【迷い】
傷の具合も良くなりは剣心から外出の許可を貰うことが出来た
市中を抜け、やって来たのはある神社の境内
辺りの木々は鮮やかに色を変えている
「『いにしへも かくやは人の まどひけん 我まだ知らぬ 篠の目の道』
(昔の人も、このようにして恋の道に迷ったのでしょうか
私もまだ知らない恋の道です)・・・か・・・まったくだ・・・」
「そう歌ったのは『夜叉姫』か?」
「土方さん!?」
かさりと落ち葉を踏んで現れた土方には驚きを隠せない
土方はふ・・・っと笑みを零しての隣に立つ
「久し振りだな、斉藤にやられた傷はどうだ?」
「はぁ・・・良くなりましたよ。緋村から外出許可が出るくらいには」
「はぁ?・・・・・・過保護だな・・・」
「まったくです、緋村は俺の事をなんだと思ってるのか・・・そんなに軟じゃないのに・・・」
口を尖らせるに土方は苦笑すると、さらにの口が尖る
「お前さんが心配なんだろ・・・で、緋村は知ってるのか?」
「あー・・・、バレました。っていうか、土方さんはなんで気付いたんです?」
「あ?・・・勘に決まってるだろ、なんとなくだ」
「・・・そうですか・・・・・・」
・・・と、と土方が神社の境内で話している時に、また別の場所
鴨川の河原で剣心は物思いに耽っていた。
「・・・はぁ・・・・・・」
あれから変わらない日常、変わらない関係・・・・・・
自分はは一体どうしたいんだろう・・・
はっきりとした言葉をの口から聴いたわけではないが
自惚れてしまいたいと思う自分がいる
それに歯止めをかける自分もいる
かつての妻を己が手で斬り、数多の人を斬ってきた
そんな自分が幸せになんてなれる筈がない
幸せになんてなってはいけない・・・
だけど想いは募っていって、剣心の思考は堂々巡りだった
「・・・はぁ・・・っ・・・」
「溜息ついてると幸せが逃げちゃいますよ?」
「・・・沖田・・・」
「浮かない顔してどうしたんですか?
それに、君が一緒じゃないなんて珍しいですね」
「・・・別に・・・あんたこそ、こんな所で油売っててもいいのか?」
「今日は非番なんです。トシさんもどっか行っちゃうし・・・見かけませんでした?」
「いや・・・・・・はぁ・・・っ」
溜息をつく剣心に沖田は微笑みながら閉じかけた口を開いた
「『しれば迷ひ しなければ迷わぬ 恋の道』・・・ってやつですね?」
「な・・・っ、・・・・・・それは俳句か?」
「そうですよ、まぁ・・・これを詠んだ人は緋村君も良く知ってる人ですよ」
「・・・?」
「やることはやってるのに、結構純情なんですよ。その人」
悪戯っぽく笑うと、沖田は踵を返しその場を後にした
残された剣心は頭の中に疑問符がたくさん浮かぶが、沖田に言われた事を思い出した
「しれば迷い しなければ迷わぬ・・・か、その通りだな・・・」
朱く染まりだした空を見上げて、零された溜息はその空に吸い込まれていった
『やることはやってるのに、結構純情なんですよ。その人』
「 っくしゅんっ」
「・・・風邪ですか?土方さん」
「いや・・・どうせ沖田あたりが噂してるんだろうよ」
「あぁ、そうかもしれませんね・・・」
大きなくしゃみをした土方には笑い
笑われた土方はの頭を軽く小突く
「・・・で、さっきのは自作か?」
「いえ・・・母上が詠ったんです、父上に一目惚れだったそうです
まぁ・・・あの歌は父上に贈ったものではありませんが・・・」
「ほぉ・・・、その歌を今詠ってるってことは・・・誰かに恋でもしているのか?」
「さぁ・・・どうでしょうねぇ・・・」
「はぐらかすなよ、・・・緋村 抜刀斎か・・・」
「嫌だな、なんでそこに緋村がでてくるんです?」
「違うのか?」
土方の問いに動揺するは、その動揺を悟られまいと平静を保つが
その瞳の奥で揺れるものを土方は見逃さなかった
「大当たり、だろ?」
「違うとも、当たりとも俺は言いませんよ」
「つれない奴だなぁ・・・まぁ、色恋ってぇのは迷うもんだと思うぜ
迷いに迷って、真実を見つける・・・それが色恋の醍醐味ってモンだ」
「・・・土方さんは大人ですね・・・俺、まだ十六ですよ」
「おっ前・・・そんなに若かったのか?まぁ、童顔ではあるなと思っていたが・・・」
「思っていたが・・・なんです?」
「いや・・・」
土方の言いたい事がなんとなく解るは苦笑を漏らし
いつかは剣心にも話すだろうと口を開いた
「・・・俺が初めて人を斬ったのは、十にもなっていませんでした
父から剣術を習い始めて五年程経ったくらいでしたよ」
「お前・・・一体・・・」
「くすくす・・・そんなに驚くことですか?」
「だって、お前・・・そんな稚けない子供が・・・」
「まぁ・・・俺の居た環境が特殊であったのですが・・・ね」
「・・・特殊な・・・?」
「あー、そろそろ日が暮れてしまいます。緋村に怒られたくないので
俺はこの辺で失礼しますね、土方さん」
「おい・・・っ」
伐が悪そうには微笑み土方に背を向け歩き始める
土方は何かを思いつめるように、の背中を見つめ見送った
「迷いに迷って、真実を見つける・・・かぁ・・・・・・」
「か?」
「緋村?」
「お前、こんな時間までどこほっつき歩いてたんだっ」
は土方に言われた言葉に想いを巡らせながら
ぼうっと歩いていると、後ろから声をかけた剣心に怒られた
それもそのはずで、暦は師走に入り吐かれる息は白い
それなのには羽織を纏うだけの軽装だったからだ。
「いやぁ・・・ちょっと考え事を・・・」
「考え事なら部屋でしろっ、・・・ったく・・・」
剣心は自分が巻いていた襟巻きを少々乱暴に取ると
そのままの肩に掛ける
ふわりと香る剣心の香りにの胸が締め付けられる
「・・・あったかい・・・・・・でも、緋村が寒いだろ?」
「俺は大丈夫だ」
でも・・・と食い下がるに剣心は「行くぞ」と手を差し伸べる
その手にそっと自分の手を重ねると、ぎゅっと握られる剣心の掌は冷たかった
「緋村の手・・・冷えてるよ」
「の手は暖かいな・・・」
「・・・やっぱり寒いんじゃないかっ」
「どうしてそういう答えに行きつくんだ?」
「ほらっ、こうすれば俺も緋村も暖かい」
そう言いながら、握られていた手を放すと
は肩に掛けられていた襟巻きを片方剣心の肩に掛けた
「・・・そうだな・・・・・・」
「あっ、緋村・・・見て。雪だ」
「ここのところ冷え込むと思ったら・・・初雪だな・・・」
ちらちらと舞い落ちる雪に目を向けているは嬉しそうに空を見上げ
一片の雪をその手に取る
「・・・なんか嬉しいな」
「何がだ?」
「だってさ、緋村と初雪が見れるなんて思ってなかったから・・・」
そう言いながら微笑むは儚くて、雪のように今にも消えてしまいそうに見えた。
剣心は抱き締めたいという衝動を辛うじて押さえ込んで、と同じように空を見上げる
「今度はの手が冷えてしまいそうだな・・・」
雪を受けるようにしていたの手を剣心はしっかりと握り歩き始める
迷いは尽きない。だけど・・・
今は・・・この繋いだ手を離したくない・・・
そう思いながら二人はゆっくりと帰路についた


あまり進展のない二人です(笑
『いにしへも・・・ 』はこれまた光源氏が詠った短歌です
『しれば迷い・・・ 』は土方さんが実際に詠った俳句です
じれったいかな・・・とも思ったのですが
18歳と16歳ですのでこんな感じかなと思ったり・・・
当時では成人してますが、剣心もヒロインさんも普通の恋愛してないようですので(汗
想いは募っても実行に移すのに時間がかかりそうだなと思います