【出稽古】
高く澄んだ青空の下、せっせと洗濯に勤しむ一人の男
その隣では呆れたような顔でその男を眺めている
「ほんと板についてきたよね〜」
「何がでござるか?」
「緋村の主夫姿」
「ぐ・・・っ」
そんな会話の後、轟音がその場に響いた
ドゴッ
バキャッ
「おろっ?」
「うわっ」
びくぅっと二人は肩を震わせおそるおそる振り返れば
「まったくもう、この助平ガキ!!」
気絶した弥彦を引きずりながら歩いてくる薫の姿
「「おお!」」
「相変わらずボコボコでござるな」
「何よ相変わらずって!」
「薫さん、出掛けるの?」
「うん、今日は出稽古の日だから
いつもお世話になってる前川道場の方に・・・
そうだ!今日は剣心ともこない?」
「え?」
「おろ?」
「師範の前川先生が一度あなた達に会ってみたいと言っているのよ」
剣心がやんわりと断りを口にすると
薫は満面の笑みでお願いという名の脅しを口にした
「いや、拙者は遠慮しとくでござるよ。洗濯の他に薪割りと
風呂焚きもあるし・・・」
「そう、じゃあついでに買い物もお願いね、お味噌とお塩と
お米とおしょーゆ、それとお酢もね」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・やっぱり行くでござるよ」
「そうこなくっちゃ!・・・で、はどうする?」
「あー・・・俺「もちろん行くでござるよな?」
が視線を泳がせるとにっこりとそれは爽やかに笑う剣心
しかし瞳は笑っていなかった
「・・・わかったよ」
「決まりね!それじゃぁ、ハリキって行きましょーっ!!」
「こんにちはー!」
「「「薫さん!!」」」
「ども!」
道場内では門下生が練習の手を止め薫を迎え入れる
は物珍しそうに道場内を見渡した
その奥からゆっくりと歩を進めてくる初老の男に目を留める
「お待ちしてましたよ、ささ、どうぞ上がって下さい」
「あ、お構いなく。どーぞ稽古を続けてください」
「薫君のいう通りだ、いちいち稽古を中断するな」
「あ!前川先生!」
が目に留めた男がどうやらこの道場の師範であるようだ
そのままと剣心の前に歩み寄ってきた
「・・・成程、君達が薫君がいつも話してくれる剣心君と君だな」
その言葉にぴくりと反応したのは剣心だった
そのまま前川は剣心と視線を交えその後と視線を交える
一瞬の静けさの後、ざわざわと門下生達が話し始める
「・・・あれが強いて評判の流浪人」
「ああ、間違いない。俺、見た事ある」
「緋村剣心と・・・」
「あれが先生が是非一度手合わせしてみたいと言っていた男達だ」
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
「いったいどっちが強いかな」
「そりゃ先生だろ、先生は若い頃江戸二十傑に数えられた人」
「でもあの二人、半端なく強えんだぜ」
「まぁ、どっちにしろ手加減できない激しい手合わせになる事は間違いない」
「負けた方は無事じゃ済まない程のな」
などと会話が聞こえてくるなか、じっと視線を交え続けている三人
先に笑ったのは剣心だった、その後前川
は剣心の後ろで声を殺してクックッと喉で笑っていた
それに拍子抜けしたのは薫と弥彦に門下生達だった
「よく来てくれた、是非皆に稽古を」
「いや、拙者達は薫殿の付き添いでござるから」
「左様か、では上座で寛いでいってくれたまえ
茶と座布団を用意させよう」
剣心とは案内されるまま上座の一角に腰を降ろした
前川の行動に戸惑いを隠せなかった薫が戸惑いながら口を開いた
「先生・・・・・・」
「黙っていて済まないね、言えばまず、連れて来ないと思ってね
強者とあらば闘わずにはいられない、古い剣客の性だ。悪く思わんでくれ」
「でも先生・・・」
「心配無用、もう闘う気は失せた。いや、正しくは闘わずして儂の負けってトコだ
いくら『眼』で威掛けても、彼等の瞳は全て受け流してしまった
その上、さも闘うのは御免とばかりにああ微笑われてはな・・・
彼等の瞳は本当に奥が深い・・・彼等は人には言えぬ様な過去を持っているな
隠さんでもいい、でなくばあの若さであの瞳は絶対に出来んさ」
「あいつ等あれでも28と26だぜ」
「何ィッ!!!」
「「?」」
二人がお茶を啜りながら稽古を眺めていると
薫も防具をつけて前川の門下生達の稽古をつけていく
「・・・へぇ・・・・・・結構竹刀が活用されているんだな・・・」
「?」
「曾爺様も本望だろう」
「は?」
「ん?あれ?知らなかった?竹刀を発明したのは俺の曾爺様さ
新陰流とおなじくらいだったか・・・?柳生石舟斎宗厳」
「そうか・・・竹刀を造ったのはお前の一族だったか」
「あぁ、ここまで活用されるとは考えてもみなかったろうけど
っていっても、俺は使った事がないけどね」
薫や弥彦、道場を見渡しては苦笑を零す
そうしていると剣心の隣に前川が腰を降ろした
「いかがかなウチの道場を見て」
「・・・いいですね」
「門下生も多く活気があるでござる」
「何、いつもはこの三分の一も来やせん、今日は薫君が来るから多いだけだ
評判の剣術小町が汗だくになって稽古をつけてくれる
それが若い衆には魅力的な娯楽の様でな
実際彼女が出稽古に来るようになってから門下生は倍増した
本気で剣術に取り組んでいるのは十人いるかいないか
情けないがこれが江戸の昔には名実共に町一番と言われた
大道場のなれのはてだ、もっとも一番情けないのはそう思いながらも
剣友神谷越路朗の大事な忘れ形見を人寄せの道具にしてしまっている儂だがな」
「そんなに自分を卑下する事はござらんよ前川殿
門下生の少ない神谷道場の方でも出稽古は色々と助けになっているでござる
持ちつ持たれつ、でござるよ」
「しかし・・・この先剣術はどうなってしまうのかのう
明治維新と文明開化で一気に廃れてしまい、西南戦争や
撃剣興行で少しは吹き返したものの・・・確実に
弱体と消滅の道をつき進んでいる」
「「・・・・・・・・・」」
「毎日のように『道場破り』が現れてうざったかった昔が嘘の様」
前川が口を噤むのと同時にと剣心の視線は
道場の入り口へと向かった
ガラッ
扉があけられそこに現れたのは
巨大な体躯をした大男だった
男はそのまま足を進める
「こ・・・こら神聖な道場に土足であがるな!草鞋を脱がんか」
師範代であろう男が声を大きくして言うが
男はそれを無視して足を進め前川の前でぴたりと足を止めた
「中越流開祖 前川宮内と見受けた、一つ手合わせ願おう
吾輩は石動 雷十太!日本剣術の行く末を真に憂う者である!」
お久しぶりの更新です(汗
先日PCがいきなり逝ってしまいまして(泣
即日新たなPCを購入(ボーナスの後でよかった(笑)
悩みに悩んだ末、雷十太編から京都編へ向かいます