【黒笠】
と剣心、左之助は警察署長の浦村と共に
斬奸状を送り付けられたという人物がいる屋敷にきていた
「護衛の助っ人?いらんいらん、相手はたかが兇賊一匹
助っ人どころか、警察の警護もいらん。」
「甘過ぎますよ、谷殿。相手はあの黒笠ですぞ!」
些か横に大きく偉そうに椅子に座り
しっしっと片手で払うように浦村に話しているのが
今回の黒笠の標的である
浦村はあくまで下手にやんわりと話を進めようとするが一掃される
「口を慎め!剣林弾雨を駆け抜け、維新まで生き着いた
この俺に一介の署長如きが意見する気か!」
「ならばこそおわかりでしょう?達人の振るう殺人剣がいかに恐ろしいかを」
食い下がる浦村を嘲笑う谷の後ろには人相の悪い連中が控えている
「フン、わかっておるからこうして選りすぐりの最強護衛団を組んでおるのよ!
陸軍省にその人ありといわれる谷 十三郎に心酔している猛者ばかりのな!」
「そーだぜ、谷さんには俺たちがついてるからよぉ
警察の旦那は帰ってくそでも垂れてな!」
ニヤニヤといやらしい笑いを浮かべながら浦村を見下す
「そもそも外部のどこぞの馬の骨を助っ人に頼もうとするなぞ
なんと誇りのない!!その助っ人がお前の配下全員合わせたより
強いとでも言うのか!?恥知らずめが」
「・・・面目もありませんが、その通りです」
「な?」
谷が瞠れば、浦村の後ろにある扉からと剣心が姿を見せる
唖然とした表情で見つめる谷をは睨む
「聞いていれば谷さんも随分偉そうになりましたね
俺とが背中を貸して剣林弾雨からしょっ中守っていた幕末の頃とは
まるで別人のようですよ」
「ゲッ!!」と驚きを隠せないでいる谷を呆れたように見て
ふう、と溜息をつきながら話す剣心の後ろから左之助が姿を見せる
次に驚いたのは谷曰く、最強護衛団達だった
「おいおい、どこが選りすぐりの最強だよ
どいつもこいつも一度はブッ飛ばした覚えがあるぜ」
「馬の骨が護衛ではさぞ心外でしょうけど、今夜一晩は大目に見てやって下さい」

「俺の方が心外だ・・・緋村、俺・・・帰っていいか?」
「・・・署長殿の顔を潰すわけにはいかんだろ・・・」
「・・・・・・わかってるよ・・・」
固まって答える谷に軽蔑の色を浮かべて視線を投げる
そんなの頭をぽんぽんと昔のように撫でていれば
左之助は谷の後ろにいる護衛団の連中にニッと笑いかける
「つー訳だからよ、今夜だけは昔のコトは忘れて仲良くやろうぜ。今夜、だけな!」
「谷殿、この三人の他に外に警官隊を配置しますがよろしいですね」
「フン!勝手にせい」
「おろ?」
「はぁ?」
「いや、是非おねがいします!」
日は暮れて夜の帳が下り、屋敷の一室では時計の音が響いている
剣心と左之助は向かい合い将棋を指している
はその真ん中に座って見ているだけだった
「斬奸状の予告時間まであと五分、しかし・・・本当に来るのかねぇ」
「ん・・・まあ来なければ来ないに越した事はないでござるよ」
「嬢ちゃん達はもう寝てる頃だろーねぇ」
「ああ、早く起きて風呂を焚いて帰りを待ってくれるそうでござる
は姐さんに言ってきたのでござろう?」
「うん・・・そんなの放っておけって言われたけど・・・」
幾松も剣心同様、が傷つくのを善しとしない
それどころかが傷を負えば剣心が怒られることもしばしばあった
困ったようにが笑えば、剣心は苦笑を零す
パチン、パチンと駒を進めながら話は続く
「しかし剣心、よくこの一件引き受けたな
なんてゆーか、こーゆー『抜刀斎』としての頼まれ事は好かねぇと思ってたぜ」
「もちろん好かぬよ、けど放っておく訳にはいかぬでござろう
黒笠の兇行を終わらせねば、不幸な人々が増える一方・・・」
「黒笠自身も含めて・・・だろ?緋村」
「あぁ・・・それより左之の方こそ、よく手を貸す気になったでござるな」
「てやんでぇ、こんな面白え喧嘩、参加しねぇ訳ねーだろ」
「・・・・・・喧嘩ではないと思う・・・」
左之助は嬉しそうに笑いながら駒を進めている
の言葉と浦村の心の呟きが重なった
「よし、質問ついでだ。もう一つ答えろ」
「何でござる?」
「さっきの二階堂平法『心の一方』ったあ何でぇ?
ひょっとしてお前ら黒笠に心当たりでもあるんじゃねぇのかい?」
「質問が二つになってるでござ・・・」
「揚げ足取りはいーから、さっさと答えな」
左之助が剣心の顔に拳をめり込ませを見れば
は苦笑交じりに口を開いた
「噂だよ、ねぇ緋村」
「噂?」
「ん・・・十数年前に聞いた噂・・・心当たりと言えば心当たりになるが・・・なぁ、」
「うん、今の時点では如何とも言えないなぁ・・・」
「何でぇ、お前等だけで解ったよ「うっぎゃああああぁぁぁぁああっ」
「「「!!」」」
「な、なんだ今の悲鳴は!?室内じゃねえ外からだったぞ!!」
左之助の言葉を遮った叫び声に部屋中がざわめき
と剣心は音を立てて窓を開ける
外を見渡せば門を警備していた警官が血溜まりを作って倒れている
「来るぞ!!最前列は拙者と、左之で固める!他の者は後ろに続け!!」
「あ?え?い?」
「動揺するなブタまんじゅう!王将役は真ん中が相場と決まってんだよ!」
騒然とする室内で同様を隠せず狼狽たえる谷に左之助が一喝すると
時計が大きな音を立てて一時を知らせる
扉を前にと剣心、左之助は構えるが何も現れない
緊張が走る ・・・
「一時・・・来ない・・・・・・?」
「ケッ何だ、脅しかよ」
後ろで窓際にいた男が気を緩めた時だった
窓の外から現れた黒笠に斬り伏せられる
不意を突かれた剣心たちが驚き振り返ると
黒い笠を被り、血走った眼を光らせながらニタリと笑う黒笠
「うふふ・・・いるいる、命知らずの蟲共が・・・
ひい・・・ふう、みい・・・・・・十四、五匹か、思ったよりは少ないな・・・」
満月を背に悠々と窓枠に立ち、獲物を品定めするかのように室内を見渡す
既に寄せ集めの護衛団は腰が引け始めている
その中で冷静にこの状況を見ているのはと剣心、そして左之助の三人だった
「あれが兇賊『黒笠』か・・・あの目は危険すぎるな」
「わかるでござるか、左之・・・奴は拙者が相手する、とお主は谷殿を頼む」
「えぇ〜」
剣心の言葉にさも不服だとばかりに声を上げるに
「頼む」と剣心が眼で訴えれば、渋々は頷いた
その時、谷は腰が引け始めている護衛団に声を荒げる
「何をボケッと」しとるかお前達!さっさとかからんか!!」
「「「!!」」」
「高い給金払って雇っているんだ!きちっと働け!
奴を倒した者には五倍払ってやる!陸軍省仕官も世話してやる!」
「五倍!」
「仕官!」
「・・・あいつ、張り倒していいか?」
「・・・」
谷の提案に色めき立つ護衛団
それに対して苛立ちを露にしているのはだった
谷のやることが悉くの癇にさわるのである
「よっしゃあっ仕官はもらったぁ!」
「いや、某がいただく!!」
「バカヤロウ!!欲ボケで命捨てる気かよ!」
意気込み、武器を手に黒笠に向かって行く男達を左之助が諭すも
欲に眼が眩んだ男達にその言葉は届かない
それを嬉しそうに黒笠は眺める
「うふ、うふふ・・・うふわははは!」
高らかに笑いながら、向かってくる連中を血に染めていく
それはそれは嬉しそうに
「ん む、この感触・・・いいね」
「下がれ!!てめえら雑魚助共じゃ相手にならねぇ!」
左之助が叫び駆け出す時には、仕官だ何だと意気込んでいた男達は怯え始めていた
尻込み逃げようとする男達に黒笠はその血走った眼を見開いた
「逃がさんよ!!」
「「「!?」」」
「な・・・なんじゃ今のは」
「体が動かない!!」
「逃げたら駄目だな、一度抜き合わせたら、どちらかが死ぬまで斬り合う
そうじゃないと楽しくないだろ?」
急に金縛りに合ったように身動きができず、驚き戸惑う者達にニヤニヤと笑いながら
黒笠が近寄れば、その後ろで左之助が至極歩き辛そうに黒笠に歩み寄る
「てめえ・・・今、何しやがった!急に体が重くなりやがったぞ!」
「ホウ・・・『心の一方』にかかってもまだ動けるとは・・・
ただの蟲ケラとは一味違うようだな」
「!」
「二階堂平法『心の一方』またの名を『居縮の術』
まさかとは思っていたがお主が黒笠でござったか」
左之助の真後ろから跳躍しながら刀を抜く剣心に
不意を突かれながらも応戦し刃の交わる音が部屋に響く
そのすれ違い様に剣心の腕から血があふれ出す
「緋村!!」
「幕末、京都に居た頃、噂話にある男のことを聞いた
どの藩閥にも属さず、金で人斬りを請け負った男・・・・・・」
話を続けようとする剣心を遮るようには黒笠と剣心の間に足を進め
剣心の言葉の続きを口にする
「その男は『二階堂平法』を極めた剣の達人だと言う、『心の一方』・・・
攻め手にかけて使うかと思っていたけど・・・戦意を失くし逃げようとする者にかけて
斬ろうとするなんて、随分と外道なやり方だね・・・」
「「浮浪人斬り『鵜堂 刃衛』」」
と剣心が口を揃えてその名を呼べば、剣心の逆刃に打たれたのであろう
黒笠・刃衛の被っていた笠が罅割れた
「俺も聞いたことがあるぞ、『飛天御剣流』とかいう古流剣術を使う長州派維新志士
左頬に大きな十字傷を持つ伝説の男『人斬り』緋村 抜刀斎
そして抜刀斎と肩を並べ、必ずその傍らに立つ『新陰流』の使い手『修羅童子』!!」
刃衛が再びその眼を見開けば、と剣心の身体が脈打つように竦む
「「!!」」
「緋村さん!殿!!」
「「ハァッ」」
二人同時に気合を込めるとパンと何かが弾ける音がする
は抜刀しながら刃衛を見据え刀を肩に担ぐ
「『心の一方』は妖術にあらず、言わば気合と気合の勝負
お前の剣気に等しい剣気を持てばかからないよ」
「おとなしく縄につけ、刃衛・・・さもなくば拙者が相手を致す」
「は?緋村、俺は?」
「は退がっていてくれ・・・」
「・・・・・・解ったよ」
剣心の真剣な眼差しに渋々が頷き、剣心の背後に回る
相手は一人、ならばこちらも一人が妥当だろうと考えたのかとは思うが
実際はを傷つけたくないからである
「抜刀斎が相手か、願ってもない・・・だが」
刃衛は部屋の真ん中で動けずにいる谷を視界に捉えれば
「ヒッ」と情けない声を出し、谷は蒼褪める
「まずは斬奸状の予告を果たしてからだ!!」
「あひっ !!」
刃衛は谷目指して床を蹴る、一瞬遅れて剣心とが走り出す
「谷殿、気合を入れて術を解けっ」
「無理だっ緋村!」
「無駄だ!お前等ならいざ知らず、腐り肥えたブタには決して解けん!
幕末は大金を払ってまで人斬りを頼んでおきながら
明治は人斬りは犯罪だなどとぬかす、手前勝手なブタ志士共にはなぁ!!!」
刃衛が谷に斬りかかったその時、やっと『心の一方』の原理を理解したのか
左之助が気合を入れて術を解く
「うっらあ!!」
「!」
「「左之!!」」
「王手にゃあ・・・まだ早ぇぜ!!」
谷の横にあった石像に飛びつき、その石像倒せば刃衛の刀が折れる
「どうだ!」
「うふふ・・・」
「駄目だ、気を抜くな!」
は叫び、剣心の横を走り抜ける
ギィンッ
刃衛が折れた刀でそのまま左之助の腕を貫く瞬間、刃の交わる音が響く
が刃衛の刀を弾き飛ばした、・・・が、刃衛は素早く脇差に手を掛け
抜き払えばの肩から血が迸り、着物を赤く染めていく
「くぅ・・・っ」
「「!!」」
「うふわははははははは!!」
「刃衛ぇ !!!!」
怒りを露にした剣心が一気に加速し斬りかかれば
それを嬉しそうに、笑いながら手に持つ脇差で受け止める
剣心は反動を利用し刃衛の真上に跳躍し天井を蹴りそのまま刃衛を打ちのめすと
今まで身動きすら取れずにいた者達の身体が動くようになった
刃衛はそのまま倒れ込まず身軽に窓の近くまで移動して
さらに嬉しそうに笑う
「うふふ、これは面白い。こんなに面白いのは幕末以来だよ
標的変更、次の獲物はお前等だ。維新志士人斬り抜刀斎、そして修羅童子!
近いうちに再びお前等の前に現れよう、それまでに逆刃でない
本物の刀を用意して待っていろ、抜刀斎」
窓の外へ飛び出し、闇の中に消える刃衛
それをなす術もなく見送るのは警官隊と谷に雇われた護衛団
剣心は刃衛の気配が完全に消えるとに駆け寄る
「!!大丈夫か!?」
「うん・・・久しぶりに斬られると熱いねぇ」
「何を馬鹿なことを!!谷殿っ包帯と薬はあるか!」
「と、隣の部屋に・・・」
「では部屋を借りるぞ!それから、署長殿
急いでやられた者の手当てを、うまくいけばまだ助かるはず」
「は、はい」
「おいっ剣心!?」
「緋村っ、俺歩けるから!」
「煩いっ」
剣心はを抱き上げ足早に部屋を出れば
慌てて後を追ってくる左之助に剣心は言い放つ
「左之、ここに居て誰も部屋に入れるな」
「はぁ?何言って・・・って、おい!?」
剣心は部屋の扉を閉めると、の着物の襟を緩め傷を見る
深くはない、が・・・痕は残るであろうそれにがっくりと肩を落とす
「緋村・・・?」
「まったく・・・お前を傷つけたくないから退がっていろと言ったのに・・・」
「だって・・・」
「取り敢えず、そこに座ってろ・・・」
ごそごそと包帯と薬を探し当て、それを手にの元に戻れば
「姐さんにも怒られる・・・」と情けない顔をしたがいた
「まぁ、説教は覚悟しておくんだな・・・(俺も、か・・・)」
「あぅ・・・緋村だって怪我してるじゃないか・・・」
「俺は皮一枚切れただけだ」
は剣心の腕を取り、ぺろり、と舐める
その感触にざわりと剣心の男が沸き立つが、それを理性で押し止める
真新しい布での肩を押さえるが、後から後からじわりと滲む赤
それに吸い寄せられるように剣心は舌を這わせる
「緋村!?」
「黙ってろ・・・」
「ちょ・・・だ、めだ・・・よ・・・痛っ」
その頃、左之助はというと・・・「誰も入れるな」と言われた手前、入るに入れず
中の様子も気になるからか扉に耳をあて、様子を窺っていた
「何でぇ、剣心の奴・・・えっれぇ過保護だな・・・
・・・!!もしかして、あいつら・・・できてんのか!?ってぇことは・・・剣心の奴・・・」
「拙者がなんでござるか?左之」
「うわぁっ」
左之助が耳を当てていた扉とは反対側の扉が開いて剣心とが姿を見せる
驚き腰を抜かしそうになっている左之助を不思議そうに見ていると
隣の部屋から浦村が出てくる
「緋村さん、殿・・・今度はあなた方が狙われるはめに・・・」
「構わぬ、むしろかえって好都合でござるよ」
「うん、そうだね」
「剣心、・・・お前等まさか、最初からこーなることを予測して
それでこの頼まれ事を引き受けたってぇのか?」
「・・・欲を言えばこの場でカタをつけたかったが・・・」
「流石にそうはさせてくれなかったね」
が肩を竦めて見せれば、剣心も苦笑する
おどけた雰囲気ではあったが二人の眼差しは真剣だった


長いですね・・・(呆
戦闘シーンはホント苦手です(汗
ヒロインさん怪我しまくりでスイマセン・・・
すこーし甘要素を・・・いや、ほんとに少しですよね
次回、ヒロインさん攫われる!?です(笑