掛かった所で、人が倒れているのが目に入る
その場所は山陰になっており、今だ雪も解けていない
真っ白な雪の上に眠るように倒れている姿は
忌まわしいあの日の出来事と重なる


「巴・・・!?」


駆け寄り抱き起こせば、錯覚であると思い直す
身に纏っている着物で男子であると見て取れる、そこで不思議な事に気がついた
自分の足跡以外の痕跡がどこにも見当たらない事に



「俺の足跡だけ・・・か、それに・・・どれくらいの間この場に倒れていたのかは知らんが
 体温が失われていない・・・一体、どういうことだ・・・?」

「う・・・」

「気がついたか?」

「ぅう・・・んん・・・父・・・上・・・?」

「おい、しっかりしろ」


薄っすらと瞼を開けたので軽く揺さぶって意識を呼び戻す
揺すられた方は顔を顰めながらゆっくりと瞳を開ける
何度か瞬きをするが今だ意識ははっきりとしていないようで、ぼうっとした顔をしている


「・・・冷たい・・・・・・」

「雪の上で寝ていれば冷たいに決まっているだろう」

「へ・・・?ゆ・・・き・・・?」

「そうだ・・・お前、こんな所で何をしている?行き倒れではなさそうだが・・・」



段々と頭がはっきりとしてきたのか、立ち上がり辺りを見回すと引きつった顔で口を開いた


「・・・ここ・・・何処?それに・・・卯月に雪が残っている所なんて聞いた事が無い・・・」

「何を言ってるんだ?今は弥生の月頭だ。山陰に雪は残っているのは当たり前だ」

「弥生・・・?・・・っていうか、本当に此処はどの辺りなんです?」

「その前に名乗れ、俺は緋村 剣心」

「・・・(名前・・・か、どうしよう・・・男だと思われてるなら・・・)俺は、や・・・ 

・・・か、ここは京の外れ・・・ここから二・三日歩けば京だ」


剣心の言葉に眩暈を覚える



「・・・(京・・・?確か私・・・大和(奈良)から東海道を目指していたはず・・・
 それから・・・何があった?・・・父上は・・・・・・)あぁ      っ」


いきなり大声を出したかと思うと、自分の体をぱたぱたと触り確認している
それを訝しげな顔で剣心は見ている


「・・・俺・・・・・・崖から落ちた・・・はず・・・・・・」

「崖・・・?この辺りは山だが、崖はないぞ・・・頭でも打ったか?」

「そんなはずは・・・それに・・・お、俺の刀っ      ・・・あった・・・」


その手には血塗れの刀、は懐から懐紙をだし血を拭う
血塗れの刀とその慣れた手際に剣心は目を瞠る
そして彼岸花の蒔絵が施された鞘に収めると、腰に挿しなおす


・・・お前、どこの者だ?」

「どこの・・・って・・・言われても・・・(あぁ〜どうしよう・・・何がどうなっているのか
 皆目見当がつかない・・・それに・・・緋村さんから少し殺気がするんですが・・・)
 え〜と・・・俺、ずっと父上と旅をしていて・・・一つの場所に留まったことなくて・・・」

「ほぅ・・・ならば、父親は今何処にいる?」

「・・・何処にいるんでしょう・・・?目に刀傷があって隻眼の、こう・・ぼさっとした髪型で・・・
 何度ぶった斬っても倒れなさそうな・・・おっさん、見かけませんでした?」

「・・・・・・(酷い言われようだな・・・)いや・・・」

「そうですか・・・・・・まさか・・・奴等に・・・・・・」

「奴等?」

「いえ・・・旅の途中で襲われて・・・(ていうか斬りかかっていったのは父上か)
 緋村さんも刀を持っていらっしゃる所をみると・・・武家の方ですか?」

「いや・・・俺は・・・(こいつ幕府側の人間か?)」


は暫く考え込むと、思い切ったように話し始めた


「緋村さんは根来衆というのを知っていますか?」

「根来・・・聞いた事はあるな・・・幕府の忍びにいるという事くらいだが・・・」

「そうですか・・・幕府の・・・って幕府の?ぇえっ?」

「お前・・・知らなかったのか?俺も詳しくは知らんがそう聞いているぞ」

「父上は・・・やはり、幕府の人に嫌われていたんだ・・・
 (仕方ないよなぁ・・・将軍様を掘割に叩き込んだんだもんなぁ・・・)」

「それで、その根来とやらがどうしたんだ?(幕府側の人間ではないようだな)」

「あぁ・・・すみません。その旅の途中にそいつ等に襲われた・・・というか・・・
 父上が襲ったというか・・・うぅ〜ん、で・・・俺がそいつの片腕切り落としたら
 そいつが怒って・・・崖目掛けて放り投げられたんです」

「それで気がついたらここにいた・・・と?」

「はい」


何やらぼそっと呟いた言葉が気になるが
の話を全て信じる事はできない、と剣心は思った
崖から落ちたのなら無傷でいられる筈が無い
やっかいな人物を助け起こしてしまったと後悔した

暫くの間沈黙が二人を包む・・・が、の纏っている空気ががらりと変わる


「・・・!!」

「緋村 抜刀斎 覚悟!!」


木陰から数名の浪士が斬りかかってくる、剣心が反応すると同時にも反応する。
刀と脇差を使い相手の刀を受け止める


「多勢に無勢・・・しかも背後から斬りかかるとは・・・情けない方達ですね・・・」

・・・お前には関係のない連中だ、退がっていろ」

「嫌ですよ、俺に斬りかかってくる者は全て敵と見做します」

「何をごちゃごちゃと言っている!」



刀を構えている剣心に対して、は脇差を鞘に収め刀を肩に担ぐように置く


「・・・!(無形の位・・・か?)」

「こ、子供の癖に生意気なぁっ」


刀を振り上げ、に向かって斬りかかるが、それをひらりとかわす
ほんの一瞬、擦れ違い様のこと・・・の刀が揺れると
斬りかかった浪士の肩から血が噴出し倒れる。
それを合図に浪士達が一斉に二人に斬りかかる



ザシュ・・・ッ!


ザ・・・ンッ!!



「ぐぁ・・・・・・っ」



二人は返り血を浴びることなく、そして・・・声を上げさせることも無く
襲ってきた浪士達を切伏せた


「「・・・・・・」」


視線だけが交わる、「一体何者だ?」二人の思いは同じだった
沈黙に耐え切れずが口を開いた


「緋村さん・・・緋村さんの流派は、『飛天御剣流』・・・ですね?」

「・・・あぁ・・・は『新陰流』・・・か?」

「そうです。・・・『飛天御剣流』・・・聞いた事はあったけど・・・見たのは初めてです
 抜刀斎という名の由来はそこからですか・・・?」

「そうだ・・・しかし、『新陰流』は何度か見た事があるが・・・
 のは何所か違うな・・・」

「あぁ、俺は父上から教わったんです・・・だからじゃないかな・・・
 それに『新陰流』は結構分派が多いですから・・・どれが本家なのかも判りませんよ
 (おめ流である『柳生新陰流』との合作だなんて言えない・・・)」

「そうか・・・それにしても良い腕だな・・・歳はいくつだ?」

「年が明けて、十四になりました・・・緋村さんこそ、いくつなんです?」

「俺は・・・十六だ・・・」

「「・・・・・・・・・」」


二人ともがお互いの年を聞いて驚いている
剣の腕と歳が相応ではないのだ
は再び懐から懐紙を出し、刀の血を拭う
そして辺りを見回し、倒れ伏している浪士達に手を合わせた



「・・・変わった奴だな・・・」

「そうですか?・・・父上にもよく言われました。」


剣心がふ・・・と微笑み、もそれに応えるかのように微笑む
そしてもう一度、懐に手をやり中を弄って顔色を変える


「どうした・・・?」

「お金が・・・無い・・・路銀がぁっ、干飯も干肉も父上が食べきったんだったぁっ
 ・・・俺・・・これからどうしよう・・・父上を探すにしても何処に行けばいいか判らないし
 どうしよう・・・・・・俺・・・野垂れ死に決定・・・?」

「ぶ・・・っ」


今にも泣き出しそうな情けない顔に剣心が堪らず噴出す
はそんな剣心を睨むが、剣を握っている時とは裏腹に全く迫力が無い


「す・・・すまん、なんなら京都まで俺と一緒に行くか?」

「いいの!?」

「あぁ・・・これも何かの縁だ、それと名前を呼ぶのに敬称はいらない」

「ありがとうっ 緋村!」



華が綻ぶような満面の笑みに、剣心の心臓が跳ねる
顔に熱が集まるのが解る・・・それを悟られないよう踵を返すと足早に進む


「ちょ・・・待ってよ、緋村っ」

「・・・・・・(俺は・・・どうしてしまったんだ?巴を失ったばかりなのに・・・
 それに・・・は男だ・・・)」


小走りに剣心の後を追う。向かう先は動乱の京都・・・・・・









運命の悪戯か       ・・・
は自分の生きていた時代より277年後の世界へ降り立った(というか落ちた)
その事に気付くのはもう少し先の話・・・        











  


羅刹用語

【無形の位】
刀を提げて全く構えを取らず、相手が打ってきたら
その力を利用して切り返す技(?)
というか何も構えないことです。
『柳生新陰流』の奥義らしいです・・・
柳生流は「構え」という言葉を嫌ったそうです
曰く、構えとは一種固定した形式であり、臨機応変に欠けるから。
だそうです・・・

【お留流(お留技)】
将軍家の兵法術となったものは「勝手に流派を広める事のできない『お留流』」となる
柳生家では『新陰流』をお留流にするわけにいかず、『柳生新陰流』の方を『お留流』にした
※このお話ではヒロインさんは兵法指南役だった十兵衛の娘ですので
 『新陰流』も『柳生新陰流』も父上に教わりました