【対峙】
「人斬り 抜刀斎は、新撰組三番隊組長 斎藤 一が殺る」
「初めまして、私、石田散薬という妙薬を扱っている
多摩の薬売りで 藤田 五郎と申します」
「 ・・・てめえ何者だ?」
「・・・なかなか鋭い男なんですね、相楽 左之助君」
神谷道場で藤田 五郎と名乗る男と左之助が対峙している時
剣心達は出稽古からの帰路にいた
「何、のそのそ歩いてるの 剣心」
「ん・・・」
「ぐずぐずしてると陽が暮れちまうぜ」
「なんか元気ないわね・・・お腹でも痛いのかな」
「ふーん、だったら、私の出番ねえ」
「め・・・恵さん!!」
薫と恵が騒いでいる先に剣心が視線を向けると
川に白菊を一輪ずつ流しているの姿が目に入った
その姿は儚く、今にも消えてしまいそうに見えた
瞬間、鳥羽伏見の戦いで掻き消えるの姿が脳裏に浮かんだ
「っ!!」
いきなり走り出す剣心に驚きを隠せない薫と恵
「ちょ・・・っ剣心!?」
「剣さん!?」
「・・・っ!」
「うわっ、ひ、緋村?」
いきなり後ろから抱き締められ、驚き振り返ろうとするが
微かに感じる剣心の震えには困惑する
「ど、どうしたの?緋村・・・」
「・・・・・・かないでくれ・・・」
「え?」
「何処にもいかないでくれ・・・消えないでくれ・・・」
「馬鹿だなぁ・・・消えるわけないだろ?」
「・・・・・・・・・」
「俺が選んだのは、緋村がいるこの時代だよ?」
の言葉に抱き締める腕に力が入る
その腕をはぽんぽんと叩き、身体を剣心に預ける
「本当にどうしたんだ?」
「いや・・・ここの所、夢見が悪いだけだ」
「そっか・・・大丈夫?」
「あぁ・・・すまなかった」
「ちょっとぉーっ!男同士で何やってるのよぉ!!」
「「あ・・・」」
薫の叫び声に剣心とは我に帰り
顔を見合わせて苦笑した
ぶつぶつ文句を言う薫と恵を宥めながら道場へと足を向ける
門をくぐると達の視界に入る大穴の開いた道場の壁
「緋村・・・っ」
「ああ!・・・血の匂い・・・!?左之!!」
道場に駆け込めば血溜まりの上に左之助が倒れていた
慌しく治療を始める恵とそれを手伝う薫、弥彦
剣心とはそのまま道場に残っていた
「笠に丸印の薬箱・・・石田散薬、か・・・」
「あぁ、それに傷口に水平に突き刺さった折れた切っ先・・・
この尋常でない破壊力・・・あの男の仕業か・・・」
「そう考えるのが妥当だろうね・・・(まさか剣心の方にくるとは・・・ね)」
恵の懸命の治療の甲斐あって左之助は一命を取りとめた
が、三日経っても左之助の意識は戻らなかった・・・
「剣さんはまた道場?」
「ええ、相変わらず怖い顔して何か考え込んでいるわ
も・・・難しい顔して帰っていったし・・・」
暗闇の中、蝋燭の朧気な明かりが剣心を照らしている
・・・やはり、どう考えてみても奴の仕業としか考えられないな・・・
あの薬箱は新撰組の密偵が変装用によく使った代物
水平に突き刺さった切っ先は、新撰組隊士独特の技『平刺突』の証
そしてあの破壊力は、その中でも間違いなく奴が最も得意とした左片手平刺突『牙突』・・・
新撰組三番隊組長 斎藤 一
着かなかった決着を着けにきたか・・・
それとも、他に何か別の目的があるのか・・・
の様子もどこか可笑しい・・・
逆刃を握り道場の壁に斬りつけるが、穴をあけるまでに至らない
斎藤 一の剣腕は全く衰えていない・・・
壬生の狼と呼ばれていたあの頃のままだ・・・
逆刃刀で 不殺のままで・・・果たして奴を退けられるか・・・
その翌日、剣心の元に斎藤からの手紙が届いた
そしての元にも一通の手紙が届いた
「何の用です?陸軍卿さんが俺を呼び出すなんて・・・余程のことですか?山縣さん」
「随分な言い草だな、・・・」
「はっ、今度は何を企んでるんです?それとも・・・誰かに貸しを作りたい、とか?」
「何の事だ?」
「俺が何も知らないとでも?今、京都で暗躍し始めている元・長州派維新志士・・・」
「な、何故そのことを・・・っ!?」
「俺が動けば緋村が動くという見解の元
あんたは緋村を動かすために俺を呼び出した、違いますか?」
「っっ!!」
「あんたが今、貸しを作っておきたい相手・・・
最後の維新三傑・・・内務卿 大久保 利通、って所かな?」
「・・・っ」
「時代が変わって、あんたも変わった・・・
俺はあんたの思惑通りには動かない
尤も、京都には戻りますけどね・・・」
「ならば・・・っ」
「俺は、自分に降りかかる火の粉を振り払うだけだ」
苦虫を噛み潰したような顔をする山縣を一瞥してはその場を去った
その足で神谷道場へ向かうと門前で薫がおろおろしながら立っている
「!!」
「薫さん・・・どうかしたんですか?」
「実は・・・剣心を狙っている連中がいるらしいのっ」
「!・・・その話はどこから?」
「今、警視庁の警部補で剣客警官の藤田 五郎さんが来ているの」
「藤田・・・五郎・・・・・・?」
「ええ、道場で剣心を待っているわ」
「へぇ・・・」
はそのまま道場へ向かうと
弥彦と藤田と名乗る警官が話をしている
「へぇ・・・警官の刀は西洋刀だとばかり思ってたけど
日本刀もあるんだな」
「サーベルは脆くて頼りないんでね、私は特別に許可をもらったんだよ
やはり、刀は日本刀に限るからね」
「確かに、ずっと使っている得物のほうが手に馴染んでいるしね」
「!?」
「・・・修羅童子か・・・・・・」
「お久しぶりです、新撰組三番隊組長 斎藤 一さん
こんな所で何をしているんです?」
「し、新撰組!?」
の言葉に驚く弥彦
斎藤は不敵に口の端を吊り上げと向き合う
も同じようにニヤリと微笑う
「まさか、斎藤さんが密偵をやってるなんて思いませんでした」
「フン・・・山縣に呼び出されていたんじゃないのか?」
「ああ・・・くだらない話だったから、さっさと帰ってきたんですよ
俺は誰かの駒になる気はないもので」
「貴様は抜刀斎とは違ってあの頃のまま・・・か、確かめさせてもらおう」
「はぁ・・・斎藤さんの相手は緋村じゃないんですか?」
「・・・準備運動にはなるだろう」
同時に踏み込み抜刀する
甲高い金属音をあげて一瞬の鍔競り合いの後、互いの間合いを取る
展開の早さについていけない弥彦は唖然として見ているだけだった
「こうして斎藤さんと対峙するのは初めてですね」
「貴様の相手は副長か沖田君がしていたからな」
「そうです・・・ねっ」
斎藤から繰り出される突きをかわし攻撃を仕掛けようとするが
突きだされた刃は横に薙ぎ払われる
それを間合いをとることでかわす
「ち・・・っ、その土方さんの考案した『平刺突』はやっかいですね」
「フン・・・腕は衰えてないようだな・・・・・・」
再びじりじりと間合いを詰めていき互いの間合いに入ろうとした時
剣心と薫が道場に駆け込んできた
「!!・・・やはり貴様か・・・斎藤 一」

