【告白】
「緋村、、桂先生が戻られた。話があるそうだから
長州藩邸へ来いとの事だ、俺達も行く。」
「はい」
「解った・・・」
師走も半ばを過ぎた日の事だった
急な召集に剣心とは顔を見合わせて言われた通り長州藩邸へ向かった
桂の話はこうだった、『王政復古の大号令』が発せられて
それに異を唱える公議政体派との争いが日毎に大きくなり
近々幕府軍が京都に攻め入ってくるだろう。それに備えて
薩長軍は伏見の御香宮に屯所を構える事になったと
屯所へは日替わりで詰めるようにとも言われた
更に西洋から仕入れてきたという新式の装備について
それに関しては、剣心もも関心はなく
常日頃から扱いなれている刀を使うとその場を辞した
「戦かぁ・・・去年の第二次長州征伐には行かなかったけど・・・
今回は大きくなりそうだねぇ・・・」
「あぁ・・・」
部屋に戻り、は火鉢に火を熾し掻巻を肩に掛ける
火鉢の周りが次第に暖かくなり炭の弾ける音だけが部屋に響いた
剣心は何かを考えるように障子を開け外を見ている
「・・・また・・・沢山の人が死ぬんだね・・・そして、沢山の人を斬る事になるんだね・・・」
「・・・あぁ・・・」
「今、俺達のやっていることは・・・昔の徳川家のやっていたことと同じような気がするんだ
なんとなく・・・だけどね。武力を持って事を成し遂げようとする・・・」
「しかし・・・その先には・・・」
「うん・・・四民平等・・・それが徳川との違い。歴史が変わる時には多くの血が流れる
って言うけど・・・本当にそうだね・・・」
「そうだな・・・なぁ、・・・」
「なに・・・?」
剣心はの隣に腰を下ろし、冷えた手を火鉢に翳す
「・・・・・・俺は、多くの人間を斬ってきた・・・遊撃剣士となる前は・・・」
「・・・知ってる・・・」
「そうか・・・」
「ん・・・俺も・・緋村と同じようなものだよ。俺が初めて人を斬ったのはね・・・
十にもなってない時だったよ。今でも覚えてる・・・
父上は城を出る代わりに隠密の諜報をやっていたんだ
それに初めて付いて行った時だった、初めて尽くしだったよ
それからかな、人を斬っているときに自分が解らなくなる時があった」
「・・・?」
「修羅道に堕ちたんだろうね・・・それか狂気に憑かれたんだと思う
それが、緋村と一緒に闘っている時は違うんだ。
ちゃんと己を保っているんだ・・・驚いた。緋村も・・・あったんじゃない?
自分が解らなくなった事・・・」
「あぁ・・・暗殺をしていた時は毎日だった・・・・・・」
ぱちん と炭が弾ける
剣心は朱くなっている炭を見ているようで、どこか遠くを見ている
『私があなたの狂気を収める鞘となりましょう・・・ 』
「・・・(巴・・・)」
「緋村?どうしたの?」
「え・・あぁ・・・すまん・・・」
「・・・きっとさ、俺と緋村が似てるんだよね。俺が思うには・・・
俺の狂気と緋村の狂気が相殺しあってるんじゃないかなぁ
って思うのは俺だけかもしれないけど・・・」
「相殺・・・そうかもしれないな・・・俺達は似たもの同士か」
「そうだよ、きっと・・・」
へへっと笑いながら立ち上がり、部屋に戻ってきた時に頼んでおいた
酒が廊下に置いてあったのでそれを持って元の位置に座る
「、お前・・・」
「たまには、いいだろ?」
「・・・ほどほどにな・・・」
燗を付けてあったであろう酒は、少し冷えていてには丁度良かった
剣心もから酌を受けて酒を煽る
「似たもの同士、という事は・・・考えている事も同じなのかもな」
「え?」
「俺は、この戦いが終わったら・・・刀を置こうと思っている・・・」
「そっかぁ・・・俺は・・・刀を置く気はないよ。だけど・・・ここを離れようとは思ってる」
「・・・そうか・・・なら、俺と一緒に・・・」
「駄目だよ緋村・・・」
剣心の言葉を遮るようには言った
きっとその言葉の先は自分にとって嬉しい言葉
しかしの迷いが頭の中で警報を鳴らす。聞いてはいけないと・・・
「、聞いてくれ・・・俺はお前が」
「駄目なんだ・・・緋村・・・その先の言葉は聞けない・・・聞きたくないんだ・・・
俺は過去の人間だ、いつか元の時代に戻る日がくるかもしれない
緋村の言葉を聞いていたら・・・俺は耐えれない。俺・・・きっと駄目になる・・・
ごめん・・・弱くて・・・ごめん・・・」
「・・・っ、・・・・・・もしお前が元の時代に戻ったとしたら、俺も耐えることはできない
そして、自分の想いを告げていないことを後悔するだろう・・・」
は溢れる涙を剣心には見せまいと、膝を抱え顔を埋める
そして、剣心の言葉を聞いて数日前に桂の恋人である幾松に言われた言葉を思い出した
『先の事を恐れていたって仕方ないんだよ
今を見る事が大事なんじゃない。迷いを断ち切れって言ってる訳じゃないんだよ
自分の気持ちに素直になるんだ、いいかい?決して後悔するような恋はしちゃいけないよ
それにしても・・・あんた、女の子だったんだねぇ・・・あの人は知ってんのかい?』
考え事をしながら歩いている所を幾松に拾われた事が始まりだった
ついには女であることまでバレてしまった。誰にも言わないと約束をして
相談に乗ってもらった、母や姉がいればこんな感じなのかな・・・と少し嬉しくも思えた
膝に顔を埋め、肩を震わせているを剣心はそっと抱き寄せた
は抵抗することもなくされるがままに剣心に肩を預ける
「・・・・・・」
ふいに呼ばれたその名には顔を上げると、剣心の優しく微笑む顔があった
その表情に、瞳にの胸は締め付けられ更に涙が零れる
すこし強引に剣心が抱き寄せればは頭をその胸に押し付けるように泣いた
「ごめんなさい、ごめんなさい・・・」と泣きじゃくるの頭をゆっくりと撫でていると
暫くすれば整った寝息が聞こえてくる
剣心は壁に背中を預け、胸に抱いているが寒くないように掻巻を掛けなおす
の言っている事が解らない訳ではない
自分とて同じ気持ちだ、いきなりが目の前からいなくなったら自分はどうする?
いや、自分はどうなる?もう二度と失いたくないと思うのに
何も出来ないでいる自分が歯痒い。
それとは別に、やはりも自分の事を好いていてくれたのだと嬉しく思う
愛しさが増していく・・・どうすればは安心できる?どうすれば・・・いい?
『『抱き締めてあげて・・・』』
「え・・・?」
急に頭の中に響いた声に驚くが
その声は巴の声ともう一人、聞きなれない男の声が混じっていた
「あぁ・・・そうか・・・抱き締めればいいのか・・・・・・
そしていつもが俺の傍にいてくれるように、俺もの・・の傍にいればいいんだ・・・」
そう呟くと、自分の胸にその身を預けて眠るをぎゅっと抱き締める
結い紐を解き髪を下ろせば髪が顔にかかり、くすぐったいのか身を捩るに笑みを零すと
頬にかかっている髪を払い除け、そこに唇を落とした
『・・・ 、人が天から心を授かっているのはね・・・
人を、誰かを愛するためなんだ・・・迷わないで、自分の心をしっかり見つめてあげて・・・
自分の心を見つめる事ができるのは、自分だけなんだよ・・・』
ゆらゆらと微睡んでいたは、大きく弾ける炭の音で目が覚めた
「し・・・ろう・・・?」
夢に現れたのはかつて恋をした四郎だった
変わらない微笑、優しい言葉。もう一度人を愛せと自分の心に正直に生きろと言っていた
今、自分を包んでいるのは初恋の人ではなく
現在いま恋をしている愛しい人・・・幾松にも四郎にも言われた言葉
『自分の心に素直になれ』
しっかりとその言葉を噛み締めると、不思議と迷いは消えていく
納得したように微笑むと、は剣心の胸に頬を寄せた
「あったかい・・・でも、やっぱり・・・男の人、なんだなぁ・・・堅いや・・・」
「・・・当たり前、軟らかい胸板の男がいないとは言えないが・・・な」
「ひゃ・・・っ、起きてたの?」
「いや、今起きた・・・」
ぽき・・・と首を鳴らす剣心には今の状態を確認すると
真っ赤になって剣心から離れようとするが、剣心はそれを赦さない
「ひ、ひひひひひ緋村?」
「お前、吃り過ぎ・・・俺は、お前を、離すつもりは、ない」
きっぱりとに言い聞かせるように言葉を区切りながら言い放つ
剣心もまた、夢を見ていた。夢の中でかつて愛した人が微笑っていた
剣心はほんの少しだけ赦されたような気がした
たとえそれが間違いであったとしても、自分はの傍にいたいと思った
「俺は・・・お前を失いたくない・・・失いたくないから・・・護りたい・・・・・・」
「・・・嫌だよ・・・」
「?」
「嫌だよ・・・護られるのなんて、俺だって・・・私だって、緋村を失いたくない・・・
緋村を護りたい・・・だから・・・っ、二人で・・・護っていこう?」
剣心を見上げる瞳はふたたび涙で濡れている
紅潮している頬にそっと手で触れれば、嬉しそうにその頬を摺り寄せてくる
「・・・これからもずっと傍に・・・」
「はい・・・・・・」
優しく抱き寄せ、柔らかなの唇に自分のそれを重ねる
甘美な口付けは酔うように何度も何度も繰り返された
「ひ・・・む、ら・・・」
「剣心、だ」
「剣心・・・?」
「・・・せめて二人でいる時は名前で呼んでくれ・・・」
もう一度唇を重ねると、剣心はちゅと音を立てて唇を離した
それに恥ずかしそうに頬を染めて瞳を伏せる
「・・・、ひょっとして・・・初めて、だったとか?」
「煩いっ、緋村の馬鹿 !!」
夜中にも関わらず大暴れするの姿があった・・・
仲間達はそれを珍しそうにはたまた嬉しそうに見物に来たとか・・・


前回のあとがきはなんだったんだ!?
という突っ込みはなしの方向で・・・(汗
前回から二週間程時間が経っています(言い訳)
桂小五郎の恋人の幾松姐さんとの話を書こうかとも思ったんですが
ま、いっかぁ〜と今回のお話になりました
次回は鳥羽伏見の戦いです・・・戦闘シーン苦手なんだよなぁ・・・
その前に晴れて両想いになれた剣心の理性やいかに!?ってところですね(笑
お久し振りの羅刹用語
【王政復古の大号令】
天皇親政、神武創業への復古を旗印としたもので
幕府、摂政、関白など従来の職を廃し、総裁、議定、参与の三職が置かれた
政権交代の宣言。だが、同じ日の夜の子御所会議において慶喜の辞官のうえに
領地返上までが強引に決定された事は、幕府から身包みを剥ぐに等しく
幕臣の怒りは収まらず、翌月には鳥羽伏見において戊辰戦争勃発を招いた。
【公議政体派】
大政奉還後出された政案の一つで徳川家・旧幕府を諸侯の一つとしてのこしたまま
これを含めて列藩同盟政権を作ろうという一派。土佐藩を中心に尾張、越前、芸州藩などで構成
ちなみに、この際幕府の旧勢力を排除し、武力で徹底的に打倒しようとする一派が薩長倒幕派
【掻巻】
掻巻布団ともいわれています
着物の形の掛け布団で綿がいっぱい詰まっていてとても暖かいんだそうです