辺り一面の炎そして地の底から響くような禍々しい声
はこの悪夢に苛まれていた




05 death -死神- =前編=






いつも目覚めの良いは、ここのところ夢のせいで最悪の目覚めを迎えていた
内容はやはり、あまり覚えていなくて余計に後味が悪い
覚えているのは“炎”そして“異世界”“イルヴァタール”“死神”の言葉と声
後はその声の主にどうやら嫌われているようだ・・・という事くらいである

何故このような夢を見るのか、それはきっとこの世界に自分が来たからだ
それは解かるが、これからどうすればいいのかが皆目検討がつかない
考えても“何か”をするためにこの世界に来たのだろうが
その“何か”というのが解からない


『まぁ・・・解かればこんなに悩むことはないのだろうけど・・・』



呟きながら窓を開けると爽やかな風が頬を掠める、今日も良い天気だ
森だけに少し薄暗いが木漏れ日があちこちから射し込んでいて、光の檻の中にいるようだと思った



『気分転換に鳥寄せでもしようかな』


そう言い一本の木を見据えると、窓に手と足を掛けた












レゴラスはそろそろが起きる頃だと思い、の部屋へ向かっていた
ノックをして声をかけても返事かないことを不思議に思いそっと部屋に入ると
そこには誰もいなかった
湯浴みにでも行ったのかと考え、辺りを見回すと窓が開いていることに気付いた
外から聞こえてくる小鳥の囀りに混じって微かに聞こえる笑い声



・・・?」



窓に近づき声のする方を見ると、少し離れた場所にある木の枝に座っているを見つけた
の周りには小鳥や栗鼠が集まってきている



「この言葉を使うと君達には何を言っているか解かるみたいだね
 あっコラ!何するのっ?この世界でも君達栗鼠は悪戯者なんだからっ
 まったくぅ・・・なんてことするのよ・・・」



言葉とは裏腹に楽しそうな声がレゴラスの耳に届く
どうやら栗鼠達が髪に悪戯をしているようだ



「まるで森のエルフみたいだな・・・」


レゴラスは笑みを零すと窓からひらりと飛び降り、のいる木の元へと向かった

は気配を感じて視線を落とすと、レゴラスが近づいてくるのが判った



「やぁ・・おはよう、

「おはよ、レゴラス」

「そんな所で何をしてるんだい?」

「気分転換に鳥寄せをしていたの」

「そう・・・隣に行ってもいいかい?」

「どうぞ、・・・痛っ」




レゴラスの場所を開けようと身体をずらしたら、髪が引っ張られては眉を顰めた
どうやら栗鼠の悪戯で髪が枝に絡まってしまっているようだ



「大丈夫?あぁ、髪が枝に絡まってしまっているね・・・
 まったく・・・うちの森の栗鼠達は悪戯者だね、じっとしていて?すぐに解いてあげるから」

「うん、ありがとう」



レゴラスが腕を伸ばし丁寧に枝に絡まった髪を解いていく
その間も栗鼠達は木との肩を行ったり来たりしていて
その中の一匹は枝からレゴラスの腕を伝ってその肩にちょこんと座っている
小鳥達は木の枝やの頭上で囀っている



は森のエルフのようだね・・・さ、解けたよ」

「ありがと、エルフなのはレゴラスでしょ?」

「それはそうなのだけど・・・こうして小鳥や栗鼠達がの所に集まっているのをみると
 エルフに見えるよ、それにはエルフの娘達より綺麗だ・・・」

「レゴラスは口が上手いのね、エフィルもそんなようなこと言ってたから
 エルフはみんなそうなのかしら?」

「本当のことなんだけどなぁ・・・」

「褒めても何もでないわよ?」

「それは残念だね」



そう言い笑い合いながらレゴラスはの髪を掬うとその髪も絡まっていることに気付く
よく見るとの肩に座っている栗鼠が髪を弄っている


「こらっ、ほんとになんて悪戯好きの栗鼠達なんだ・・・、綺麗な髪が凄いことになっているよ」

「あら、ほんとだわ・・・仕方のない栗鼠達ね」



あまり気に留めた風でもないにレゴラスは肩を竦める



「さぁ・・の肩からおりてくれるかい?、部屋で絡まった髪を直さないと・・・」

「そうしようかな・・・またね、栗鼠君達」



そう言い栗鼠を肩から枝へ移すと、は立ち上がり跳躍して一足飛びに部屋へと戻る
その身軽さにレゴラスは驚かされた


「・・?!」



エルフがいくら身軽とはいえのように跳ぶことはできない
レゴラスはエルフより身軽なに驚きながらも、の部屋へと向かった




部屋に着くと、絡まった髪に櫛をとおして悪戦苦闘しているがいた
苦笑しながらその手から櫛を奪う


「僕がやってあげるよ」

「オネガイシマス・・・」



恥ずかしそうに俯きながらレゴラスに任せた
はレゴラスに髪を弄られるのは嫌いではなかった
レゴラスもの髪を梳かし弄るのが気に入っていたし、誰にも触らせたくないとも思った
暫く髪を梳いてもらっているとが口を開いた




「ねぇ、レゴラス・・・“イルヴァタール”って何?」

「うん?・・・“イルヴァタール”っていうのは唯一のもの、この世界の守護神“ヴァラール”を創ったもので
 つまりこの世界の創造主のことだよ、で・・“イルヴァタール”がどうしたの?」

「んー、夢で・・・ね・・あまりっていうかまったく良い夢ではないのだけど・・・
 その夢の中で“イルヴァタール”っていう言葉が出てくるの
 あまりよく覚えていないのだけどね・・・ここの所、毎日のように見るの・・」

「そう・・・だから気分転換?」

「そう、気が滅入っちゃって・・・」



エヘヘ・・・と笑いながら舌を出す
レゴラスはのいた国についてはよく聞いていたが
先程のの身軽さを見て、ずっと気になっていた“シニガミ”について聞いてみようと思った


、以前言っていた“シニガミ”ってなに?」

「あ・・・言ってなかったね・・でもレゴラス・・・驚かない?」

「話によると思うけど・・・」

「確かにそうかもしれないけど、きっと驚くし・・・私のこと見る目が変わるかもしれない」

「変わらないよ、じゃないか」

「・・・私が一度死んだ人間だと言っても?」

「え?」



は哀しそうな瞳でレゴラスを見上げ、そしてもう一度言った



「私は一度死んだ人間なの・・・」


「その話、儂にも詳しく聞かせてもらおうかの・・・」

「ミスランディア!?」

「ミス・・・ランディア?」



いきなり部屋に入ってきた灰色の衣を纏った老人に二人は驚く
ミスランディアと呼ばれた老人はニコニコ笑いながら椅子に座る


「久しぶりじゃの、緑葉王子レゴラス。そちらにおるのが・・・じゃの?
 スランドゥイル殿から話は聞いておる、異国から来たとか・・・」

「お久しぶりですミスランディア、そうです・・・彼女がですが・・・
 あ、・・この方はミスランディア・・魔法使いだよ」

「ま・魔法使い?」

「さよう・・・はじめまして・・じゃの、

「あ、はじめまして・・・ミスランディアさん」

「ほっほっ、丁寧な娘御じゃの。ミスランディアと呼んでくれ」

「は・・・はぁ・・・」



ミスランディアはレゴラスに椅子に座るように促してから
の方を向き直り真剣な顔でを見据えた



よ・・・先程扉を叩こうとした時に聞こえてきたんじゃが
 自分は一度死んだ人間だと言っておったな?」

「は・・はい、私は一度死んでいます・・・」

「ふむ・・・一度死んで蘇ったということかの?しかし、儂はそのようなこと聞いたことがない」

「・・・そうで・・しょうね・・・(この人、信じてもいいのかなぁ?)」



が不安そうにレゴラスを見ると、レゴラスは大丈夫とでも言うように微笑んだ
それを見ては心を決めて話すことにした


「きっと私は異国ではなく、異世界から来たのだと思ってます」

?」



驚いて立ち上がろうとするレゴラスにミスランディアは眼でそれを制し、続きを促した



「私は人間ではありません、人間ではありましたが・・・今は『死神』と言われています」

「“シニガミ”とな・・・?」

「はい、私の世界では人は死ぬと肉体を失い魂だけの存在になります
 そしてその・・『霊力』・・・えと・・魂の力のようなものです、それがあると『死神』になれます」

「なれる?」

「そうです、誰しもが死ねば『死神』になれるのではなく・・・その力・・潜在能力がある者だけが
 『死神』になれるんです・・・そうでない魂は一定の期間『尸魂界』という場所に留まり
 輪廻の輪に戻ります・・・私達『死神』はその『現世』・・・人間の生活している所に
 魂を迎えに行くのが仕事です・・・」



は“死神”という言葉をエルフ語にして話していいのか判らなかったが
エルフ語に日本語を混ぜて話すのが面倒になってきた


「あの・・・『死神』をエルフ語にすると・・・“死神”になります・・・」

「なんと・・・!!」

「なんだって!?」



は悲しそうに俯く、自分の世界でも死神という言葉に良い印象はない
この世界でもきっとそうなのだろう


「ふむ・・・、顔を上げなさい。驚きはしたが・・・お主が死神であったのは
 お主の世界でのこと・・・それに、死した魂を迎えにいくのが仕事であろう?
 人を死に導く・・・この世界での死神ではない」

「・・・はい・・ありがとうございます・・・」


レゴラスはミスランディアの言葉にはっとして
先程が言っていた言葉を思い出した「私のこと見る目が変わるかもしれない」
自分は何と答えた?そうだ・・・じゃないかと・・・
を見ると不安そうな目でレゴラスを見ていた
レゴラスが微笑むと、安心したように微笑みを返してくれた





     =後編=へ