【壬生狼】



!!・・・やはり貴様か・・・斎藤 一」


駆け込んできた剣心がの前に入り込み斎藤を睨み上げる
はそれを見て刀を引いた


「準備運動はここまでのようですね、斎藤さん」

「フン、その様子じゃあ赤末如きに相当梃子摺ったみたいだな
 お前も随分弱くなったもんだ
 最後に闘ったのは確か、鳥羽伏見の戦場だったから大体・・・十年ぶりか」

「赤末って・・・なにしたんですか斎藤さん・・・」



剣心と斎藤が出すピリッとした殺気が辺りを充満し薫と弥彦は緊張する
はその場を離れ壁に背を預けて成り行きを見ることにした


「薫!!こいつ新撰組で剣心を狙っていたんだ!!」

「な、んですって・・・」


「十年・・・・・・言葉にすればわずか二文字だが
 生きて見れば随分長い年月だったな」

「・・・・・・ああ・・・人が腐るには充分な長さのようだ
 鵜堂刃衛は最初からイカれた男だったが、お前はそうではなかった
 幕末むかしのお前はつかみどころのないしたたかさを持ってはいたものの
 いざ闘うとなれば正々堂々、真向勝負を挑んできた
 敵の友人を傷つけ動揺をさそったり
 かませ犬をぶつけてそのスキに人質を取ろうとしたりなどと
 姑息な小細工は一切しなかった。
 今のお前はもはや拙者が『士』と認めた『斎藤 一』ではござらん」

「・・・・・・フ、フフフフ・・・フハハハ
 ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

「ヤロウ、何がおかしい!!」

「可笑しいさ坊主、これが笑わずにいられるか
 なぁ、修羅童子・・・?剣が鈍ったとは思っていたが
 頭の方もここまで鈍っていたなんてな」

「俺に振らないでください」



は顔を顰め視線を落とす
逆に煽られているのは薫と弥彦だ


「赤末がかませ犬だと?馬鹿を言うな
 あんな小者、かませ犬にすらならんことぐらい百も承知だ
 人斬り抜刀斎の強さは最も多く闘った新撰組おれたちが最も深くわかっている
 しかしながら今のお前は赤末如きに梃子摺った
 『不殺の流浪人』がお前を明らかに弱くしたんだ
 そう思わんか?修羅童子・・・」

「剣心が・・・」

「弱い・・・?」

「だから俺に振らないでください・・・
 まあ、あの頃に比べてなら・・・あえて否定はしませんが・・・」

!お前どっちの味方だよ!!」



の言い方に弥彦が噛み付くがはそれ以上口を開くことはなかった


「・・・・・・斎藤、お前がどう思おうが構わんが
 今の拙者は自分の目に映る人を守れる『流浪人』としての
 強さがあればそれでいい
 人を殺める『人斬り』としての強さなど、もう必要ござらん」

「「剣心・・・」」


緊張の中、剣心の言葉に薫と弥彦に笑顔が戻る
それを斎藤は鼻で笑う


「流浪人としての強さ・・・ねえ
 だとしたら今のお前は『流浪人』すら失格だよ」

「!?」

「お前が俺の策にはまって、赤末に苦戦している間
 俺はずうっとここにいた
 そして警官ということで、ここの連中は誰一人として全く警戒しなかった。
 つまり・・・修羅童子が来なければ、いつでも殺れたという訳だ」


斎藤の言葉に絶句する剣心


「今回だけに限ったことじゃない
 刃衛の時も、観柳の時も、お前はお前の言う目に映る人を
 敵の手中に取られてしまっている
 挙句、雷十太如きの愚物に一生ものの傷を許してしまっている
 半端な強さなど無いに等しい、口先だけの偽善者の言葉など
 胸糞悪くなるだけだ」

「ぬかせ!それでも剣心がいたからこそ
 誰一人、死人が出ていねーんだろーが!!」

「だが、これからもそううまくいくとは限らんだろう」

「・・・・・・・・・」


斎藤は剣心、弥彦、薫そして最後にに視線を向けて大げさに溜息を吐いた



「抜刀斎ならこのくらいのこと、自ずと悟るだろうと赤末をけしかけてみたが
 お前の言う通り、十年は人を腐らせるには充分な長さだったようだ
 不殺の流浪人などと自己満足のエセ正義に溺れおって・・・
 人斬り抜刀斎が人を斬らずにどうして人を守れる
 忘れたか、『悪・即・斬』それが新撰組と人斬りおれたちがただ一つ共有した
 真の正義だったはず・・・・・・今のお前をこれ以上見てるのは我慢ならん」

「・・・お前がなんと言おうと、それでも拙者はもう人を殺めるつもりはござらん」



剣心の静かに斎藤を見据え言い放つその姿を見て
は哀しそうに顔を歪めた


「そうか・・・修羅童子」

「な、何?」


ここで自分に声がかかるとは思っていなかったは、はっと顔を上げる
斎藤はにゆっくりと歩み寄りニヤリと口角を上げる


「土方副長からの伝言だ・・・
 『例えこの身が朽ちようとも、夜叉姫・・・お前を愛し続ける。』だそうだ」

「っ!!んぅ・・・っ」

「なっ・・・!!」


無防備に構えていたの腕を斎藤は引き寄せ、そのまま唇を奪う
剣心に見せつけるようにの唇を一舐めして不敵に笑う
薫と弥彦には刺激が強かったのか赤面して口をぱくぱくと開閉している

僅かに涙目になっているを見て、剣心は米神をぴくつかせながら駆け寄り
を抱き締め斎藤を睨みつける。その瞳には殺気がこもっていた


「・・・になにをする、斎藤・・・・・・」

「ふん、副長からの最後の指令でな修羅童子への伝言だ」

「伝言なら普通に話せばいいだろう!!」

「ほう・・・やはりお前の逆鱗に触れたか。来い、お前の全てを否定してやる」

「剣心!!」


薫が剣心を呼び止めようとするがその声は剣心には届かない
ゆっくりとから離れ道場の中央に足を進める


「緋村・・・今のままじゃ負けるぞ」

「あぁ、解っている」

「来い」

「挑んだのはそっちじゃなかったか?」

「フ・・・成程、そうだな・・・ならば、行くぞ!!」



斎藤は刀を構え一気に踏み込む
繰り出される攻撃を剣心は跳躍してかわし逆刃を抜く
崩される道場の壁、呆れたようにはそれを一瞥して再び壁に背を預けた


「飛天御剣流 龍槌閃!(弱くなんてねぇ、やっぱり剣心は最強だ!)」

「それで避けたつもりか抜刀斎!!」


吐き出した刀を剣心に向けそのまま再び踏み込む


「!!(対空の牙突)」

「「剣心!!」」


剣心の脇腹から血が流れる


「く・・・」

「腰を捻って串刺しだけはさけたか、思ったよりいい反応だ
 が、詰めが甘い!!」


斎藤はと対峙した時のように刀を横に薙ぎ払った
脇腹から腹にかけて斬りつけられた剣心はバランスを崩し斎藤に蹴り落とされる


「刺突を外されても間髪入れずに横薙ぎの攻撃に変換できる
 戦術の鬼才新撰組副長 土方歳三の考案した『平刺突』に死角はない
 まして、俺の『牙突』なら尚更だ」

「あの構え、またあの技が・・・」


剣心が立ち上がったのを見て、斎藤は踏み込む
響く金属音、そして再び壁に叩きつけられる剣心


「無駄なあがきを!無銘だが幕末の頃から明治に至るまで
 数々の危難を払い続けたこの技と愛刀、今のお前に破れる代物じゃない」

「剣心!」


座り込む剣心に駆け寄るのは薫
それを静かに見続ける、握り締めた掌に血が滲む

息を荒げている剣心の纏う雰囲気が眼つきが僅かに変わっている


「どけ、小娘・・・邪魔だ」


斎藤の前に薫は立ち塞がるがそれを斎藤は鼻で笑う


「今のお前にはこの程度の小娘がお似合いだ
 修羅童子に並び立つには今のお前では役不足だ」


その言葉に触発されるように剣心は斎藤を睨む
前に立つ薫の肩に手をかけ場所をあけるように促す


「あ・・・」

「いくぞ」


斎藤が剣心の変わり様に思考を巡らせている間に
剣心は呼吸を整え隙をついて踏み込む



「!!(更に速くなったか)」


同じように斎藤は突きを繰り出すがその場所に剣心の姿は無かった


「な・・・(消えた!・・・・・・下!!)ぬ・・・うおおおおおお!」


斎藤は反射神経を生かし蹴り上げるが剣心はすぐに体勢を立て直し
再び呼吸を整え斎藤を睨む視線には更に殺気がこもる
そして自分の考えを確かめるために斎藤は刀を構え口角を上げる



「確かめるにはこれしかないな
 正真正銘の牙突、手加減無しだ」

「な・・・あれで、今まで手加減してたのかよ!!」



先に仕掛けたのは斎藤、剣心はそれをかわし利き足を軸に半回転し
遠心力を加えて逆刃を斎藤の背に叩きつけた


「いくら牙突が凄かろうと、こんな短時間に四回も見せられれば
 返し技の一つや二つ阿呆でも思いつくさ、立て・・・斎藤
 十年振りの闘いの決着がこれしきではあっけないだろ」

「フ・・・フフ・・・本当は力量を調べろとだけ言われていたが
 気が変わった、もう殺す・・・

寝惚けるな『もう殺す』のは俺の方だ



剣心の言葉を聞いて薫は涙を流し膝をついた


「止めて・・・誰かあの二人を止めて・・・」

「お、おい薫・・・?」

「「おおおおおお!!」」

「誰かあの二人を止めて          !!」



薫が取り乱してもは剣心と斎藤を静観している
甲高い音が響いた後、折れた斎藤の刀の切っ先が道場の床に刺さる


「次は貴様の首を飛ばす・・・」


「すげえ・・・なんか今日の剣心はいつも以上にキレているぜ」

「違うのよ!あれは剣心じゃない、人斬り抜刀斎なのよ!!」

「はあ?」

「だから抜刀斎なんだってば!弥彦あんたも見たことあるでしょう!?
 止めて!誰かあの二人を止めて!!」

「抜刀斎だろうが流浪人だろうが緋村は緋村だと思うんだけどなぁ・・・」


ぽそりと呟かれたの言葉は誰の耳にも届くことは無かった
そこへ、意識を取り戻した左之助が恵の肩を借りて道場に入ってきた



「無理だぜ嬢ちゃん」

「左之助!!!」

「俺達には止められねぇ・・・剣心達は完全に明治の東京でなく
 幕末の京都の中で闘っている、いくら呼んでも俺達の声はもう届かねぇ
 この闘いを止められるのは幕末の動乱を生き抜いた者・・・
 それも激動の京都を味わった一部の者だけだ・・・」

「それなら・・・・・・!!!!」


の存在に気付いた薫は縋るように駆け寄る
左之助も弥彦も恵もに視線を向けるが
それら全てを無視し、剣心に視線を向けた
その時、斎藤が折れた刀で尚も攻撃を仕掛ける


「相変わらず新撰組の男は引く事を知らんな」

「新撰組隊規、第一条『士道に背くあるまじき事』!
 敵前逃亡は士道不覚悟!!

「またそれか・・・新撰組隊士はその言葉が余程好きなようだ・・・
 そして時間切れだ」


は呟き、すらりと村正を抜いた

投げつけられる折れた刀を剣心が素手で払い斬りかかる
その一瞬の隙をついては二人の間に割り込んだ

刃を斎藤の首に当て、鞘で剣心の逆刃を受け止める


!?」

「時間切れのようですよ、斎藤さん」

「時間切れだと・・・?」

「ええ・・・緋村も刀引いて」

・・・・・・」


剣心は咎めるように瞳を細めを睨むが
は剣心から視線をそらし斎藤を見た時
慌しく道場の扉が開かれた



「正気に戻れ 斎藤!!抜刀斎の力量を測るのがお前の任務だったはずだろう!!」

「今いいところなんだよ・・・警視総監あんたといえども、邪魔は承知しないぜ」

「君の新撰組としての誇りの高さは私も十分に知っている
 だが、私は君にも緋村にもこんな所で無駄死にして欲しくないんだ
 そして二人を止めてくれて感謝する、・・・」

「・・・・・・そうか、斎藤 一の真の黒幕はあんたか・・・
 元・薩摩藩維新志士 明治政府内務卿 大久保利通