【人斬り】




剣心が傷付き倒れていた時
左之助達は林の中を歩いていた



「鎮守の森ってここだよなぁ・・・」

「えぇ・・・でもここの奥に稲荷なんてあったかしら?」



さわさわと風が枝を揺らす音しかしない
歩みを止めず先へと足を進めれば
風に乗って叫び声が聞こえてくる


「「!!!」」


顔を見合わせ一気に林の奥へと走り出す
そして目にした光景は、剣心が血を流しながら蹲り
その奥でが腕を押さえながら、のたうち回っていた



に何をした!?」

「あぁぁっ・・・っ・・・伊賀・・・の秘術・・・をっ・・・っく・・・なぜ・・・」

「ほう・・・これを知っているとはな・・・」

「伊賀の・・・秘術、だと・・・?」

「『七日殺し』、七日の間に骨は砕け、内臓、果てはその体が腐り死に至る
 その間気を失うことも許されず、痛みと苦痛に苛まれ続ける・・・
 俺がずいぶんと昔に斬り殺した忍に聞いたのさ、うふふ・・・」

「・・・・・・っあ、うぁぁぁあああっ」

っ・・・・・・刃衛・・・」

「お喋りの時間はない、こうしている間にもお前の修羅童子は苦痛に苛まれる
 言いたい事はその剣で言え!」




剣心は刀をぐっと握り締め、刃衛の視界から一瞬で姿を消す


「?」

「「!!」」


薫達はに駆け寄りたくとも自分達の間では剣心と刃衛が刃を交えているため
その場を動くことも出来ないでいた
そして先ほどの話と今の剣心の動きに驚きを隠せないでいる

一瞬にして刃衛の視界から消えた剣心はそのまま刃衛の顔面を横一線に打つ


「う゛ぷ!?・・・うほおう・・・今のは・・・剣閃はおろか
 体のこなしすら見えなかった!これぞ飛天御剣流!これぞ人斬り抜刀斎!!」

「お喋りの時間はないんだ、殺してやるからさっさとかかってこい!」


「・・・剣心?・・・ちがう、あんなの・・・剣心じゃない!!」

「・・・あれが、人斬り抜刀斎なんだよ。嬢ちゃん」



涙ぐみながら剣心を見つめる薫、言葉もでない弥彦
ただ一人現実を見つめているのは左之助だった


「『殺してやる』か、うふふ、いいぞ、人斬りに相応しい台詞だ!!
 お前が幕末の『人斬り 抜刀斎』に戻ったここからが真の勝負、いくぞ抜刀斎!」



刃衛が地を蹴り剣心に斬りかかるが、剣心の気迫に圧倒され剣心の前から飛び退く


「どうした!?」

「うふ・・・流石伝説の人斬り様、殺気がこもるとやはり違うな」

「命が惜しくなったのなら、にかけた伊賀の秘術とやらを解け」

「俺ではもう解けん・・・術者を殺す以外はなぁ」

「ならば、お前を殺すまでだ」

「それも、不可能だ」



刃衛は持っていた刀を横に、その刃に映る自分の目を見る


「人なんて生き物は存外『思い込む』ことに脆い
 病になったと思い込めば、本当に体調が悪くなり
 呼吸が出来ないと思い込めば本当に息が苦しくなる
 心の一方はその脆さをついて、高めた剣気で相手を居縮ませ不動にする技
 思い込むことは実際に体に作用する!術者おれとてその例外ではない!!」


「成程、自分自身に強力な暗示をかけ、潜在する全ての力を発揮する気か・・・」


「我!不敗!也!我!無敵!也!我・・・最強なり!
 心の一方『影技』『憑鬼の術』これを使うのは新撰組を抜ける時以来・・・約十五年振りだな」



自己暗示をかけ終わった刃衛はその体つき、顔つきががらりと変わる
近くにあった岩を刃衛は持っていた刀で粉々に打ち砕いていく


「卑怯と言えば卑怯な技だが、使わせてもらうぞ」

「構わん、どんな技でも好きなだけ使え。だが・・・
 俺が殺すと言った以上、お前の死は絶対だ



剣心は逆刃を鞘に戻し、腰を低く構える


「これは・・・(抜刀術の構え、神速剣飛天御剣流の使い手の抜刀術、それ真に最速!)」

「こい、『抜刀斎』の志士名の由来、篤と味わわせてやる」



刃衛が勝機を見出し剣心に斬りかかろうとしていたその時
は小柄で自分の腕を切り裂いていた


「駄、目、だ・・・緋村・・・・・・っぅ・・・くぅっ・・・・・・コレか・・・」


気を失いそうになる程の激痛に耐え、肉を抉り、白い塊が見え始めた所にソレはいた
蠢くソレを小柄で突き刺し、ほっと一息つけば意識が遠のく
それをなんとか持ち直し、辺りを見回せば
の刀を握った左之助が目に入った


「左之・・・っ」

「いざ勝負!!緋村 抜刀斎!!!」


の声は刃衛の声に掻き消される
左之助達も剣心の方に気をやっていてに気づかない


「おおおお!!」


刃衛が剣心の間合いに踏み込んだ時、逆刃が抜かれた
それを紙一重で刃衛は交わす


「俺の勝ちだ抜刀斎!!」


そのまま刃衛が刀を振り上げた時、その腕から骨が砕ける音が響いた
剣心が鞘で刃衛の腕を砕いたのだ


「な・・・?」

「飛天御剣流 抜刀術『双龍閃』・・・抜刀術が己にとっても一撃必殺であることも
 逆刃刀が抜刀術に向かないのも百も承知、抜刀術の全てを知り極めた男
 それが『抜刀斎』の志士名の由来だ。肘の関節を砕いて筋を絶った
 お前の剣の命は終わった・・・そしてこれで人生の終わりだ


剣心は刃を返し、剣を振り上げた
それを見て薫は叫ぶ


「剣心!!」

「どうした抜刀斎、何をためらっている?『七日殺し』を解くには俺を殺すしかない
 俺を殺さねば修羅童子が死ぬ、俺を殺せば修羅童子は助かる。簡単すぎる選択だ
 躊躇うことはない、またその時間も必要ない。伝説の人斬り様の兇刃
 冥土の土産に一撃、脳天にくれよ」

「・・・そうだな、お前に土産などくれたくもないが・・・だが、
 を守るため、それを望む俺のために今一度人斬りに戻るさ」

「それでいい!お前の兇刃をこの刃衛に味わわせてくれぇ!!」

「死ね」

「・・・っ、駄目だっ緋村!左之!!」


の叫びに気付いた左之助は、の言わんとしていることを察して
手に持っていた刀をに投げた
刀を受け取ったはそのまま剣を振り下ろす剣心の元へと走る


「いやぁぁああああっ」


薫の叫び声が響く中、は剣心の刀を鞘で受け止めた


「戻れ、緋村・・・・・・俺は死なない」

!?」

「なっ・・・お前、どうやって・・・」

「緋村、俺を誰だと思っているんだ?伊賀の秘術・・・『七日殺し』
 体の中にナニかを植えつけるんだ、そのナニかが肉を、骨を、内臓を食い尽くす
 そのナニかとはコレのことだろう・・・刃衛」



大きく切り裂かれた腕を持ち上げ、その手には小柄が握られていた
そしてその先には小さな細長い芋虫のようなモノがぶらり、と垂れ下がっていた
それをピッと弾き刃衛の足元に落とせば、それは今だ生きているように蠢く
剣心はに駆け寄り袂を引き裂きの腕に巻く



「大丈夫か!?っ」

「ほう・・・古の忍術まで知っていたとは、大きな誤算だったな」


刃衛が脇差に手をかければ、ぴくりと剣心が反応し再び刀を握る


「よせ刃衛、脇差一本、まして左手しか使えないお主にもう勝機はござらん
 お主の負けだ、大人しく縄につくでござるよ」

「いや、まだ終わらん・・・まだ、後始末が残ってるさ」


そして手にした脇差を自らの胸に突き立てた


「「「「!!」」」」


「んーむ、この感触・・・いいね」



そのまま倒れる刃衛、左之助達も近寄り戸惑いを隠せないでいる


「わ・・・解らないってツラしてるな、言ったろ・・・後始末だよ・・・
 お、俺が生きて捕まって・・・・・・調べが進めばいずれ・・・・・・
 必ず、俺に人斬りを・・・依頼した維新政府のお偉い方に行き着くからな」

「な・・・に」

「うふふ、まさか新時代の明治になって、人斬りが不要になったとでも思っていたか
 抜刀斎らしくもない、だからお前は腑抜けたというんだ。
 維新だ明治だ新政府だと騒いじゃいるが、その中身は何てことない
 幕末同様の血で血を洗う権力抗争が続いているのさ」


刃衛の言葉に誰も何も言えなくなる、を除いて・・・
は気付いていた、裏で政治家達が動いている事を


「邪魔者は消したい、だが制度が近代化し警察機構も整い始めた昨今じゃ
 かつての様な単純な人斬りはできない。片やあんたも一度踏み込んだ修羅道から
 抜けられないし、抜けたくもない。そうして政治屋と人斬りの利害が一致した
 ってトコだろう?違うか?刃衛」

「思っていた以上に敏いな、修羅童子・・・そうだ、そのとおりだ
 『人斬りは自分の意志で人を斬る。だが、相手を自分で選びはしない』
 そういうもんだったろ?それを無視してお前に挑んじまったから
 こんな無様な死に方になっちまったが、まぁいい・・・お前との死闘はそれなりに楽しめたし
 右腕が潰れた今、生きていてもつまらんだけだ」

「刃衛・・・」


眉を顰めなんとも言えない様な眼差しで自分を見る剣心に刃衛は笑う


「そんな目は止せ、抜刀斎。俺を殺すと言った時のお前はもっといい目をしていたぞ
 お前の本性はやはり人斬りだよ、同じ人斬りが言うんだ間違いない
 人斬りは所詮死ぬまで人斬り、他のものには決してなれはしない
 お前がいつまで流浪人などといってられるか、地獄の淵で見ててやるよ・・・うふふ・・・」



兇賊・黒笠は剣心の心に大きな歪を残して息を引き取った
緊張が解けたのかは意識を手放した


!?」

「剣心・・・こいつぁ・・・」

「ああ、血を失い過ぎたようだ・・・すまぬが左之、後を頼んでもいいでござるか?」

「まかせとけ、って・・・その喋り方・・・戻ったみてぇだな、剣心」

「・・・っ、あ、あぁ・・・それにしても、拙者は待っていてほしいと言ったはずだが?」

「いや、ほら・・・終わり良ければ・・・って言うだろ?」

「それより剣心、をウチに・・・」

「いや、薫殿・・・神田の、姐さんの所に行くでござるよ」

「でも・・・っ」



剣心はを抱え足早にその場を去った


















空が白み薄く明るくなってきた頃
を抱えた剣心は幾松の屋敷に着いた
そこで待っていたのは、鬼のような形相をした幾松だった


「一日家を空けて朝帰りたぁ・・・・・・ってなんだい!?
 血塗れじゃぁないかっ?それに君!!」

「姐さん、話は後で・・・とにかく手当てを・・・」



慌しく幾松の家に入り、の手当てを進める
谷の屋敷で負った傷と今回の傷、両方を見て幾松は悲鳴をあげた


「娘の体になんてことだいっ、緋村君・・・あんたがついていながらっ
 ・・・って昔っから言ってきたけど、こればっかりは君の性分だからねぇ・・・
 ほんとにあんた達は変わらないねぇ・・・ほら、緋村君も怪我をしてるんだお見せっ」



の手当てを済ませ、剣心の手当てを始める幾松
剣心は返す言葉もないと苦笑する
とりあえず手当てを受けながら何があったのかを話していけば
幾松は哀しげにため息をついた


「それはあの人が一番心配していたことだよ・・・
 結局は時代が変わっても、やることは変わらなかったんだねぇ・・・」

「姐さん・・・」



「さぁ、終ったよ」と幾松に肩を叩かれ、痛みに顔を顰めていると
幾松は片付けを済ませ部屋を出る、その際に意地悪く微笑みながら口を開いた


「あぁ、緋村君、君もだけど・・・暫くの間激しい運動はご法度だよっ」

「姐さんっ!!」

「あっはっはっは、緋村君も少し休んでいきな、全く寝ていないんだろ?」


そう言い、静かに襖は閉められた


血に濡れた着物を幾松に剥ぎ取られ、も剣心も夜着を纏っていて
はといえば今は静かに寝息を立てて無防備な寝顔を剣心に見せている
その隣に身を横たえ剣心はの頬を突付く


「俺はまたに護られたな・・・身体だけでなく心まで・・・
 ・・・俺はお前を護れているんだろうか・・・・・・?」

「愚問だよ、剣心・・・私は剣心がいてくれるから、私でいられるんだ・・・」

、気がついたのか?」

「うん・・・刃衛の言ったことを気にしているの?」

「いや・・・」


口篭る剣心にふわりと微笑んで、左頬の傷にそっと触れる


「人斬りが人斬りであるのなら、剣心は剣心でしょ?
 人斬りの剣心も、流浪人の剣心も、私には同じ剣心なんだ・・・
 私を護ってくれて、私が護りたい人・・・私にとってかけがえのない大切な人」

・・・っ」



の言葉が剣心の心に灯をともす
二人は微笑み合い剣心がこつんと額を寄せると
くにゃりと眉を寄せながらは剣心に聞いた


「・・・姐さん、怒ってた?」

「・・・・・・あぁ・・・かなり、な・・・」

「あぅ・・・・・・」

「とりあえず、今は休め。俺もここで休ませてもらう」

「ん・・・」


は髪を撫でられ瞳を閉じると、唇に暖かい温もりを感じそのまま眠りに付いた
















〜後日〜


「よー、剣心」

「なんでござるか?左之」

「お前とってデキてんのか?」

「は?な、なにを・・・(まさか、の事がバレた?)」

「そんな反応を見せるということは・・・やっぱりそうなのか?」

「だ、だから、なんのことでござる?」

「剣心・・・お前って・・・・・・男色家だったのか?」

「左之っ!!ち、違うでござるっ」

「そーやって焦るのがおかしいんだよ
 大丈夫だ、嬢ちゃん達には黙っといてやるよ」

「左之っ」



が女であるということがバレたのではないということに
少しは安堵するが、別に知れたとしれも剣心は構わない
先日、女であると言わないのか?と聞けば

「聞かれたら答えるよ、私の事は剣心が知っていればそれでいい」

と可愛らしい事を言われたのを思い出す
その時のの表情や言葉を思い出せば、自然と剣心の頬が緩む
この洗濯が終わったらに会いに行こうと思う剣心だった










  


剣心男色家説再び!!(笑

今回は刃衛さんに忍術を使っていただきました
ヒロインさんに心の一方が使えないので
むりやりこじつけてしまいました(汗
ヒロインさん怪我しまくりですね・・・スイマセン
いや、ほんと・・・申し訳ない・・・

次回、蒼紫登場!(ほんとかよ・・・