【道場破り】




「石動・・・雷十太・・・!」


「・・・・・・手合わせ願おう!」


被っていた笠を取り威圧的な声で言い放つ巨体の男・雷十太
は脇に置いていた『村正』を肩に立て掛け瞳を閉じた

自分は関与したくないという意思表示に気付いたのは剣心だけだった



「か・・・帰れ!当道場は今、他流試合は      

「待て!」

「!」


「雷十太とか言ったな、よかろう相手してやる
 通例に習って勝負は三本勝負、先に二本取った方の勝ちとする。よろしいな」



前川の言葉にピクリと反応する雷十太
剣心は真っ直ぐな視線を前川に投げかける


「前川殿」

「わかってる、あの男・・・只者ではない。自惚れるだけの力がある
 だからこそ闘ってみたくなった」

「・・・・・・・・・」


ニッと笑う前川に剣心は口を噤む



「老いたとは言え江戸二十傑に数えられたこの前川宮内
 そう易々と負けはせん」

「・・・・・・竹刀か・・・話にもならんな」

「何・・・?」


「先生!!」



静かなやり取りに大きな子供の声が道場に響いた
入ってきたのは弥彦と同じくらいの年齢の少年だった


「由太郎か・・・遅かったな」

「仕方ないですよ、先生と俺じゃ歩幅が全然違うんですから
 これでも全速力で走って来たんですよ
 まあいいや、それより手合わせは真剣と木刀、どっちです」

「竹刀だ」

「へ?」

「向こうがそう言って来た」

「竹刀、竹刀ですかぁ!
 そんな遊び道具で勝負なんて、なんだここも名ばかりの道場かよ!」



由太郎と呼ばれた少年の大きな笑い声にはぴくりと瞳を開ける
雷十太の後ろで弥彦と由太郎の言いあいが繰り返されている



「・・・遊び道具、か・・・・・・」

・・・?」

「なんでもない・・・」

「そうか・・・(今の前川殿では、勝ちは難しい・・・一、一にもつれ込んで
 最後の一本は向こうがとる・・・か・・・)」


「一本目!!」


薫の声が道場に響く
はすぅっと瞳を細め対峙している前川と雷十太を見据えた


「来い、話になるかならんか教えてやろう!」

「・・・・・・教えてくれずとも既にわかっておる
 竹刀で三本勝負・・・・・・・という時点でもはや貴様など『話にならん』のだ!!」

「!!いかん!逃げろ前川ど       



剣心が言い終わる間もなく雷十太の振り下ろした竹刀は前川の肩口に届いていた
そして再び頭上に振り下ろす

この時剣心は膝立ちになっているが、はというと姿勢を崩すことなく静観している
その瞳は冷たく冷え切っていた


「おい、今の面は無効か」

「め・・・面あり一本!」


膝を折る前川の元に弟子達が駆けつけるがそれを振り払い
二本目を申し出る前川、それを見て膝立ちになる剣心


「緋村君、止めんでくれよ」

         ・・・・・・」

「二本目!!」

「まだ、勝負はついておらんだと・・・
 笑止!最初の一撃で貴様など既に死んでおる!!」


なんの躊躇いもなく前川の頭上に竹刀が振り下ろされそのまま前川は気絶する
見ていられないというような顔で薫が声を上げた


「一本!勝負あり、それまで!!」


だが雷十太は崩れ落ちようとする宮川の胸倉を掴む


「!待ちなさい!何を!!」

「己の敗北も見えぬ愚物が!」


そう言い雷十太は宮川に止めを刺そうと竹刀を構えた時、剣心が逆刃を抜いた
はそれを黙って見ていた、というか思考は別の所にあった



「・・・・・・(ここ数年、全国で道場破りが多くあると聞いていたけど・・・
 もしかしなくても目の前にいるこの馬鹿か?)」


「・・・お主の二本勝ちで勝負はついたはず、殺す気でござるか」

「・・・・・・いかにも、そもそも人の命は一人に一つ、故に三本勝負など有りえん事
 勝負は常に一本、るかられるかである
 江戸以降、竹刀の発明により確かに剣術は隆盛した。だがそれにより
 古流に見られる超人的強さは失われ、剣術は確実に弱くなった
 そして今弱体化は進む一方!この憂うべき時にまだ竹刀でピシパシやって
 喜んでおる愚物共に剣を握る資格などない、ただ一人を除いてはな・・・!」

「・・・はぁ・・・(真剣持ち歩いてる私が言うべき事じゃないけど・・・
 『廃刀令』という言葉を知らないのか?憂う時など当に過ぎただろう・・・
 それに剣心も熱くなってるな・・・殺気を読み違えている・・・・・・厄介な事になりそうだな)」


などとが考えていると『看板を燃やせ』などと聞こえてきてもうひとつ溜息
そうしていたら今度は薫が進み出るが、剣心が変わりに立った



     ・・・拙者が相手を致そう、だが、これはあくまで道場での手合わせ
 獲物は竹刀でござる」

「・・・よかろう、だが勝負は一本だ」



剣心は逆刃をに渡す
それを受け取り漸くが口を開いた

「竹刀なんて使ったことあるのか?」

「いや・・・あまり使った事はないが、なんとか・・・」

「それにしても・・・色んな意味で鈍ったんじゃないか?」

「やもしれぬ・・・」


剣心はの言葉に苦笑して雷十太と向かい合い正眼に構える
それを見て『へぇ・・・』と口の端を上げたのは
薫と弥彦はそれを不思議に思っていた

竹刀を大きく振り降ろす雷十太とそれをかわす剣心
かわしてばかりいる剣心に雷十太は不満を持ち始める



「・・・何故打ち返さぬ、吾輩を愚弄しておるのか」

「そうではござらん、言ったでござろう
 力比べや見せるために剣を振るう気はないと」

「・・・成程、引き分けに持ち込めば吾輩は看板に手を出せなくなるという腹か
 ならば、これはどうだ」


先程よりも速く振り下ろされる竹刀に剣心も構える
が、剣心の眼に映った竹刀の先がぶれた
それはの眼にも映った



「緋村!!」

「!!」


が叫び剣心が横に飛びかわすと、木目を無視した亀裂が床に入っていた
そして剣心の持っていた竹刀は綺麗に切り落とされている



「フム・・・帰るぞ!」


由太郎にそう言い道場を出て行く雷十太
剣心は切れた竹刀を見ている
それを横目で見つつ、は床の亀裂に目を向けた
道場の弟子達は『真剣と叩きつけたみたいだ』と零しているが
剣心もも無言でそれを聞いていた






前川道場より戻って神谷道場


「あの技は一介の道場破りの使う技ではない、石動雷十太とやらは一体何者か?
 なんて事考えてるんだろ?」

に隠し事はできぬでござるなぁ・・・」

「一介の道場破りの使う技であるにしろないにしろ
 『道場破り』は『道場破り』だよ、俺の言ってる意味わかる?」

?」

「しかも時代錯誤で考え無しの、ね」


縁側に座ってお茶を啜りながらは話す
その言葉に剣心や薫、弥彦は首を傾げる


「あのねぇ・・・俺や緋村が言えた立場じゃないんだけどさ
 『廃刀令』が布かれているの忘れたのか?」

「「「あ・・・」」」

「考え無し、とはどういう意味でござる?」

「だからさ、竹刀でピシパシのお遊びって言ってたろ?」


その言葉に薫と弥彦は眉を顰める


「よく考えてみろよ、竹刀もしくは木刀で稽古しなきゃ
 それこそ命がいくつあっても足りやしない、命があったとしても
 五体満足とはいかないだろうねぇ・・・なんて言ってる俺は使ったことないけど」


あははと笑っているにどう反応していいのか剣心たちは考えてしまうが
の言っていることは一理ある


「だけどよ、『道場破り』は『道場破り』ってどういうことだよ」

「そのままの意味だよ、『道場破り』なだけでそれ以上でもそれ以下でもない」


はお茶を飲み干して「そろそろ姐さん宅へもどるよ」と手を振って神谷道場を後にした
残された剣心達は首を傾げるばかりだった