【殺人剣】
真古流の襲撃から十日、雷十太は何の動きも見せていなかった
が神谷道場へ向かった時、大きな声が聴こえてくる
「やっぱりてめーに打ち込まれるのはムショーに腹が立つ!!!」
「なんだぁ、やるか!!」
「・・・・・・今日も賑やかだなぁ・・・」
足を踏み入れれば弥彦と由太郎が喧嘩をしている
それを薫が止めている
「あ、・・・」
「や、緋村。薫さんが喧嘩を止めにはいるなんてねぇ」
「最近はずっとそうでござるよ」
剣心とが苦笑しあっているあいだに
無理やり稽古を終わらせ赤べこへ夕食を食べに行く事になった
赤べこでも騒々しかったが薫の鉄拳でおさまり弥彦の手伝いが終わるのを待ち
足並みを揃えて帰路についた
その間、由太郎が雷十太との出会いを話し始める
それを聞いていたは途中引っ掛かりを覚えるがあえて黙っていた
が、の考えを左之助が口に出す
「あの雷十太が人助けねぇ、なんか嘘みてーな話だな」
「黙れトリ頭!!先生は無口で無表情だから、みんな誤解してんだよ
先生の真剣を見たのはあの時が最初で最後だけど
あのこの世の全てを蹴散らかす様な強さこそ俺の理想なんだ
あれくらい、先生くらい強くなれば俺は親父のような無様な生き方をしないで済む
緋村剣心、いずれあんた先生と闘うんだろう?そん時は正々堂々真っ向勝負で頼むぜ
それが無敵同士の闘い 」
瞳を輝かせながら振り返った由太郎のその瞳に映ったのは奇襲をかけてきた雷十太だった
「先生っ!!?」
「「「「「「!!」」」」」」
キィン・・・ッ
は薫を庇い、剣心は弥彦と由太郎を抱え左之助は自分で雷十他の剣をかわし飛びのいた
「・・・(嘘でしょ・・・・・・先生!!)」
「・・・(真剣での秘剣『飯綱』!なりふりかまわず本気で殺す気に出たか!)」
「夜道で背後からの不意討ちかよ、いよいよバケの皮が剥がれてきやがったな」
舌打ちをする雷十太を見ながら左之助がニヤリと笑う
「違うっ今のはただのアイサツがわりだ!
今のは全然本気じゃなかった、そうですよね先生!!」
「あーぁ・・・(盲目的だとは思ってたけど・・・後で立ち直れるか・・・)」
「・・・・・・先生」
チャキッと雷十太が刀を握りなおす音が聞こえると剣心とは瞳を細める
「・・・・・・離れているでござるよ」
そう言い、視線でに「手出し無用」と伝える
「ぬん!!!ぬおおおおう!!」
振り下ろされる刃を紙一重でかわしていく剣心
隙をついて雷十太の背後をとる
「!」
「俺の斬馬刀の似た様なモンだな、どんなに威力があってもあたらなきゃ意味がねぇ」
「ぬう」
「(目潰し)先生!!」
振り向き際に土を蹴り上げて刃を振り下ろすが既にその場所に剣心はいなかった
「甘えって」
雷十太に振り下ろされる剣心の逆刃『龍槌閃』
「ぬ゙う!」
龍槌閃を受けても倒れることなく踏み止まった雷十太は唇の端を吊り上げた
「どうやら貴様は『纏飯綱』の方では倒せんか、こちらの『飯綱』は奥の手だったが
止むをえん!!秘剣!飛飯綱!!」
振り切られる刀から迫り来るナニかを剣心はかわす
「ちぃっ」
剣心の後ろにいたのは由太郎、は由太郎を抱え横に跳ぶが
ドンという音とともに背中にはしる微かな痛み
そして腕にかかる由太郎の体重が増し、腕に生温かいものが流れる感触
由太郎の右腕から流れる血だった
「!!由太郎!」
「俺は大丈夫、掠っただけだ・・・それより、早く止血して医者に 」
「放っておけ、急所にあたらければ死ぬ事はない」
雷十太の言葉に剣心達は顔をあげるが、は自分の袖を裂き止血の手を止めない
「バカヤロウ!てめえの技で自分の弟子が怪我したんだぞ、わかってねぇのかっ」
「わかってないのはお前等の方だ、吾輩が本気でそんな小童を弟子にすると思っていたのか」
「何・・・ですって・・・」
「今の世の中、剣術が金にならんのはよく知っておろう
だが、真古流を興すには多額の資金が欠かせぬ
資金を得るには出資者を持つのが一番易く手っ取り早い
その小童は出資者のガキ故、うざったいにを我慢して師のフリを演じたまで」
「・・・出資者欲しさに破落戸を雇って狂言強盗をしたってトコか」
止血を終えたが刺す様な視線を向ける
「・・・っ、そうだ、そこまでして作った出資者をここで失くすのは惜しいが
まあいい、代わりなどどうにでもできる」
「先・・・生ぇ・・・」
「今は貴様を倒す事が先決である、いざ!!」
そう言い放ち構える雷十太を見据えが柄に手を添えると同時に
その手を上から剣心の手が掴む
「緋村・・・わかったよ」
は剣心の表情を見て諦めるように溜息を吐いた
それを確認して剣心は由太郎を抱え踵を返した
「な・・・!貴様、いまさら勝負を棄てる気か」
「・・・一刻程そこで待っていろ、貴様には生き地獄を味わわせてやる
、行くぞ」
「いや、俺はここに残ってるよ」
「っ・・・・・・今宵覚えておけ・・・」
剣心の最後に呟かれた言葉に悪寒を感じつつその場には残った
「・・・ぬう・・・・・・これで三度目、またしても仕切り直しとは・・・」
「ったく、この羽根オヤジは自分の仕出かした事に気づいてねぇな
おめえはこの世で一番恐ろしい男の逆鱗にとうとう触れちまったんだぜ」
「ふ・・・久々に見たよ、あんな緋村。だけど・・・あの頃に比べたらまだ可愛いもんだ」
「?」
なんでもない、と苦笑しながらへらっと笑いは空を見上げた
「む・・・貴様も真剣を持っておるな・・・・・・話に聞いていた緋村剣心の仲間とやらか?」
「どの話かは知らないけど・・・緋村の仲間といえばそうかもね」
「相当な腕を待っていると聞いた、我が下に来い」
「断る」
きっぱりと即答するに左之助は噴出す
「真古流だかなんだか知らないが、力を驕るだけの集団に興味は無い」
「なっ・・・貴様っ」
「やるか?俺は緋村のように殺人剣を封じてはいない
やるなら覚悟を決めてくるんだな」
「おいおい・・・剣心にどやされるぞ、
それに羽根オヤジも、剣心と勝負しに来たんだろ?」
「ふん・・・・・・遅い、もはや一刻は疾うに過ぎた
あの男、秘剣に恐れをなして逃げおったか・・・」
雷十太の呟きにと左之助は呆れた溜息を吐いた
「馬鹿が、自分より弱いのを相手に逃げる道理が何処にあるってんだ
おっと悪い、あんたが逃げる口実にケチをつけちまったな
止めやしねーから行きな、剣心が相手じゃ仕方ねぇ
逃げられるモンなら逃げた方が身の為だもんな」
「・・・煽ってどうする」
「口に気をつけろ、若僧。ヒマつぶしにお前と遊んでやっても構わんのだぞ」
「俺も別に構わねぇけどいいのかい?
剣客ならいざ知らず喧嘩師相手に負けたとあっちゃあ、あんたお終いだぜ」
「さっき俺を止めたのは何処のどいつだ?」
左之助の言葉に突っ込みつつも殺気を纏おうとした時
後方から駆けてくる足音が近づいてきた
「ち、あんたも俺も運が無ぇ。ぐずぐずしてるから
帰って来ちまったぜ、真打ち登場だ」
「雷十太ぁ!!由太郎の無念は俺がはらす!覚悟しろ!!」
やってきたのは弥彦だった、予想外の事に左之助は驚くが
はその後ろから来る気配に頬を緩めた
「フ・・・これは大した真打ちだ」
「バカやろう、おめぇの勝てる相手じゃねぇって!」
「うるせぇ離せ!例え勝てねぇでもこれだけは譲れねぇんだよ!!」
「そこを何とか譲ってくれぬか」
「剣・・・・・・っ」
後ろに現れた剣心の雰囲気に弥彦はゾクリと体を震わせた
「同じ無念をはらすなら勝てる方がいいさ、な・・・」
「・・・・・・わかったよ、頼むぞ」
「承知」
「・・・(話し方が昔に戻ってない所をみると存外冷静だな)」
剣心はと擦違い際の一瞬に視線を交わすと雷十太と対峙した
「・・・・・・今度こそ貴様を倒す!!」
「・・・・・・・・・」
「そして吾輩は我が真古流の時代を築くのだ!!ぬん!!!」
雷十太が吼え刀を振り下ろす
それを僅かに移動するだけでかわす剣心
「・・・気づいたようだな、緋村・・・」
「あん?何をだ?」
「『飯綱』だよ、あれは一種のかまいたちだ」
「ほぉ〜」
「!!」
「俺と緋村が気づいた事に驚くことはないよ
そしてそれを緋村にかわされた事も
一度見た技を二度喰らうのは三流以下のやることだ」
「秘剣『飛飯綱』斬れ味が凄えから、受け止めるこたあ出来ねぇが
拳銃の弾丸をも見切る超一流にとっちゃ、避けるに難はねぇ」
の言葉に続けた左之助を剣心は一睨みするが、すぐに雷十太を見据える
「ぬ・・・うう・・・・・・ならばこれでどうだ!!ぬん!!!!」
あちこちに飯綱を飛ばす雷十太に呆れた視線をやりは弥彦と左之助を間合いの外に出す
そして剣心はことごとくそれをかわしていくが飛ばされた飯綱の一つが腕を掠める
「「!?」」
「ん?(剣心・・・腕が・・・?)」
「ハッハ ッ!!!見たか、これが『飯綱』だ!
古流の秘伝書より見出し、十年の歳月を費やして会得した我が秘剣!
た易く破れるものではないわ!!これこそ我が真古流の象徴!そして・・・究極の殺人剣!!」
「嬉しいか?」
「・・・はぁ(馬鹿だ馬鹿だとは思っていたけど・・・本物の馬鹿だ)」
「あ?」
「たかがこんなカスリ傷を負わせただけでそんなに嬉しいとは大した殺人剣だ」
「うぐ・・・・・・」
「今ので確信したよ雷十太、殺人剣を唱えてはいるが
お前は人を殺めた事は一度もない
人を殺めた事がある本当の人斬りならば
相手を仕留められなかった自分の剣を喜々として語りはしない
お前は人斬りの剣が持つ奈落の深さを全く知らない
そして、お前の無知にして幼稚な剣が由太郎から剣術を奪った
それ相応の代償は覚悟してもらう!!」
「むぐぅ・・・」
「勝負あったな、雷十太のヤツ位負けしてる」
佐之助が剣心の異変に気付く
「・・・なんかおかしくねぇか」
「あ?」
「・・・おい剣心、もしやお前ぇ・・・右腕・・・・・・」
「ああ、縫合の時の麻酔がまだ効いていて思うように動かぬ」
「「なにぃ!」」
「だが、雷十太・・・お前如きを倒すには左腕で十分でござるよ」
「怒っ ッ!!!貴様ァー!!
どこまでも吾輩を愚弄しおって、もう許さんっ殺す!!」
剣心の言葉に一気に怒気を膨らませ攻撃を仕掛ける雷十太
先程と同じように剣心は雷十太の攻撃をかわしているだけの戦闘をみて
左之助が唇を噛み締め、弥彦は食い入るように剣心を見ている
は冷静に二人の動きを目で追っていた
「こりゃあ、やべぇかも・・・」そう左之助が呟いた時、剣心の足を飯綱が掠めた
「剣心!!」
「勝負あったな、いくら貴様が早くても足をやられては自在に動けまい」
「だから・・・・・・掠っただけでいちいち喜ぶな」
「ほざけ、いきがろうがこれだけの距離では貴様は反撃は出来ん
吾輩の様に飛飯綱でも使えば話は別だがな」
「飛飯綱か・・・拙者には無理だな」
「この勝負、間合いを制した吾輩の勝利だ!!死ね!!!」
「だが、間合いの外からの攻撃ならば拙者も可能っ!!
飛天御剣流 抜刀術!!飛龍閃!!」
剣心は全身を使い逆刃を鞘から弾き飛ばした
弾き飛ばされた逆刃の柄尻は遠心力も加わって一閃に雷十太の額に直撃した
この時、剣心の髪を結んでいた結紐が切れ
剣心の背にはらりと緋色の髪が流れた
「右腕を使わずに鞘内から刀を矢のように弾き飛ばすたぁ・・・
(ったく・・・本当に左腕一本で倒しちまいやがった)」
「剣心!!」
「ぬおおおおおっ!!」
地に伏していた雷十太は剣心の元に駆け出した弥彦の足を掴みあげた
「「「!!!」」」
「う・・・動くな!動けばこのガキを殺す!!」
「・・・・・・」
雷十太の言葉を無視するように剣心は地に刺さっていた逆刃を抜き取り
は静かに刀に手を添えた
「このガキを殺すと言ってるんだぞ!!か・・・刀を放せ!!」
「殺ってみろよ」
「!」
「殺れるもんなら殺ってみろ!!
俺は死んだっててめえなんざに屈しねぇ!!!」
足を掴まれ逆さ吊りにされてなお弥彦は竹刀を構えた
「本人が殺れって言ってんだ、殺ってみろよ。真古流は殺人剣なんだろ」
「真剣だとか、古流だとかそんなことで殺人剣は決まらない・・・
奪った命の重みで己が奈落へ落ちる剣・・・それが殺人剣だ」
「・・・?」
剣心がを振り返った時、既には抜刀していた
「ぐあっ」
「って!」
刀が地に落ちる音が響き、弥彦は落とされた
雷十太の右腕からは血が流れていた
「飛飯綱とやらは自分しか使えないとでも思っていたか?
こんなもの剣術とはいえないから使いたくはなかったが・・・
人を殺した事のないお前が殺人剣を語るな
そして、それがわからないお前は剣客としては弥彦にも勝てないだろうな」
「う・・・うぐうううううう!!」
頭を抱え蹲る雷十太を見つめる
「で、どーする?仕置きにもういっちょ腕をひねっておくか?」
「その必要はござらんよ、この男の自信は粉砕された
それにあの傷では・・・由太郎と同じく剣は握れまい・・・・・・」
剣心の言葉に「あの傷ではやはり・・・」と溜息を吐いた
そしてにっこりと笑う剣心に肩を掴まれ頬を引き攣らせる
「ひ、緋村?」
「ん?なんでござるか?」
「い、いや・・・この手は何かなぁって」
「例え掠っただけで出血も大した事がないからといって手当てをしないわけにはいくまい?」
「じ、じじじじ自分でできるよっ」
「ほう・・・傷を負っているのは背なのに自分でどうやってするのだ?」
「そ、それは・・・ちょ・・・っ、緋村!左之助っ見てないで助けろ!!」
後ずさりするを軽々と肩に担いでスタスタと歩き出す剣心
それを唖然と見送る左之助と弥彦
この夜、剣心は神谷道場に帰ることはなかったとか・・・・・・

