【入京】



志々雄を逃がし、栄次と斎藤、操とが一悶着ありはしたが
達は新月村を後にした。



そして京都────



「やっと着いたね、兄っ」

「あぁ・・・緋村・・・?」

「ちょっと緋村ァ!!」

「おろ?」

「おろじゃないっ、兄だって呼んでるのに
 何ボーッとしてるのよ、なーんか京都に来てから変よあんた」

「まぁまぁ、操。緋村にも思うところがあるんだよ
 とりあえず葵屋へ行こう」

「葵屋・・・でござるか?」

「そ、料亭『葵屋』私と兄の家」

?」



訝しげに剣心はを見やると、は苦笑を零しながら頷く


「まぁ・・・家っていうか居候?一応、俺はここを拠点にしていたから・・・」

「そうか・・・」



操を先頭に話しながら足を進め、葵屋の前まで来ると
玄関前で一人の老人が掃除をしている
操はその姿を目にいれると嬉しそうに叫んだ。



「おーい、爺やー!」

「ひょーっ 操ォ!!」


操をめに止めた老人は満面の笑顔で飛びついてくる操を受け止める


「ただいまァ!」

「おお、お帰り!いつもより帰りが遅いから心配したぞ」

「ごめんごめん、いろいろあってね」


老人は力一杯操を抱きしめるが、操の背骨が軋んだ音を出し始める



「痛い痛いいたたたいたたた」

「遅く帰った罰じゃい」

「い、いいのか?アレ・・・」

「あーぁ(怒ってる怒ってる)」



苦笑すると剣心に老人・念至は目を向け、操を小脇に抱えた


「おぉ、君じゃないか。操と共に帰ってきたんじゃな」

「えぇ・・・まぁ」

「さぞ大変じゃったろう、ん?そちらの御仁は?」

「あー・・・」

が言葉を濁していると、ガラッと葵屋の玄関が開く


「操ちゃん!」

「お嬢、おかえりなすって!」

「おぉ、伸びてる伸びてる」

「きゃははははは」


「あー、翁?俺達はこれで・・・」



は、す・・・っと身を引き剣心に視線で合図を送ろうとするが念至に遮られる



君、何処へ?」

兄!今夜は白さんと黒さんが腕によりかけてご馳走つくるってさー」

「操もああ言ってることじゃし、君・・・それに、緋村抜刀斎殿?」

「翁・・・」

「ご老人・・・」



と剣心は瞳を細めるが、それは念至がニッっと笑い流す


「詳しい話は中で」



は仕方ないと溜息をついて剣心を促す


君の部屋で良いかの?」

「・・・はい」




風呂に入るという操を見送って、は剣心を自分にと当てられた部屋へと案内する
剣心は感慨深げに辺りを見回す。



『ここが俺と再会する前、が使っていた部屋・・・』


必要最低限の物しか揃えられていない簡素な部屋
微かにの残り香がする


「・・・あんまり見ないでよ、剣心・・・」


恥かしそうに俯く姿が愛しくて自然と抱き寄せようと腕が動くが
念至が茶を持ち部屋へ入ってくる


「さてと・・・緋村殿、儂のことを君から聞いたかね?」

「いえ・・・まだ、話してないんだ・・・ごめん」

「おぉ、そうじゃったか。じゃあ儂から話そうかの
 儂は柏崎念至、幕末むかしは隠密御庭番の一員でな
 その名も京都探索方『翁』 嘉永六年、浦賀にペリー率いる黒船が来た時
 先代御頭は逸早く、この事件によりこの国の主権が問われ
 その主権を握る存在、つまり天皇と公家達が深く関わってくると察知して
 この京都が動乱の中心地になると予想し、御庭番衆独自の情報収集網をつくるため
 儂を送り込んだのじゃよ、この葵屋はその拠点とすべく開いたんじゃが・・・
 皮肉な事に大店おおたなの江戸幕府の方が先につぶれてしもうた
 けど、維新後、あぶれた仲間達の一時の駆け込み寺としては充分に役立ったわな」

「そうか、だから蒼紫は操殿をここへ預けたでござるか」

「蒼紫様をご存知で・・・」



チラと念至はを見るがはの表情は暗い
そんなを気遣って剣心が口を開く



「・・・あなたには話しておくべきでござるな・・・」

「・・・緋村、俺から話す」

「だが・・・」

「大丈夫だ・・・」



ゆるりと力なく微笑むとは徐に話し始めた




「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・そうでしたか、・・・般若達は死に、蒼紫様は行方不明に・・・」

「すまない・・・翁、俺は・・・なにも、できなかった」

・・・」



の脳裏にあの惨劇の夜が蘇り、唇を噛み締める
剣心はその姿を辛そうに見つめ、己の力不足を悔いて拳を握った



君、緋村君・・・そう己を攻めんでくれ
 あやつ等は自分の意思で逝った・・・そうじゃろう?」

「ですが・・・っ」

「忍びの最期は孤独なもの・・・それを看取ってくれた者がいた
 それだけであやつ等は幸せじゃった・・・」

「翁・・・」

「じゃが・・・操には、もう暫く黙っておくのが良いかもしれんの・・・」

「「・・・はい」」



辛そうに俯く二人を見やり、空気を変えるように念至はぽんと手を叩く


「時に緋村君、この十年、一度も京都に現れなんだ君が、今頃になって現れたのは
 もしや、君の後継者・・・志々雄真実がからんでおらんか
 君は知っておると思うが、あの男が実は生きていて
 京都を中心として不穏な動きをしていると耳にした時は俄かに信じられなかったが
 君までが姿を現したとなると話しは別じゃ・・・しかも君まで揃ってな」

「翁にはかないませんね」



が参ったとばかりに苦笑すると、念至は高らかに笑い提案する




「そこでだ、操を無事送り届けてくれた恩と
 われら御庭番衆の最期を看取ってくれた礼に
 どうじゃ、この儂が君達の味方になってやろう!」

「おろ・・・」

「は・・・?」

「儂は今の京都が好きなんじゃ、この都を守るため今一度老兵の出陣じゃっ」

「ちょ・・・ちょっと待ったでござる」

「お、翁・・・よく考えてから・・・」

「なに、葵屋の事なら大丈夫。白も黒もお近もお増もみな元・御庭番衆
 自分と操一人守るくらいはやってのける連中じゃ
 君は良く知っておろう?」

「それはそうですが・・・」

「しかし・・・」



と剣心は謹んで辞退しようと言葉を探すが、念至に手で制される



「嫌だといってもムダじゃよ、ムダ
 なんせ、儂は操の育ての親じゃからな」

「おろ・・・」


どぉんと剣心との脳裏に念至と操、その後ろにわがまま筋金入りの文字までが浮かぶ


「そうだった・・・そうだったよこの人・・・」

「何だか知らぬが、すごい説得力でござるな」

「そうじゃろ、そうじゃろ」



がっくりと畳みに手をつくと唖然としてしまう剣心
「ひょーひょっひょっひょ」と笑い続ける念至
諦めた剣心は念至に頼み事をした



「新井赤空と比古清十郎・・・この二人を探して欲しいでござる・・・出来るだけ早く・・・」