【娘姿】
「明後日にまたおいで」
そう幾松に言われたとおり、と剣心は幾松を訪ねた
にこやかに迎えられたと思えばは別室へと連れていかれてしまう
「ちょ・・・何すんですかっ、姐さん!」
「いーから、いーから」
「良くないですって!ちょっと、姐さんっ」
「やっぱり若いねぇ〜、肌の張りが違う・・・私もあと十年若かったら・・・」
などと騒がしい声が聞こえてくる
居間では剣心と桂がお茶を啜りながら所在無さげにしている
「・・・・・・(遊ばれている・・・)」
「・・・すまんな、緋村・・・」
「いえ・・・・・・で、姐さんは何をしているんですか?」
「いや・・・それが「さぁ、できたよっ。まぁ見てやってちょうだいよ」
すぱんと襖を開けて幾松は入ってくるが、の姿が見えない
何やってんだい、と無理やり腕を引き剣心の目の前に突き出されたのは
艶やかな着物を纏い、薄く化粧を施されただった
剣心は面喰い思考が一瞬にして停止してしまう
「なっ・・・お・・・え?・・・・・・は?」(壊)
「〜〜〜〜〜〜〜っ」
「・・・・・・か?」
「何言ってんのさ、君に決まってるだろ?
元が良いんだから、私の手にかかればこんなもんさね」
自信満々に言ってのける幾松
は恥ずかしさのあまり、声もでない
繁々との姿を見ているのは桂
剣心は漸く我を取り戻しを見ると
顔を真っ赤にして俯いている、その姿と仕草が初々しい
今更ながら剣心の顔も熱を持ってきて、つられて剣心も俯いてしまう
向かい合ったまま顔を赤らめ俯いている二人の姿に
大人の二人は笑いが込み上げてくる
「初々しい二人だねぇ・・・私達もこんな時があったっけねぇ」
「あぁ・・・おいおい二人とも、いつまでも俯いてないで
出掛けてきたらどうだ?せっかく着飾ったんだ、出歩いてこい」
「は?この格好で外歩くんですか?無理ですよ!」
「無理なもんかい、だぁれも気付きゃしないよ。
ほら、行った行った。そうだ、土産にさくら屋の茶菓子を買ってきとくれ」
が抗議の声をあげるも、幾松に強引に剣心と二人、外に放り出されてしまった
二人は暫く呆然と立ち竦んでいたが、剣心が気を取り直して手を差し伸べる
「行くか・・・」
「で、でも・・・」
「ここに居ても仕方ないだろう、姐さんに土産も頼まれたしな。
、腹を括れ・・・姐さんにバレた時点で遊ばれるのは決まっていたんだ」
「そんなぁ・・・」
ふにゃりと眉尻を下げるに苦笑しながら
もう一度「行くぞ」とその手を取った
剣心に手を引かれ、半歩後ろをは歩く
見慣れた街並みなのに、どこか落ち着かない
すれ違う人が自分を見ているようにも伺える
「緋村ぁ・・・なんか見られてるよぉ、やっぱり変なんだよこの格好・・・」
「気のせいだ、それに・・・変でもなければどこも可笑しくない」
事実、注目はされている。剣心ではなく、がだ。
剣心は多少の優越感に浸りもするが、どうも面白くない
は自分の半歩後ろを歩いているわけで、の姿が視界に入らない
自分はその姿を見る事ができないのに、他の人間それも男がを見ているのが気に入らない
この状況を打破すべく、考えを巡らせると
が結い紐を欲しがっていた事を思い出した
実際は欲しがっていたのではなく、「そろそろ買い換えようかなぁ」と零していただけだが
恋に恋する男の脳内変換なぞ、こんなものだろう。
「小間物屋へ行こうか」
「へ?なんで?」
「結い紐・・・欲しいんだろ?」
「あ、うん・・・」
小間物屋に入り、結い紐を見せてくれと言えば
人のよさそうな店主が色とりどりの紐を持って見せる
「お嬢はんがお使いになるんやったら、紐やのうてこういった絞りの・・・」
「お、お嬢さん?」
「お嬢はんでっしゃろ?どこをどう見ても・・・」
「え・・・いや、そ、そうデスネ・・・」
時折見せるの恥ずかしそうな表情が
娘姿のせいか新鮮に見える
剣心はぽんぽんと軽くの頭を撫ぜて一本の結い紐を手に取った
それは唐紅の結い紐で、の漆黒の髪にとてもよく映える
普通の男物より細めに造られていて、今の格好で使っても可笑しくないだろう
「これがいいな・・・すまんが、櫛はあるか?」
「へぇ、ございますよ。ここで結ってかはりますか?」
「あぁ・・・」
「ちょ・・・緋村?」
「いいから」
問答無用とばかりにの髪を結う
いつものように高く、一つに纏めるのではなく
両側の髪を後ろで纏め結うだけの簡単なものだったが
今の姿によく似合っていた
「こら別嬪さんやなぁ・・・お兄はんが羨ましいわ」
そう零す店主に代金を払おうとすれば、があわてて財布を出そうとするが
それを諌めて剣心が代金を払う。それを不服そうには眺めて
ふと、出されていた結い紐の束に目をやり、も一本の結い紐を手に取った
「これ、買います」
「?」
「まいど、おおきに。こちらはお嬢はんが?」
「はい。おいくらです?」
さくさくと勘定を済ませ、と剣心は小間物屋を出る
暫く歩いて茶屋に入ると、は剣心の結い紐をひっぱって髪を解いた
「おい、何するんだ」
「む、緋村だってさっき俺の髪を弄ったじゃないか」
「だからって・・・それより、お前・・・その姿で俺とか言うな」
「そんなのどうでもいいよ・・・っとできた」
手櫛で剣心の髪を整え、先程買った結い紐で縛る
紫紺色のそれは赤い髪に良く映えた
「俺だけ買って貰うわけにはいかないから」
「?」
「こんなとこでその名前で呼ぶなよ・・・」
「今は二人だろう?」
「二人じゃないよ、知らない人がいっぱいいる」
「それを屁理屈というんだ」
「緋村がその名前で呼ぶのを聞くのは、俺一人でいい・・・」
「はぁ・・・っ(なんでこいつ、こんなに可愛いんだ?)」
「・・・呆れた?」
「・・・少し、いやかなり・・・嬉しい、かも・・・」
「結い紐、ありがとう・・・大事にする、ね・・・」
「俺も、だ・・・ありがとう・・・」
甘ったるい空気を辺りに漂わせながら
運ばれてきたお茶を飲み、は団子を頬張っていると
剣心にとって招かれざる客が姿を現した
「・・・・・・『夜叉姫』?」
「土・・方さん・・・」
「うっわー、どうした?何があった!?」
「・・・消えろ」
「想像以上だな、もうずっとその格好してろ」
「いや、あの・・・ひ、緋村・・・・・・(殺気がっ)」
剣心を眼中に入れてない土方はにつめよる
殺気が膨れ上がる剣心には冷や汗を流すが土方は気にしていない
「男の姿もいいが、やっぱりこっちの方がいいな。どうだ?俺と一緒に・・・」
「消えろと言っているんだっ」
「・・・なんだ抜刀斎、いたのか。ここで抜くなら、俺は職務を遂行するぞ」
剣呑な空気には咄嗟に腰元に手をやるがいかんせん今は娘姿。
いつも腰にいる相棒は幾松の家に置いてきている
とりあえず止めなくてはと立ち上がるが、着慣れて居ない女の着物
袂を引っ掛け前につんのめってしまう
「うわっ」
「「っ(『夜叉姫』っ)」」
同時に手を出し、を支える剣心と土方。
の頭の上で青い火花が散る
「・・・(こいつは俺のだ)」
「・・・(それなら奪うまでだ)」
「・・・・・・(な、何事?)」
はこの場を逃げ出したい気持ちになった
が、それは許されないことだと判断する。
なぜなら、がっちりと二人の手が自分の両腕を掴んでいるから
さて、どうしようかと考え始めた時、救世主が現れた
「トシさーん、こんなとこでなにやってるんですか?
局長が探してましたよ〜」
「・・・ちっ・・・判った。」
「あれ?君!?うわーほんとに女の子だったんだ・・・」
「行くぞっ、総司!」
「えっ?ちょっとトシさんっ」
沖田を置いてさっさと踵を返す土方に、はあっけに取られていた
茶屋を離れて、土方は沖田にこう言った
「なぁ、総司・・・」
「何です?」
「本気かもしれない、と思った時には・・・手遅れなんだよなぁ・・・」
「・・・トシさん?」
「そう思った時には、もう本気になってんだよな・・・」
「!!・・・それって・・・君のことですか?」
「あぁ・・・どうしちまったんだろうなぁ・・・俺・・・」
空を見上げれば、先程の艶やかなの姿が思い浮かんだ
その後、と剣心は幾松に頼まれた茶菓子を買い帰路についた
目ざとい幾松に結い紐の事を聞かれ
と剣心はこの日も散々からかわれたとか・・・


トリは土方さんでしたっ(笑
唐紅ってどんな色?ってなことで
濃くて鮮やかな紅色です(一応)知ってら〜いってな方は
読み流してください(笑
小間物屋の店主の京言葉は気にしないでください(汗