【別離】
慶応四年一月三日 ・・・
日も傾き始めた七つ時(16時頃)を少し過ぎた頃
一つの砲撃の音が事を知らせた
開戦 ・・・
御香宮に屯所を構えていた達薩長軍は
わずかな距離の伏見奉行所に陣を置いていた新撰組や会津藩などに対して砲撃を開始
ここに鳥羽伏見の戦いが切って落とされた。
「ねぇ・・・緋村、この戦いってさぁ・・・薩摩と幕府の喧嘩だよねぇ・・・
なんで俺達も参加してるわけ?」
「長州は薩摩と同盟を組んでいるからな」
「ふーん・・・迷惑な話しだね・・・」
「そう言うな」
「あ・・・新撰組、来たね」
斬り込んでくる会津藩士や新撰組隊士を斬り伏していく
砲撃だけではなく銃撃、向かってくる刃を交わしながら幕軍を衝く
揺れる漆黒と緋色の髪に紫紺と唐紅の結い紐、血飛沫が風に舞う
どちらが悪で正義なのかそれすらも解らなくなってしまう
どちらも正義を心に戦っているから
が刀を振るえば、それが喜んでいるのが解る
血を欲し、贄を求める妖刀『千子村正』
喜び震え、貪欲に血を求める





「やばい・・・呑まれそう・・・だ・・・ひ、むら・・・」
噎せ返る程の血の臭い、辺りは血で染まりつつある
は刀の魔に呑み込まれそうになる
「!?」
「ごめ・・・御しきれないかも・・・あまりにも流れる血が多すぎる・・・」
「おいっ」
「俺が暴れだしたら・・・敵も味方も関係なくなる・・・
その時は・・・・・・緋村が止めてくれ・・・俺を、・・・殺してでも・・・」
「なにを馬鹿なことを!お前は俺にお前を・・・殺せと言うのか・・・?」
「もしも・・・の時の話しだよ・・・」
そう剣心と話している時にも刀はに語りかける







「うっ、うぁぁぁあああああっ」
「っ!!」
止める剣心を振り払い、は誰彼構わず斬り殺していく
その姿はまさに羅刹・・・
『
』
駄目だ・・・
『
』
嫌だ・・・
『
』
違う
『
』
やめて・・・
『
』
違うっ
ギィンッ
刀と刀がぶつかり合う
「っ!しっかりしろっ」
「煩いっ、邪魔をするなぁっ」
「っ」
剣心を弾き返し、他に切りかかってくる新撰組隊士を斬り伏せる
剣心は考える、自分が一度あの刀を触れた時、はどうした?
「確か・・・」
もう一度の刀を自分の刀で受ける
「っ、・・・柳生 !」
そう叫んだ時、ふとの刀を持つ力が緩む
尽かさず剣心はを引き寄せその唇を奪うと
の瞳にしっかりとした光が戻る
「け、んし・・・」
「・・・戻ったか?」
そっと抱き締めれば、しっかりとは頷く
戦場で何を・・・とも思うが、は自我が戻り安心したのか剣心の胸に頬を摺り寄せる。
ふと顔をずらし目に入ったのは敵が構えた一丁の銃・・・絞られる引き金
定められているのは剣心・・・・・・
「剣心!!」
ズガーンッ
銃声と共に押し退けられ、剣心の視界に揺れる漆黒の闇の中に一筋の唐紅
何が起きたのか瞬時に理解し、を抱きとめようとする
・・・が、の手を離れた刀が光を放ちだす
「!?」
剣心の胸に嫌な予感が走る
は剣心を目に止めると、ふわりと微笑いゆっくりと瞳を閉じる
刀から放たれた光がを包んでいく
剣心はを引きとめようと手を伸ばすがその手は空を掴む
「っ、・・・っ、 !!!」
は闇の中にいた
その側には、を愛しそうに見つめる青年
『・・・起きて、・・・』
「ん・・・剣し・・・・・・四郎?」
『そう、僕だよ・・・。』
「あ・・・れ?私・・・死んだの?」
『違うよ、ここは世界と時空の狭間・・・』
「世界と時空の・・・狭間?」
『うん、・・・君はどうしたい?
元の時代に戻るかい?それとも・・・
緋村 剣心のいる時代に残りたいかい?』
「私・・・は・・・・・・」
『この機会を逃したら、もう元の時代には戻れない
どうする?自分で選ぶんだよ・・・自分の心のままに・・・』
「心・・・のまま、に・・・」
『そうだよ・・・が幸せになれると思う道を行くんだ』
「私・・・私は、剣心と生きたい・・・約束したから・・・ずっと傍にいるって・・・
ずっと傍にいたいって・・・思う、から・・・元の時代には戻れない・・・!」
『・・・解った、を幸せにするのが僕じゃないのは少し哀しいけど・・・
それは僕が自分で選んだことだから仕方ないね・・・』
「四郎・・・ごめんね・・・・・・四郎を忘れたわけじゃないよ・・・でも・・・」
『解ってるよ・・・いいんだ、それで・・・前にも言っただろう?
僕はね、の笑顔が一番好きなんだ・・・だから、ずっと笑っていてね?』
「ん・・・ありがとう・・・四郎・・・。大好き・・・だったよ・・・」
『僕も・・・』
ふわりと四郎に抱き締められると、肩に受けた銃弾の傷は消え失せ
暖かい光がを包みだす
『この傷とその刀の魔は僕が持って行くよ・・・もともとこの魔は僕が呼び起こしたんだし・・・』
「四郎・・・」
『少し、ここに居過ぎたかな・・・?時間のずれが生じているかもしれない・・・』
「え?」
『が消えてから、少し時間が経っているかもしれないってこと・・・
あ、それから消えた場所に戻るってわけでもないから・・・』
「っていうことは・・・時間も場所も解らないってこと?」
『そういうことになるね』
「え、ええぇぇぇぇええええ!?」
『・・・幸せになるんだよ・・・』
ちょっと待って!と言う前にの意識が遠ざかる
最後に見えたものは優しく微笑む四郎の姿だった・・・・・・
「 ・・・では、失礼します・・・桂先生・・・」
「・・・あぁ、達者でな・・・緋村・・・」
静かに自分の部屋を出て行く剣心を、悲痛な面持ちで見つめる桂
が行方不明になったと伝え聞いて驚き
恋仲であった剣心の心情を思うとかける言葉も見つからなかった
愛しい者を二度も亡くした剣心
まるで人形のようなその表情には息を呑んだ
「あんた、本当に君は・・・」
「解らん・・・が、緋村のあの顔をみると・・・」
「そうだねぇ・・・妹ができたみたいで私も嬉しかったのにさぁ・・・」
「あぁ・・・」
袖で目元を拭う幾松を桂はそっと抱き寄せた
「生きているといいんだが・・・・・・・・・」
「志士を抜けるんだってな、緋村。まだ鳥羽伏見の緒戦に勝っただけ
維新回天はこれからだってのに手前勝手に・・・
おまけに刀も持たず、何処へ何しに行きやがる」
「・・・桂先生に許しはもらってます、赤空殿。
俺はこれから人を斬る事なく新時代に生きる人達を
守れる道を探すつもりです・・・」
「フ・・・そんな道があるなら、是非俺にもお教え願いたいモンだな
何人も何人も斬り殺しておいて、今更逃げるんじゃねーよ
剣に生き、剣にくたばる。それ以外にてめえの道は無えはずだぜ」
朱く染まる空の下、赤空と呼ばれた男が剣心に一振りの刀を投げよこす
「選別だ、出来そこないだが・・・今のお前には十分過ぎる一振りだ
とりあえずそいつを腰に剣客やってみな
自分の言ってる事がどれだけ甘いか、身に沁みてわかるってもんだ
そいつが折れた時、それでもまだ甘い戯れ言を言い続けられるなら・・・
もう一度俺を訪ねて京へ来な・・・
それと・・・見つかるといいなぁ・・・お前の相棒・・・」
そう言い残し赤空は剣心に背を向けた
渡された刀を抜いてみると、それは逆刃・・・
剣心は逆刃刀をぎゅっと握り瞳を閉じる
・・・・・・もう、この時代にはいないだろう・・・
二度と離さないと離れないと約束したのに・・・
二人で護ると誓い合ったのに・・・
また俺は大切な者を護れなかった
それどころか護られてばかりだった・・・
巴が、が望んだ平和な時代を・・・
弱き者が幸せに暮らせるように
俺は ・・・守っていこう・・・
今はいない巴に、に誓おう
俺は二度と人を斬らないと・・・
・・・・・・・・・ ・・・
変わらずお前を愛し続けよう・・・
この命果てるまで・・・

