【光秀】
が戦局を見守る中、三成は天王山を降り、そのまま中央へと向かっていた。
その道中に左近と遭遇する
「左近・・・といったな?援軍は貴様の差し金か?」
「だとしたら何だい?その礼に城でもくれるのかい?」
「・・・報いよう、いずれな」
そう言い、三成は馬首を返し中央へと駆けて行く
その背中を見送った左近は苦笑を浮かべる
「石田三成・・・口は悪いが噂以上の切れ者とみた・・・。
ま、仕えたいと思うような代物じゃないがね」
そう呟くと斬馬刀を担ぎなおし、馬を走らせた
その頃、勝竜寺では、明智軍が退路を守りきり羽柴軍は撤退を余儀なくされた。
「むぅ・・・さすがに一筋縄ではいかんのう・・・ん?三成が中央を突破したか!
今が好機!全軍進め!敵の本陣を落とすんさ!!」
乱戦を極める中央を抜けた三成は明智軍本陣へと踏み入った
光秀を守る旗本達、その奥の敵総大将を見る
「貴殿の道理に合わぬ所業、ほとほと閉口する」
「あなたも、いずれ知るでしょう・・・理に人の本質は無い
理で割り切れぬ力で人の心は動いているのです・・・!」
「フン、これ以上の問答はするだけ無駄、という事か・・・」
ぱしり、と鉄扇を握り直し、戦闘体勢に入った時、自軍総大将 秀吉が到着した。
「光秀ぇぇぇぇ!信長様の仇、取らせてもらう!!」
「秀吉様・・・っ」
三成は身を退き、光秀への道を秀吉に譲る
「信長様の仇・・・か、その業も天下も私は背負わねばならないのです・・・!」
「やっかましぃぃぃぃっっ!」
「光秀様!!」
秀吉の行く手を阻むべく旗本達が詰め寄るが、それを三成が打ち伏せる
「秀吉様!」
「すまん、三成!」
総大将同士が立ち会う中、明智軍本陣に羽柴軍がなだれ込み
自軍総大将を守らんと、明智軍も奮い立ち、再び乱戦となるが
敗戦色濃い明智軍の将は光秀に撤退を進言する
「身は惜しまぬ・・・志を・・・」
「なりませぬ!光秀様!!」
闘う姿勢を見せる光秀を宥め、勝竜寺へと撤退を促す旗本達は血路を開いた
─────勝竜寺
「ここは我らが守ります。光秀様はお早く・・・!」
「・・・ですが・・・っ!」
「お急ぎください!」
辛うじてついてこれた旗本数人が光秀を誘導し、勝竜寺の裏手から森に入る
馬も無い、徒歩で道なき道を進む光秀。その姿を視界に入れたはほっと一息つき、気配を殺し近付いた。
「明智光秀様、ですね」
「何者!?」
木陰からが声を発すれば、旗本達は光秀を守るように囲み刀を抜く
・・・が、強い風が吹いたその一瞬、ふらり、とよろめき次々と倒れる
「・・・っ!?」
「もう一度お聞きします、明智光秀様ですね?」
「・・・・・・いかにも」
「この方達を殺してはおりません、ご安心を・・・」
「何者です?」
ふわりと微笑い、光秀に視線を向けるを訝しげにみる光秀
今だ警戒し、殺気を廻らせている
「ある方の言葉を伝えに参りました」
「ある方・・・?」
「はい、貴方様に以前言われた言葉をお返ししたいと・・・」
「・・・?」
眉を顰める光秀の近くへ歩み寄り、片膝を着き見上げては口を開いた
「『生きてください』と・・・」
「・・・っ!ま、まさか・・・」
驚きに目を瞠る光秀に、こくりと頷きさらに言葉を紡ぐ
「己に『生きてください』と言ってくれた光秀様に『生きてほしい』と言いたいと・・・
今はただの『長政』という方が、ただの『光秀』という方に伝えたい言葉です」
「長政・・・殿・・・・・・」
「全ての手筈は整っております。後は貴方様のお心ひとつ」
「私・・・・・・私は・・・ここまでついてきてくれた家臣を見捨てるわけには・・・っ」
「そのお気持ちもわかっております。・・・ですので、一筆認めて頂きたく・・・」
「何を・・・しようというのです?」
光秀の心が傾いてきているのに気付いたは立ち上がり、ニッと笑うと指を鳴らし源治の手の者を呼び寄せる
現れた男の腕には光秀の首が抱えられている
「なっ・・・っ」
「首級と助命嘆願書を羽柴軍へ」
「秀吉殿がそれを聞き入れると・・・?」
「はい、・・・きっと・・・これより先、まだ乱世は続きます。武将及び兵を失うわけにはいきませんから」
「・・・なるほど・・・ですが、考えが甘いのではありませんか?」
「そうですね、そうかもしれません。でも、俺は長政兄さんの願いを叶えたい」
「兄さん?」
「えぇ、行くあても無い俺を拾ってくれた・・・家族になってくれた、大切な兄です」
ふわりと笑み、瞳を閉じるを見て、光秀も警戒を解く
「・・・解りました。」
「では・・・」
「えぇ・・・長政殿の元へ参りましょう。時代の風はもはや私にはない。
私もただの『光秀』としてあの方の変わりにこの世の先を見届けましょう・・・」
は光秀の答えを聞くと、指を咥え大きく息を噴出した
「?」
一瞬の間をおいて、光秀の前に源治が現れた
「お久し振りでございます、光秀様」
「そなたは・・・源治?」
「は・・・これよりは私が光秀様を長政様の元へご案内いたします」
「あなたは・・・どうされるのです?」
「俺は・・・まだやらねばならない事があります。それが終わりましたら、長政兄さんの元へ帰ります」
「そうですか・・・」
別れの言葉を交わし、光秀の認めた書と、鎧通しを受け取り
それを源治配下の男に渡すと、その男は影のように消えた。
源治がどこからか馬をひいてきて光秀に乗るように促す
馬上の人となった光秀を見上げ、は口を開く
「では・・・また・・・」
「えぇ・・・あ、あなたの名を教えてはもらえませんか?」
「・・・です」
「・・・殿、必ず長政殿の元でお会いしましょう」
「・・・っ、はい!」
は蹄の音がが聞こえなくなるまで光秀の向かった先を見つめていた。
暫くすると、明智軍の後続の気配が近付いてくるのに気付き
はすばやくその身を隠す
倒れている旗本達の側近くにはいつの間にか用意されていた首級のない光秀の体が置かれている
その体の上には光秀が認めた家臣への書が残されていた
「(さすが源治さん、抜かりないなぁ)」
あたかも切腹をした形で遺された体を囲み、泣き崩れる家臣
旗本達も意識を取り戻し、光秀からの最期の書に涙した
信長様・・・あなたの最後の言葉、私には聞き取れなかった・・・。
だが、今なら、あの方の生き様が分かる気がします。ただ、天命を貫くため、私は・・・生きる!

