第三番 安らぎを君に・・・







が目をあけるとそこは見た事もないような煌びやかな部屋だった


『ここは・・・現世?それとも・・・』



とりあえず腰に挿してある斬魄刀を抜き払い
尸魂界への道を開いてみる


『開錠・・・っ』


なんの変化もみられず唖然としてしまう


『嘘・・・・・・本当に時空を渡ってしまったの?』



呆然としているの後ろからはっきりとした声が聞こえてきた



「起きてください、よ・・・お願いです・・・・・・起きてくださいっ」

「L・・・彼女は、もう・・・・・・」

「嫌ですっ・・・認めません、認めたくありません・・・っ」



低めのハスキーな声と年配の男の人だろう柔らかな声だった
その声に弾かれる様に振り向いたの視線の先にいたのは


『え・・・Lとワタリ、さん・・・?』


そしてよく見るとLであろう青年の腕の中に自分の姿が見える


『んなっ!?・・・あっ、私の義骸!!
 って・・・・・・普通の人間が見たら・・・ただの死体じゃないっ』


慌てて近寄りLを見てぎょっと目を瞠った
なぜならLは大きな瞳からボロボロと涙を零していたから


『なん、で・・・泣いてるの・・・?』


がそっと近付けばLを暖かい雰囲気が包む
Lはそれに気付いて驚いたように顔をあげ辺りを見回す


『相変わらず感受性豊かだね・・・』


そう言いながら義骸に入り込むとゆっくりと瞼をあげた
それを見て驚いたのはワタリだった



「な・・・っ、え、L・・・」

「え・・・?          っ!!」


ワタリに呼ばれ視線を向けると、自分の腕の中にいる女性を凝視しているから
つられるように視線を戻せば菫色の瞳がLの視線を迎え入れた
大きな瞳が瞬きも忘れて自分を見ている、は困ったように微笑い
涙に濡れるLの頬を着物の袖で拭った
Lはビクリと身体を強張らせるがから視線を外せないでいた

着物越しに感じるLの暖かい体温に頬を緩め
体重を預けていた身体を起こし、Lと向かい合うように腰を落ち着ける
今だLとワタリは信じられないと言わんばかりに固まっている



「え、えと・・・はじめ、まして・・・かな?」

「・・・・・・」

「あの・・・?」


自分を見つめピクリとも動かないLに
はどうしていいかわからず、おずおずと見開かれている大きな瞳を覗きこむ
それにLは漸く反応してそっとの頬に触れる

掌に微かに伝わる温もり
先ほど自分の背筋を凍らせた冷たさは僅かながらなくなっていた


「生きて・・・いる・・・」

「えと・・・・・・っきゃ・・・」


頬に触れていた手をの背に回し
再びLは自分の腕の中に抱き込む
まるで自分の体温を分け与えるかのように

いきなりのLの行動には身を固くして混乱を極めるが
Lの身体が微かに震えていることに気付く



「・・・良かった・・・・・・良かった、です・・・」


身体全体で感じるLの温もりには身体の力を抜き
ゆっくりと震えるLの背中に腕を回し子供をあやすように撫でた

それを見ていたワタリは色々と気になる事があるが
とりあえずLは落ち着きを取り戻したのだと考え、危険はまずないだろうと判断し
目の前の不思議な女性にお茶を用意しようとその場を離れた


暫くの間、Lの背中をポンポンとあやしていた
肩に重みを感じると、規則的な呼吸が耳を擽った



「L・・・?寝ちゃったの?」


そっと身体をずらすとズルリとLの身体がソファから落ちかける
慌てて体勢を立て直して自分の膝の上にLの頭を載せる

涙の痕が残る頬を軟らかく拭い無防備に眠るその姿には苦笑する


「どれだけ成長してもこの姿だけは変わらないなぁ・・・」


見た目とは違う柔らかな黒髪を梳いていると
新しいティーセットを持ったワタリが入ってきた



「おや・・・」


ワタリに気付いたは人差し指を口元に持っていき困ったように微笑った
ティーセットをテーブルに静かに置き
無防備にの膝に頭を預け眠るLを見てワタリは瞳を軟らかく細めると
部屋を出てブランケットを持って再び戻って来た

ふわりとLにブランケットをかけると
に紅茶を淹れ薦める



「あ、ありがとうございます・・・えと・・・・・・」

「ワタリ、と申します」

「はい、ワタリさんですね。私は・・・」

「いえ、Lが起きてからでかまいません
 何よりも貴女の事を知りたいのはLですから
 私が先を越すわけにはいきません」

「そ、そうですか・・・」


ホッホッと朗らかに笑うワタリにも笑みを零す

薦められるまま紅茶を一口含み、ほっと一息ついた所で
は思考を巡らせた


『私・・・何でLとワタリさんの事を知っているの?
 二人の関係も知ってる・・・でも、どうやってそれを知ったの?
 記憶があやふやになってる・・・まさか、時空を渡った時の影響!?』


「どうかなさいましたか?」

「いえ・・・」



ティーカップを持ったまま黙り込んでいると
もぞりと膝の上でLが動く


「う・・・ん・・・」


ころんと寝返りをうち、のお腹に顔を埋めるように腕を腰に回し
擦り寄るLには固まってしまう


「うぇ・・・っ!?や・・・あ、あの・・・」

「ほっほ、Lのこのような姿は見た事がありません」

「や、笑い事ではないです・・・」

「もう暫く眠らせてあげてください、ここの所あまり睡眠をとっていなかったもので」

「は、はぁ・・・(やっぱり、あんまり眠らないんだ・・・・・・やっぱり?)」



たいした会話もなくほのぼのと時間が過ぎていく
Lが眠りについてからどれくらいの時間が経ったのか
窓のからは星空が覗いている



「そろそろ夕食の時間ですね・・・ご用意いたしましょう」

「あ、お構いなく・・・」

「いえ、そろそろLにも起きていただかなくてはいけません」



ワタリはにこりと笑い、に抱きついているLを揺り起こす



「L・・・そろそろ起きてください、L・・・」

「ん・・・ワ、タリ・・・?」

「彼女から離れがたいのは解りますが・・・」

「彼女・・・?・・・・・・っ!!」



一気に覚醒したLはがばりと起き上がる
その拍子にと至近距離で見詰め合う事になる


「〜〜〜〜〜〜〜っ、す、すみませんっ
 私、いつの間に・・・眠って、ワタリっ何故起こしてくれなかったんです!?」

「あ、私がそのままにってお願いしたんです」

「え!?あ、あのっ」

「落ち着いてください、大丈夫ですか?」

「は、はい・・・だ、いじょうぶ・・・です」


わたわたとから離れソファの上に膝を抱えて座りなおす


「さて、夕食はこちらのメニューからお選びください」


はワタリから手渡されたメニューをみて絶句した
そこに書かれていたものは日本語ではなかったのだから



「・・・・・・すみません・・・あの、これ・・・私、読めません・・・」


しゅんと肩を落としている
「では、日本食をメインに注文いたしましょうか」とワタリは微笑み
Lに視線をむける


「私は甘いもの「Lも同じものでよろしいですね?」・・・いや・・・」

「よろしいですね?」

「・・・わかった」



今のやり取りで二人の力関係を垣間見ただった

ワタリがルームサービスを注文している間も
Lは落ち着きなくちらちらとを見て口を開こうとするが
言葉がみつからないのかすぐに閉じてしまう
そんな姿を見てはくすくすと笑いを零してしまう



「笑わなくてもいいじゃないですか・・・」

「ごめんなさい、L」


なおも笑うにLは拗ねたように唇を尖らせふいと横を向いた


「・・・名前・・・・・・」

「え?」

「名前を教えてください、貴女は私の名前を知っているのに・・・ずるいです」

 です」

、さん・・・」

でいいですよ、それと・・・ここは日本じゃないのですか?」

「ではと呼ばせていただきます
 それから、ここはパリ。国で言うとフランスですね」

「ふ、フランス!?」

「はい、フランスです。はやはり日本の方なんですね」

「ええ・・・」


「「・・・・・・・・・」」


黙り込んでいる二人にワタリは微笑みながら紅茶を淹れる


「まもなく食事が届きますので
 お話は食事の後になさってはいかがですか?」

「そうですね・・・色々聞きたい事がたくさんありますし」



Lの言葉には自分の事をどこまで話しべきかと思考を巡らせるのだった
















食事を済ませ一息ついてからは口を開いた


「まず、私はこの世界の者ではありません」


その言葉にLとワタリはありえないというような顔をした
それを見ては『いきなりすぎたかな』と苦笑する


「ええと・・・どう説明したらいいのかな
 並行世界、並行時空と言えばわかるでしょうか?」

「パラレルワールドという事ですね、俄かに信じ難いですが」

「はい、私もここに来るまではあまり信じていませんでした
 でも、ここに来る事ができた・・・その切欠は貴方なんですよ、L」

「私、ですか・・・?」

「ええ、私というか私の思念体のようなものですが
 何度も貴方に会っています、貴方は覚えてはいないかもしれませんが・・・」

「いえ、覚えていますよ。はっきりと・・・とは言えませんが・・・」



懐かしむように眼を細め微笑むを見てLの鼓動が速まる


「!?(な、なんですか・・・この動悸は)」

「どうか、しました?」

「いえ・・・話を続けてください」

「えと、それでその事を私の上司二人に話したんです
 そのお二人はその・・・なんと言いましょうか、とんでもない事を考える方達で
 並行世界の仮説を言い出したのもそのお二人なんですが・・・
 造り上げてしまわれたんですよ」

「何を・・・?」

「私がここに現れる事になった原因・・・時空転移装置というものを」

「は・・・?」

「造っただけだったらよかったんですが
 造ったからには実験をしないと、とか言い出して
 思念体だけでも時空を渡った可能性のある私を実験台に・・・」

「それは・・・また「いや、解りますよ。発明者というものはそういうものです」


Lの言葉をさえぎるように口を開いたワタリ、何故かうんうんと頷いている


「「ワ・・ワタリ(さん)・・・?」」

「しかし時空転移装置とは、さんの世界は随分と科学が発達しているようですな」

「いや、そうでもないと・・・思います。あのお二人が特殊なんです」


Lとの脅えた顔に微笑みを向けてワタリは何事も無かったかのように紅茶を淹れる
それを受け取りは喉を潤して話しを進める


「それで、あのお二人の思惑通りここに現れたんですが・・・」

「何か問題でも?」

「大有りです。確かに実験は成功しました・・・が、その事をあちらの世界にいる
 お二人には判らないしそれを伝えることもできない
 そしてここが最大の問題なのですが・・・私、帰れません」

「「は?」」

「時空転移装置はあちらの世界にはありますが、ここにはありません
 必然的に私はこの世界に留まるしかない・・・これから考えなくては・・・っ!?」


は何かを感じ取ったのか急に言葉を切って身構えると
すぐ後ろからドサッゴトンと何かが落ちる音が聞こえた
驚き振り返るとそこには大きなトランクが一つ


「・・・これは・・・・・・月下美人の印(喜助印)・・・局長?」


おそるおそるトランクを開けると、中にはの着替え一式
その他、色々と小道具やら何やらが入っている
そして一通の手紙


『 さんへ
 無事に目的地に着いてますよね(アタシとさんの共同作品に欠陥はありませんから)
 頭のいいさんのことです 解っているとは思いますが
 今現在こちらに帰る手立てはありません 装置はこちらに一台しかないっスから
 さんを迎えに行くにしても、持ち運びのできる装置を造らないといけないんス
 それを今から造るわけなんですが・・・けっこう時間がかかりそうなんで
 思う存分そちらの世界を満喫してください
 何かと必要になると思いましたので喜助印の小道具を色々と用意しました
 このトランクには霊子変換機能をつけておきました役立ててください
 とりあえず、お迎えに行くまで頑張ってくださいねん     喜助

 運命は貴女次第でどうにでも変えれることを忘れないで
 しっかりとやりなさい。こちらの心配はしなくても大丈夫よ安心して      』


その手紙を握り締めふるふると震える


「あの・・・大丈夫ですか?

「え、ええ・・・大丈夫、です・・・・・・ふ、ふふ・・・なんって無責任な上司なのかしら
 あの二人が何を考えているのか解らない・・・てか解る人はいるのかしら?
 そんなことよりこれからどうしようか・・・」



ぶつぶつと独り言を言う
その言葉の端々を聞き取ってLは口角を吊り上げる


「行く所がないんですよね?」

「はい?」

「ですから、行くところがないんですよね?」

「え、ええ・・・そうですけど・・・・・・まぁ、なんとかするしかないですね」

「なんとかって・・・なんともなりませんよ?」


の言葉を聞いて眉を顰め、ガリっと爪を噛む

Lはに自分の傍にいて欲しいと思った
何年も探し続けて、会いたいと思い続けて、漸く会うことができたのだ
暖かい温もりと安心感を与えてくれる
帰ることができないと聞いた時、不謹慎かもしれないが嬉しかった
例え帰ることができたとしても帰したくない・・・
Lが始めて心の底から欲したのはだった



「や・・・なんとかするしかないですから」

「ここに・・・いえ、私の傍に居ればいいんですよ」

「は?」

「ですから、私の傍にいてください」

「え、でも・・・」

「私がに傍に居て欲しいんです
 が傍に居てくれると私は何故か安らぐことができるんです」


Lの直球的な言葉には頬を赤らめる

これ以上迷惑をかけて世話になるわけにはいかないと渋る
Lとワタリの二人は言葉巧みに丸め込んだ





『そういえば・・・さんの運命は私次第で変えることができるっていう言葉・・・
 誰の運命?私の・・・?それとも・・・私は何か大切なことを忘れているんじゃ・・・』



そう考えつつも自分が傍に居ることでLに安らぎを与えることができるなら
彼の傍に居ようと思うのだった