【折刃】



「俺の方は闘るなら闘るでも構わないけどな
 どうせ闘るなら『花の京都』としゃれこみたいもんだ、まあどうしてもやるというなら・・・
 この新月村を統治する尖角が相手だ!


とん、と志々雄が畳を叩くと剣心達の前に巨体が畳を破り出てきた


「・・・そうかお前が尖角・・・栄次の両親と兄を殺した男でござるな」

「ブァウアアッ!!」


唸り声とも雄叫びともいえる声を発しながら尖角は剣心達に向かって突進するが、それを軽く交わし
壁際によるのはと斎籐だけだった


「遅い!!」


言葉と共に繰り出された尖角の得物が剣心を襲う


「あらら、思ったよりあっけないや」

「緋村抜刀斎、恐るるに足らず!!」


のほほんと宗次朗は言い放ち、勝ち誇ったように言葉を口にするのは尖角
その優越感を断ち切るように剣心の声が響いた


「栄次との約束でござる・・・志々雄の前にまずお前から倒す!!」

自分の得物を逆刃で止めた剣心に驚く尖角の後ろでは志々雄がニヤリと笑う


「倒す?この俺を・・・?」

「面白いッ!!!」



両手の得物を振り被り剣心へと攻撃を繰り出す


「今迄九十九人を刻み殺したこの尖角の百人目の獲物はお前だ!!」


「たった九十九人じゃ威張れる数じゃないぜ」

「斎藤さん・・・」

「そうだろ?」

「・・・まぁ、そうですけど」


口角を上げながら言う斎藤には呆れた返事を返す
二人がそう話している間に剣心と尖角の動きが素早くなっていく
繰り出す攻撃をさらりと交わす剣心に尖角はだんだん苛立ちさらに攻撃速度を上げる


「この・・・チョコマカチョコマカと・・・貴様と俺の速さは互角!
 ゴキブリの様にいつまでも逃げ回れると思ってるのか!!」


「苦戦、してますね緋村さん。押されっぱなしでさっきから一度も攻撃してませんよ
 助太刀・・・したらどうです?」


にこりと笑いながら言う宗次郎には無言で返すが斎藤は鼻で笑いつつ視線を志々雄に向けて答えた


「冗談、あんなの相手に自分の太刀筋・・・を披露する気にはなれんよ
 見な、ついさっきまで冷笑浮かべて雄弁に語っていたくせに、闘いが始まった途端あのツラ・・・
 抜刀斎てきの技を一つももらさず見極めようとしてやがる・・・豪放なくせして油断もスキもありゃしねぇ
 抜刀斎も当然あの視線に気付いている、だからあえて攻撃せず、ああやって相手の自爆・・を誘ってるんだ」

「自爆?」


宗次郎は不思議そうに視線を尖角にやった時


「「そろそろか・・・」」


剣心との声が同時に聞こえたその時、尖角の右足の膝から下がありえない方向にまがり
骨の折れる音がその場に響いた

倒れ込み足を抱える尖角を底冷えするような眼で見下ろし口を開く剣心


「あ・・・足が折れ・・・っ」

「速さを落とさず連続して動き続けた故、切り返しの際に体にかかる負担が限界を超えたんだよ」

「バカな!同じ速さで動いたのに、体のヤワなお前お前より俺の方が先に限界を超えるはずが・・・」

「同じ速さだから体重が重いお前の方が体にかかる負担も大きいんだ」

「バカなバカな!今迄こんな事は一度もなかった!
 俺の体はこれ位の速さで限界を超えるはずは───」

「バカがまだ気付かないのか、抜刀斎は切り返しの度に徐々に速さをつり上げてたんだよ
 『自分と抜刀斎は同じ速さ』と思い込んだ貴様はそこにまんまと引っ掛かった訳だ
 さっき九十九人を殺したとかぬかしていたが、百人目は自分自身・・・・に決まりだな」


愕然と斎藤の言葉を聞いている尖角を震え上がらせたのは志々雄の死刑宣告だった


最初ハナからお前に勝ちなんざ期待しちゃいねえが、このまま抜刀斎に技一つ出させないまま
 負けてみやがれ、この俺が直々にブッ殺してやる


形振り構わず剣心に躍り掛かる尖角を剣心は迎え撃った


「飛天御剣流 龍翔閃!」


それを見ていたは小さく溜息をつき、斎藤は呆れた


「阿呆が・・・そんなデクの棒にまで情けをかけやがって、その甘さが命取りになるぞ」

「まったくだ・・・」


二人の言葉に剣心はスラリと逆刃を返し、志々雄に向けた


「別に構わんさ、『後輩』相手にそう気張る事もあるまい
 ・・・剣を取れ、志々雄真実」



剣心の低い声がその場に響く
その時、は襖の向こう側から見知った気配があるのに気付いた


「コソコソしないで堂々と見物したらどうだい?操」

「ぎゃっ・・・兄ぃ〜」


襖をスラリと開けると操と栄次が倒れ込み、操は情けない顔をしながらを仰ぎ見た


「まったく・・・大人しくしてられないのかねぇ」

「・・・イタチ娘、そばから離れるなよ」

「操殿!栄次!」


操に一瞬気を取られた剣心に向かい志々雄が口をひらく


「今の龍翔閃とか言う技、刀の腹で尖角のアゴを打ち上げたわけだが
 恐らく本来は刃を立てて斬り上げる技だろ?」

「・・・ああ」

「がっかりしたぜ、先輩が人斬りを止めて不殺の流浪人になったとは部下の報告で聞いていた
 が、この目で直に見るまではちょいと信じ難かった。そんなんで俺を倒そうなんて100年早え
 つまらねえ闘いはしたくねえ、京都で待っていてやるから人斬りに戻ってから出直して来な」


志々雄が指を鳴らすと、傍にいた女が背後の屏風を片付ける
その後ろには地下へと下りる階段が姿を現した


「尻尾をまいて逃げるのか?」


挑発ともいえる剣心の言葉に志々雄は表情を変えず、立て掛けてあった刀を手に取り宗次郎へ投げ渡す


「宗次郎、俺のかわりに遊んで・・・やれ」

「いいんですか?」

「ああ、『龍翔閃』とやらの礼にお前の『天剣』を見せてやれ」

「じゃあ遠慮なく」


剣心は宗次郎と視線を交え動きを読もうとする


「コラ緋村!何ボーッとしてるのよ!
 さっさとしないとホータイ男逃げ切っちゃうだろ!」


操が言葉を発すると同時に宗次郎越しに剣心から物凄い威圧感のようなものを感じ
操はその場に座りこんでしまうが、宗次郎は表情一つ変えることはなかった


「?」

「な・・・何今の?」

「無駄だよ緋村、その子に剣気をたたきつけてものれんに腕押し
 さっきから斎藤さんがずっとやってる」

「ああ、その男は剣気はおろか、殺気も闘気も持ち合わせちゃいねぇ」

「・・・・・・」

「すいません、早くしないと志々雄さんに追いつけなくなっちゃうんですけど・・・」


にこやかにそう言う宗次郎を見て剣心は逆刃を鞘に収め構えた


「やはりそれだろうな、後の先が取れない相手なら
 己の最速の剣で先の先を取るのが最良策だ」

「抜刀術、ですか。それじゃあ僕も」

兄・・・」

「操には難しいかもしれないけど・・・一流の剣客であるほど相手の攻撃的な気を読んで行動する
 だけど、あの子にはそれが通用しないんだ。なぜかはわからないけど・・・剣気も闘気も感じられない
 まして、相手の心理を即座に読む緋村の飛天御剣流はことさらに動きにくくなる
 斎藤さんのいう後の先ていうのは、相手が動いて先を読む。先の先は自分が先に動いてさらに先を読む
 そうしない限り緋村に勝ちはない・・・・・・(だけど・・・)」



が言葉を切ったその一瞬・・・剣心と宗次郎は同時に動いた
刀と刀がぶつかり合う音、その後───宙に舞ったのは剣心の逆刃
正確には途中から折れた逆刃だった


「・・・(やっぱり・・・・・・剣速は互角だった・・・足りないのは・・・・・・)」

「勝負あり、───かな?」

「ああ、お互い戦闘不能で引き分けってトコだな」

「!!」


驚き刀を改めて見やるとひび割れ刃零れした刀が宗次郎の目に入った


「へえ、こりゃ凄いや。これじゃ修復はもう無理だ。ま、いいやどうせ志々雄さんのだし
 この勝負、確かに勝ち負けなしですね。今日はコレで失敬しますけど、出来たらまた闘ってください。
 その時までに新しい刀、用意しておいて下さいね」


言い終えると宗次郎は階段を降りて行った



「緋村・・・逆刃刀、折れちゃったね」

「志々雄達も逃がしちまったしな」

「コラ!!」

「何、刀はまた作ればいいし、志々雄達もまた追えばいい
 とりあえず新月この村から志々雄一派を退けた、それだけでも良しでござるよ」

「そういう事だ、操は気にしすぎだよ」



にこりと笑う剣心と複雑そうに笑う

この後、栄治の敵騒動に斎藤の嫁騒動など賑やかだったが
の心は霧がかかっていた