【遭遇】



「ざけんじゃねェぞあのヤロウ!!
 人に挨拶もしねぇで勝手に出て行っちまいやがって!!
 確かに行けとは言ったが黙って行けとは言ってねぇ!
 俺も京都へ行くぜ!一発ブン殴ってやらねぇと気が済まねぇ!!」



と左之助が赤べこで騒いでいる頃

剣心とは東海道を歩いていた
廃刀令を無視した剣客が二人、歩いているだけで注目され、擦違う人達は道をあける

俯き加減に顔を伏せ黙々と足を進める二人
そこに甘い雰囲気はない


〈ピピーッ〉


「おろろ」

「チ・・・ッ」


「そこの若僧共!!このワシの前で廃刀令違反とはいい度胸だ!」


後ろから警官が駆けつけてくると
軽く舌打ちしたは徐に懐に手をやり木片を取り出すと警官に突き付けた



「政府からの許可証だ」

「む・・・」



警官は訝しがりながらもそれを確認すると
しぶしぶ引き下がった



「便利なものだな・・・」

「まぁね・・・でも、いつまでこれが通用するか・・・」

「それもそうだな」




二人は再び歩を進める、小田原の旅籠街を抜け
日が落ちる頃には箱根峠に辿り付いた

山中に入り小枝を拾い火を熾す



「・・・懐かしいな」

「ん?」

「剣心と初めて会った時もこうして野宿した・・・覚えてる?」

「ああ、そうだったな・・・


名前を呼ばれ剣心を見ると、腕を引かれそのまま抱き寄せられる


「剣心?」

「五月といえどここは冷える・・・」

「ん・・・」


剣心に抱え込まれ背中に温もりを感じながらは瞳を閉じた



剣心は何も言わず出てきてしまった自分を左之助達は怒っているだろうなと考えるが
怒られても、恨まれてもとの誓いを守りたい。いや、守るのだと強く思った



ガサッ・・ザザザ・・・ッ


「「!!」」



それぞれの愛刀を手に臨戦体勢にはいる
剣心とのいる場所から然程離れていない場所から複数の声が聞こえてくる



「女の声と複数の男の声・・・志々雄一派ではないな・・・」

「うん、山賊か追い剥ぎの類か・・・剣心」

「ああ、人との接触はなるべく避けるべきだが、そうも言ってられないな・・・」



声のする方へ急ぐと、ははっきりと聞こえてくる女の声に眉を寄せた


「この声・・・まさか・・・・・・」

?」

「剣心・・・いや、緋村その名前はここまでのようだよ」

「え?」


急に話し方を変えたに剣心は戸惑いながらも、更に足を速めるの後を追った





「ま、ざっとこんなもんか。ちょっと声色使ってカマかけるだけで
 得物が引っ掛かって来るんだからチョロイものだね」

「こんな所で何をやっているんだ?操」

「!!?」



が声をかけた先には少女が一人、足元には男が四人程倒れている


・・・兄ぃ・・・・・・?」

「追い剥ぎをするための体術じゃないだろう・・・まったく」

兄っ兄ぃ      っ!」

「うわっ」

「・・・っと、大丈夫、でござるか?」



勢いよく飛びついてきた操を女のが支えきれるはずもなく
倒れそうになるを剣心が後ろから支える


「・・・知り合いでござるか?

「ああ、前から言っていた俺の妹分だよ。操、挨拶」

「はぁい、兄の妹の巻町 操だよ。兄ぃ、この人だぁれ?」


に抱き付いていた操は素直に離れ名乗ると、剣心を指差してに聞いた


「こら、人を指差したら駄目だろう」

「拙者は緋村 剣心と申す、とは・・・・・・(なんと言ったものか・・・)」

「ごめんなさい、・・・緋村 剣心・・・・・・緋村、緋村・・・
 ああ      っっ兄がずっと捜してた人!!・・・男の人、だったんだ・・・」

「だから、指を差すな・・・・・・そうだよ、俺の捜してた人だ。男だと問題があるのか?」

「だってだって兄が『大切な人』って言うから恋人かなにかだと・・・
 いや、でも男同士の《びーえる》とかいうものがあるって聞いたことあるし・・・」

「操・・・?」



くるりとに背を向けてぶつぶつと呟いている操
と剣心は顔を見合わせて操の腰にある袋をひょいと取ってみると
『小田原宿 田村屋』と記されている


「盗賊を追い剥ぎしたのか・・・操」

「何はともあれ、これは返した方が良さそうでござるな」

兄ィ!私、兄の恋人が男の人でも応援するからねっ
 ・・・って、あーっ私のお金!!」

「操のじゃないだろ?」

「私が手に入れたんだから私のなのっ!」

「操・・・・・・とにかく、これは返しに行く」

兄ぃ〜〜〜〜」



『恋人が男の人でも』という言葉は綺麗に流して
と剣心は小田原宿へ戻るべく踵を返すと、操もの後を追ってくる







「小田原宿 両替屋 田村屋・・・ここでござるな」

「ああ、どうやら盗みがあった事自体まだ気付いていないようだ。かえって好都合、か」



と剣心、二人頷き合うと同時に地を蹴り
音もなく田村屋の塀の上に跳び上がる


「さっすが兄っ、それじゃ私も・・・ヤッ!」


同じように塀に乗り上げる操には「何を言っても聞かない」と溜息を吐いて
剣心に視線で合図を送り、田村屋に侵入した

宝物庫らしき蔵を見つけてそこへ入り
持ってきた袋と同じような袋が積んである所へ戻していると
操がこっそりと金目の物を持ち出そうとしている事にが気付く



「こらこらこら、何を考えているんだ操は・・・ほら、用は済んだからささっと出る!」

・・・本当にこの娘はお前の妹分なのでござるか?」

「何よっ、なにか文句でもあるの!?
 兄、私お金がないと京都に帰れない」

「兎に角話はここを出てからだ」



剣心へ向けた声とは全く違う甘えた声で話す操に、剣心は呆れは苦笑して田村屋を出た



       つまり東京からの帰りに路銀がなくなったから追い剥ぎなんて事してたのか?」

「そうっ、でも・・・兄も東京に留まってたなんて思わなかったなぁ」


橋の上で嬉しそうに話す操には微笑んんだ後
微かに辛そうな顔をしたのを剣心は見逃さなかった


「いくらお金に困ったといっても、人から盗るのはいかんでござるよ
 それともうひとつ、あの手の連中は、大抵その宿場のヤクザ達とつるんでいるから
 気を付けないといけないでござる」

「じゃあどうやって京都まで帰れって言うのよ!」

「俺の路銀をやるから・・・操はおとなしく『葵屋』へ帰るんだ」

「え・・・兄は帰らないの?」

「俺は・・・・・・っ!!」


「いたぞッ!!挟みうちにしろ!!」


「「!!」」


先程、操が倒した男達が仲間を引き連れて追いかけてきたのだった

橋の中心部にいるは操を庇うように前に出る
剣心もまた操を庇うようにと背を向け合う



「ざっと三十人か、緋村・・・」

「ああ・・・あまり人と関わりたくないというのに・・・な」

「え?兄?」

「何気取ってんだこのチビ共!!」

「お前らも死ねや!!」



集まってきた男達が剣心達に躍りかかるが
と剣心、同時に刀を抜き同じように足元に振り下ろした


「盗みを働いたお前らも悪ければ、追い剥ぎをした操も悪い」

「拙者達も付き合うから両成敗という事で勘弁するでござるよ」


二人の刀が鞘に納められ、キィンと鍔鳴りがすると同時に橋が崩れる
剣心はの腰を抱き、は操の帯を掴み跳躍した


、兄ぃぃ〜〜〜〜」

「大丈夫か?」



目を回している操を座らせては諭すように操に言い聞かせる


「いいか?このまま何も聞かずに京都へ帰るんだ」

「ヤダッ!!」

「操・・・頼むから、聞いてくれ・・・」

「やだよ・・・兄まで私を置いていくの・・・?」



蒼紫の事を知っているだけには何も言えなくなる
剣心も薄々と気付いていたのか何も言わない

志々雄一派の中では剣心同様、の名前もあがっているだろう
そんな自分達とともに行動すれば操に危険が及ぶことは判りきっている
どうしたものか、とが考えを巡らせていると剣心が口を開いた



「理由あって拙者達の旅はいつ敵襲を受けてもおかしくないでござる
 そんな危険な道中故、誰一人供にはできん・・・ついてくるなら
 離れて他人のフリをしてるでござる」

「緋村!!」

「まぁまぁ、の話を聞いているから言うのでござるが
 操殿はかなりの無鉄砲・・・ダメだと言っても意地でもついてくるでござろうよ」


苦笑しながら剣心が言うと、はしかたがないとばかりに頷いた


「あんたいい人だねっ、流石兄の『大切な人』!!」

「操・・・緋村だ、名前があるんだから、きちんと名前で呼ばないと」

「はぁい!緋村だねっ」


「・・・ってか緋村の言った事解ってるのか?」






剣心との二人旅のはずだったが、この日より賑やかな少女が加わることになった







・・・これから京都に着くまでのままか      ・・・いや、京都に着いてもか!?


操の同行を許した事を今更ながら後悔する剣心がいた・・・