【昔語り】
木の実と一緒に拾ってきた枝を集めて火を点ける
パチパチと乾いた音がして次第に火は大きくなる
「今日も野宿かぁ・・・昨夜は屋根があったけど・・・
雨・・・降らないといいなぁ」
空を見上げ木の実を齧ると、独特の渋みと甘みが口に広がる
「雨は降らないだろう・・・」
「緋村ぁ・・・山の天気は気紛れだよ・・・」
「そうか?」
「うん・・・京都に着いたらどうしようかな・・・大和に戻ってみるかな
緋村は京に住んでるの?」
「いや、住んでいるという訳じゃないが・・・暫くは居るだろう。
、悪い事は言わない。路銀の目処は俺がつけてやる
京に着いたら直ぐにでも旅に出るんだ」
剣心の言葉に意味が解らないと眉を寄せる
「・・・(京で何事か起こっているのだろうか・・・?いや、そんな事があれば
嫌でも耳に入る筈だ・・・)どうして・・・?」
「お前・・・何も知らないのか?」
「へ?京で何か起きてるの?」
の問いに剣心は唖然とした
そして暫く考えてから、話を始める。幕府の衰退と倒幕の考え、それから佐幕の考え
その争いが京都で起こっているという事を・・・ 。
剣心の話を聞いていて、は頭痛がしてきた
「(は?倒幕?佐幕?・・・・・・幕府が衰退してるって・・・まだ三代しか続いてないのに?
・・・父上に掘割に叩き込まれて十年近く経ってるけど・・・打ち所が悪かったのか?)」
「・・・どうした?」
「うん・・・ちょっと驚いただけ・・・それに俺、此処に来る前にさ肥前の島原に居たんだよ
で、山陽道を通って来たけど・・・そんな話し聞いた事なかったから・・・」
「そうか・・・おかしいな・・・幕府が衰退を始めたのは、確か・・・五年程前からだったか・・・」
『五年程前』の言葉にの頭は真っ白になった
何かがおかしい・・・何かじゃなくて全てがおかしい・・・そう思った
は意を決して剣心に聞いてみる事にした
「ひ、緋村・・・つかぬことをお伺いしますが・・・今の将軍様って・・・誰?」
「・・・・・・は?」
「だから・・・今将軍やってる人って何代目の誰?」
「・・・十四代目、徳川家茂だ」
「・・・・・・(誰それ?・・・って将軍様か・・・それに、じゅ十四代目?
私の頭がおかしくなったのか?あの根来のクソ坊主に変な術でも掛けられてるのか?)」
急に頭を抱えて唸りだした
剣心は突拍子もないの質問を不思議に思うが、今はそれどころじゃない
「おい、大丈夫か?」
「・・・大丈夫・・・じゃないかも・・・
ねぇ、今の将軍家ってどれくらい続いているんだ?」
「・・・(また突拍子もないことを聞いてくるな・・・)二百年以上は続いている筈だが?
どうしてそんな事を聞いてくるんだ?」
「いや・・・俺って、世間知らずだったんだなぁって・・・(怪しまれてるなきっと・・・)」
「世間知らずにも程があるだろう・・・」
「そうだね・・・」
には剣心が嘘を吐いているようには見えない
自分が居た時代から二百年以上後の時代に来てしまった・・・。そう思うしかない
だとしたら・・・これから自分はどうしたらいい?
頼れる者は誰一人としていない、何よりいきなり消えてしまった自分を
父は探してくれているのではないか?それとも死んでしまった事になっているか?
ぐるぐると頭の中を嫌な考えが巡る。
そして、この時代では自分を支え諭し、何より愛してくれた父は故人となっているだろう
「(いくら化け物並みに強くて、殺しても死ななさそうな父上でも
二百年以上生きてたらそれこそ化け物だ・・・父上は、もう・・・亡くなっている・・・)」
「おい・・・どうした?」
「え?あ・・・・・・」
気付いたら涙が頬を伝っていた
父にもう会うことすらできない・・・そう思うと涙が止まらなくなる
「・・・父上はもう・・・きっと、亡くなってしまっている・・・」
「何故そう思う?確認した訳ではないのだろう?」
「・・・解るんだ・・・父上はもうこの世界には・・・いない・・・っ」
『、いいか?刀はこう持つのだ・・・ 』
『はいっ、父上!』
始めて刀を握った時・・・
『には母はいなくとも、この父がいるではないか。この父だけでは嫌か?
それに由良は姿は見えずとも、ずっとを天から見守っておるよ』
『母上はお空に行ってしまったの?』
『そうだ・・・がいつも笑っておるか天から見ておる』
『うんっ、じゃあずっと笑ってるよ。だって父上がいつも一緒にいてくれるから!
父上だーい好き!』
母が亡くなり泣き続けていた時・・・
『・・・・・・』
『父上!』
父の笑い声と幼い自分の笑い声が重なる
広い父の背中、肩車をしてもらった時の広い世界
頭を撫でてくれる無骨な大きい手、時には困ることもあった勝手気儘な性格
そして刀を握れば誰よりも強かった父
「・・・もう・・・いないんだ・・・・・・っ、声を聞くことすら・・・できな・・・い
ちちう・・・え・・・・・・父上・・・父上ぇっ」
ぼろぼろと涙を零しながら自分に言い聞かせるように「もう、いないんだ」と繰り返す
その姿に剣心は罪悪感を覚えた、今まで自分が斬ってきた者の家族ものように
哀しみ、泣いていたのではないか・・・と・・・
「・・・すまない・・・・・・」
「・・・・・・?・・・・・・どうして・・・緋村が謝るの・・・?」
「いや・・・」
「おかしいよね・・・っ、お、男がさ・・・泣くなんて・・・っ」
「いや・・・泣きたい時、泣ける時に泣いておけ・・・
今は・・・俺しかここにはいない」
「・・・・・・っく・・・ふ・・・ち・・・ち、うえ・・・・・・っぁうぁぁぁあっ」
つい口にしてしまった謝罪の言葉、何に対しての謝罪だったのか・・・
剣心は困惑した、なんともいえない複雑な困ったような顔をしながら
自分にしがみ付き泣きじゃくるの頭を撫でる
「・・・父上も・・・よくそうやって頭を撫でてくれた・・・」
「そうか・・・子供だな・・・」
「どうせ・・・父上曰く、親にとって子供はいつまでも子供だそうだ・・・」
「・・・そうか・・・」
剣心が暫く頭を撫でていると、泣き疲れたのかは静かな寝息をたてていた
「・・・・・・か、・・・どこかの武家の名か?
身なりと言葉遣いからすると・・・やはり武家の者だろうな・・・だが・・・訳ありのようだな・・・」
剣心は小さくなっていた火に、新しい枝を何本か投げ入れると
刀を抱え直し、浅い眠りについた
ピリッと張り詰めた空気で剣心が目を覚ますと側で眠っていたはおらず
視線を巡らせると脇道を逸れた林の中にはいた
は刀を肩に携え瞳を閉じている。剣心が感じているのは身体を刺すような空気
「・・・(殺気・・・そんな生易しいものじゃない・・・これは・・・『殺気』というより
『狂気』に近い・・・剣に憑かれた者が発する・・・ 剣気・・・・・・!)」
久し振りに感じる剣気に
ぶるりと身体が震え、汗が頬を伝う
殺気を浴びる事はあっても、剣気を浴びる事は滅多にない
一気に膨れ上がった剣気は、の周りの木の葉を散らす
降りそそぐ木の葉の一枚が刃の上を滑ると、そのまま二枚に割けて舞い落ちる
「・・・・・・!(あの刀は・・・・・・)」
かさり、と一枚の葉が落ちた音を合図に
流れるように刀を振るい、鞘に収める。辺りを舞っていた葉が切り刻まれて地に舞い落ちる
ほぅ・・・と一息ついてから瞳を開ける
ふと気がつくと、自分を見入っている剣心が目に入る
「緋村・・・嫌だな、見てたんだ・・・」
「あ、あぁ・・・、その刀は・・・」
「え?・・・これ?・・・これは・・・貰った物なんだ」
「いや、そうじゃなくて・・・その刀の銘は、もしかして」
「『千子村正』・・・徳川家に禍を齎すと云われている妖刀・・・
初代将軍、徳川家康の祖父 清康を斬り、長男 信康の切腹の際の介錯刀・・・
そして家康自身もこの刀で傷を負った・・・『村正』は数多く打たれているけど
これが妖刀といわれている本物の『千子村正』だよ。よく気付いたね」
「『村正』は見た事があるが・・・木の葉が刃の上を滑るだけで切れるのを見たのは始めてだ」
「そ・・・か・・・」
きっと自分の仲間達が見たら欲しがるような逸品だな・・・と思った
「で、はいつもああいうのをやっているのか?」
「うん、気が向いたら・・・だけどね。自分を落ち着かせるのには一番だよ
緋村はやらないの?」
「俺も時々やるな・・・」
へへっと笑うに剣心は苦笑しながら「そろそろ行くか」と立ち上がる
も笑顔で頷き、二人の足は京都へ向かう
道中話すのは時勢のことや剣の事
特に時勢の事はにとって重要なことであった
これからこの時代を生きていくためには、多くの事柄を知っておきたかった
山道を抜け、小さな町に入ると宿を見つける
無一文のは不安そうに剣心を見上げると、心配するなと言うようにポンポンと頭を撫でられる
父以外の男と一つの部屋で夜を明かすのに少し抵抗はあったが
今、自分は男なのだと自分に言い聞かせる
「緋村・・・・・・ありがと・・・」
ぽつりと零された言葉に、剣心は顔をあげる
「どうした?急に・・・」
「うん、だってさ・・・俺、緋村に会ってなかったらどうなってたか解らないもん。
自分が何処にいるのかも解らなかったし・・・今、何が起きているのかも知らなかった
・・・だから・・・ありがとう・・・・・・感謝してる・・・」
「いや・・・」
面と向かって感謝などされた事の無い剣心は内心焦る
『人斬り』と罵られ、恨まれる事はあっても感謝などされることは無かった
ふと何故か自分の妻であった人を思い出した
「・・・(巴・・・誰かに感謝されるということは、少し恥ずかしくて
なぜか暖かい気持ちになるものなんだな・・・)」
「緋村・・・?」
「ん?」
「あのさ・・・昨日も思ったんだけど・・・さ・・・・・・緋村って・・・
どこか遠くとかに大切な人が・・・いるんじゃないか?」
「ど・・・して・・・そう思う?」
あきらかに動揺をみせる剣心に
ふ・・・と懐かしむような哀しい顔をしながらは続ける
「緋村の瞳がさ、父上に似てるんだ・・・母上を思うときの・・・さ
母上は・・俺が三つか四つの時に病で亡くなったんだ・・・
その夜に・・・父上・・泣いていたんだ・・・声も出さずに、酒を飲みながら・・・
正直、驚いた・・・剣を持てば誰よりも強くて、大きな父上が泣いていたんだ
俺はまだ幼くて、母上が亡くなった事の意味が解らなくて・・・
ただ・・・凄く辛そうに涙を流している父上にどうしていいか解らなくて・・・
一晩中、父上の側にいたんだ・・・母上がいつもそうしていたように・・・
一緒に酒でも飲めれば良かったのかもしれないけど・・・」
「・・・そうか・・・・・・それでいい・・・ ・・・そんなに、似ているか?」
「うん・・・でも・・・緋村の方が・・・・・・なんていうのかな・・・
淋しい・・・っていうか哀しいっていうか・・・」
の言葉に剣心の瞳が揺れる
まだ出会って間もないのに自分に己の過去を話す
今だ謎は多い・・・しかし、心のどこかで・・を信用している自分がいることに驚く
は昔、自分が父にしたように剣心の隣に移動して腰を下ろす
言葉はなにもない・・・なのにの存在が剣心の心を暖める
「・・・(暖かい・・・な・・・)・・・俺はこの冬に・・・自分の妻を斬った・・・
俺を助けようとして・・・飛び出したのに、俺は気付けなかった・・・
夫婦であったのはたった半年・・・でも、俺は・・・・・・っ」
「幸せだった・・・?」
「・・・あぁ・・・・・・」
「そうかぁ・・・きっと・・・緋村の奥さんも幸せだったと思うよ・・・
それに緋村のことが凄く大切だったんじゃないかな・・・
詳しい事は解んないし・・・他人の俺が言うのもなんだけど・・・
緋村くらいの剣の腕の奴がさ、敵と対峙していて放たれる殺気・・・剣気は
半端じゃないと思うんだ・・・それに飛び込んでいくことのできる女の人なんていないと思う
それに・・・母上が言っていた・・・『愛する人の為に死ねるなら本望だ』ってね
・・・なんの慰めにもならないけど・・・」
「・・・いや・・・」
の言葉の一つ一つが心に沁みる、剣心は目頭が熱くなるのを感じると
膝を立て顔を埋める・・・は寄り添うように距離を詰めると、剣心は肩を預ける
「泣きたい時、泣ける時に泣いておけ・・・でしょ?今は、俺しかいない・・・」
「・・・っ、あぁ・・・」
静かに肩を振るわせる剣心、は何も言わず瞳を閉じる
どれくらいの間そうしていただろう・・・
出会って間もない、しかも年下の男に自分の弱いところを見せてしまった事に
剣心は恥ずかしさが込み上げてきて、顔を上げることが出来ずにいた
「・・・身はかくて さすらへぬとも 君があたり 去らぬ鏡の かけは離れじ・・・」
「なんだ?それ・・・」
「母上が父上に贈った歌だよ・・・」
「・・・その歌はどういう意味だ?」
「んとね・・・『鏡を見れば、必ず貴方の姿が映るように、
私の心もいつでも貴方と一緒にいるのですよ』・・・だったかな・・・?
父上の懐に入っていたんだ・・・お守りみたいにさ・・・盗み見した時は怒られたなぁ・・・」
の最後の言葉にふ・・・と笑みを零すと
先程感じていた羞恥心は消えていた
「ありがとう・・・な、・・・・・・・・・」
「・・・っ、ううんっ。俺・・・緋村に会えて良かったよ」
「俺もだ・・・」
ふわりと微笑む剣心にの顔が火照ってくる
困ったような複雑な微笑とか、苦笑はよく見たが今回のような嬉しそうな微笑は初めてだ
「・・・・・・(う・・・わー、初めて見た・・・どうしよう、なんでこんなに胸がドキドキするんだろう
こんなこと、四郎以来だ・・・でも、きっと緋村にこんな気持ちになるのは
私を助けてくれたからだ。・・・きっとそうだ・・・そうだよね・・・四郎・・・)」
傍らに置いてあった自分の刀を握ると慌てたように「もう寝るね」と布団を被る
そのの行動に少し驚いていた剣心は、やれやれといった感じで肩を竦め自分も布団に入る
「おやすみ・・・・・・」
「おやすみ・・・」
妻を亡くしたばかりの剣心と、父が亡くなっていると気付いた
二人の心に点いた小さな温もりは消えることなく夜は更けていく・・・ 。


三話目です・・・
ヒロインさんの刀は『村正』に決定・・・
あと謎の人物『四郎』・・・(お気づきな方もいらっしゃるかと・・・)
まだ謎はありますがこれから徐々に・・・書いていきます
ヒロインさんの母上が十兵衛サマに贈った歌は
光源氏が紫の上に贈った歌です・・・だったハズ・・・(汗
なかなか話しが進まなくて申し訳ありませんっ(平謝
しかし・・・ヒロインさんはファザコンですね(笑
もう十兵衛サマ溺愛の管理人の趣味が突っ走ってます(滝汗
原作に沿いたいんですけど・・・まだまだ道程は長そうです・・・
ここまで読んでくださってありがとうございます。