【京都へ】
大久保が神谷道場を訪れてから一週間
前夜から剣心の姿は神谷道場になかった
いつも剣心が洗濯をしている庭に
左之助、薫、弥彦、恵の姿があった
「・・・剣心、帰ってこなかった・・・・・・」
「の所に行ったっきり、か・・・」
「大丈夫、剣心はおめーを置いて
京都になんか行きやしねーよ」
「おうよ、今更あいつが暗殺なんかに
手を貸すはずがねぇ(京都に行かないとは言い切れねえが)」
「私は絶対行かせないわよ、力ずくでもね」
「そうね・・・(剣心・・・・・・)」
「行くの?剣心」
「ああ、約束だしな・・・は待っててくれ」
「そうだね、私が行くと川路さんが煩くなる」
「本当に嫌っているな」
剣心の着替えを手伝いながらは苦笑する
「どうも薩摩藩士とは反りが合わないみたい
西郷先生とかはそうでもなかったけど・・・」
「そうか・・・そうだな」
から逆刃を受け取り腰に挿しながら剣心もまた苦笑する
は桂程ではないが西郷に懐いていた
豪胆で真っ直ぐな性格が父の十兵衛によく似ていたから
だから、その二人を死に追いやるようなことをしてきた
大久保のことを嫌うのは仕方のないことなのかもしれない
そう剣心は考えた
「行ってくるでござる」
「行ってらっしゃい、気を付けてね」
「行っといで、それで私の変わりに一発殴ってきとくれ」
「「姐さん・・・・・・」」
今回のことに憤りを隠そうともしない幾松に呆れつつ、剣心とは笑顔を見せた
その笑顔は幾松を安心させるためでもあり、幾松の心が嬉しいと言う心からの笑顔
幾松は「本当に仕様のない子達だねぇ」と肩を竦めと二人で剣心を見送った
−紀尾井坂−
大久保は馬車を急がせていた
激しい蹄と土を踏む車輪の音が近付く者の足音を消している
「緋村とが動かねば、この国は滅びる・・・」
そう呟いたとき、いきなり扉が開かれ
一人の青年が飛び込んできた
「この国の行く末なんて、今から死ぬ人には無用な心配ですよ」
「なっ!?」
驚く大久保に青年はにこりと笑い大久保の口を塞ぐ
「志々雄さんからの伝言です
『緋村抜刀斎と修羅童子を刺客に差し向けようとは、なかなか考えたが
所詮は無駄な悪足掻き、この国は俺がいただく』だ、そうです」
「!!」
朗らかにそう言い放つ青年の手には短刀が握られていた
「号外!号外!!内務卿暗殺!大久保卿暗殺!!」
「姐さん!!大久保先生がっ」
「おやまぁ・・・遂に大久保さんまで・・・・・・」
哀しそうに瞳を伏せる幾松
「・・・緋村君は、大丈夫なのかねぇ」
「この新聞には大久保先生が石川県士族を中心とした
七人の暗殺団に殺されたとしか書かれてないので
その場に緋村はいなかったはずです
緋村がいれば暗殺は失敗に終わりますから」
「そうだね・・・ってぇことは今頃は警視庁あたりに行ってるのかね」
心配そうにしている幾松を横には考えを巡らせる
「・・・(この暗殺団が犯行声明をあげているが・・・
その裏には志々雄真実がいると考えていいだろう
最後の維新三傑を失って・・・この先この国はどうなる?
そしてその隙を志々雄は逃さないだろう・・・)時代の流れは止められない・・・」
「君・・・?」
「姐さん、今夜発ちます」
「・・・・・・解ったよ、一つ・・・いや、二つ約束しとくれ
一つは無理はしないこと、二つ目は事が終わったら必ず顔を見せに来ること
いいかい?約束だよ・・・それから最後にこれは約束じゃない
私とうちの人の願いだ、二人とも決して死なないどくれ」
「・・・・・・はい、必ず・・・!」
幾松の言葉を胸に、は力強く頷いた
旅支度をしていると剣心が戻ってきた
の姿を見て暗い表情を苦笑に変えた
「おかえり、緋村・・・」
「ただいま・・・、全てお見通しか」
「まぁね・・・この暗殺の件で今夜にでも東京を発つだろうと思ってね」
「ああ・・・気付いているだろうが、大久保卿暗殺の裏には志々雄がいる」
「やっぱりね・・・だけど、時代の流れは止められない」
「・・・そうだな。・・・俺は一度神谷道場へ行ってくる」
「ん・・・」
別れを告げに行くという剣心をは止めなかった
屋敷を出る時、と同じように幾松から『約束』と『願い』を言われた
本郷へ向かう途中、は足を止め
ここで待ってるから・・・と剣心を一人で行かせた
道場の門前で薫は一人で剣心を待っていた
「薫殿・・・」
「剣心!!・・・・・・けん、し、ん?」
喜びを露わにして振り返るが、剣心の様子に戸惑う
「弥彦は?」
「え・・・あ・・・ああ、あの子なら待ちくたびれて眠っちゃったわ」
「そうか・・・」
「・・・剣心?」
「大久保卿が今朝、暗殺された」
「ええ・・・号外で知ってる・・・」
「真犯人は志々雄とその配下の者でござる」
「!!」
「このまま志々雄を放っておくわけにはいかない
拙者は京都に行くでござるよ」
「・・・・・・っ」
夜の風が二人の間を吹き抜ける
薫は絶句して剣心を見つめることしか出来ない
「・・・志々雄真実を『暗殺』するの・・・?」
「いや・・・しかし、わからない・・・・・・
話し合いで済む相手なら、拙者やが出向くまでもないだろう
そうでないから話が来たのでござる
『俺達が時代を変えるために人を斬り
その責で生まれた闇は新しい時代には必要ない
だから、その闇を生んでしまった俺達が払わなくてはならない』
先程、が言っていた・・・拙者もそう思う」
「そ、んなの・・・そんなの剣心達だけの責じゃないじゃない!」
「それでも・・・誰かがやらねばならぬ事でござる
それに、護りたい人がいる、傍にいると誓った人がいる
すまない・・・薫殿・・・・・・今迄ありがとう、そして・・・さよなら」
ふわりと微笑み、薫の頭を一撫ですると剣心は踵を返した
薫はただ涙を流し剣心の後姿を見送るしかなかった
「剣・・・・・・・・・心・・・・・・剣心 ッ!!」
葉桜に姿を変えた桜の木の下で待つ、そこに現れたのは斎藤
「抜刀斎を待っているのか?」
「斎藤さん・・・」
「ヤツもやっと覚悟が決まったようだな」
「はぁ・・・・・・」
「・・・なんだ、警戒しているのか?」
「いえ、アレは緋村を煽るためにしたんでしょう?」
「まあな、だが伝言は本当だ」
煙草を銜えたままニヤリと笑い、ぽんぽんとの頭を撫でる
「??」
「お前は沖田によく似ているな・・・」
「沖田さんにですか?」
「ああ・・・来たか、抜刀斎」
「に触るな、斎藤・・・・・・」
「いい殺気だ、抜刀斎・・・・・・だが、これからは志々雄一派と
共に闘う同士なんだ、仲良くやろうぜ」
「共に闘う?」
「ああ、大久保暗殺の余波で川路の旦那に色々と雑用が増えちまってな
京都での現場指揮は俺が執る事になった・・・なんだそのもの凄く嫌そうな顔は」
「別に」
「あの・・・俺は依頼を受けるとは言ってないんですけど?」
首を傾げるの頭を再びぽんぽんと撫でて斎藤は口を開く
その光景を見て剣心の脳内の『危険人物目録(用)』の一番上に
斎藤の名前が書かれた。ちなみに次はたまに姿を見せる右近と左近である
「抜刀斎が係わる以上、お前も付いてくるということは判っている」
「ふぅん、で・・・さっきから何で俺の頭撫でるんです?」
「沖田に似ているから・・・か?」
「俺が聞いてるのに・・・」
嫌がるそぶりを見せない
剣心の殺気をものともしない斎藤に剣心は声を荒げた
「〜〜〜〜っ、とにかくから離れろっ」
「なんだ、狭量なヤツだな」
「煩いっ、にあんな事をしておいて!」
「まだ気にしているのか、細かい男は嫌われるぞ
、こんな男のどこが良かったんだ?副長の方がはるかにいい男だぞ」
しれっと言い放つ斎藤にようやくからかわれている事に気付いた剣心
の肩を引き寄せ斎藤から距離をとる
「お前とはこの件の後、決着をつけないとな・・・」
「ほう・・・同意見だ」
鋭い視線を交わす二人には長い溜息を吐いた
その後も剣心と斎藤は口喧嘩のようなやり取りをして
を連れて東海道へ足を向けたのは深夜になってからだった

