【新月村】
と剣心が東京を出て今日で三日目
本来なら、既に道中後半に入っている筈であったが・・・
「・・・本当にこの道であっているのでござるか?」
「ん・・・このまま行けば沼津に突く筈・・・」
達は森の中、道なき道を歩いていた
「兄〜、緋村ぁ・・・ねぇ、もうお昼だよ
そろそろゴハンにしようよ、ねぇ〜ねぇったらねぇ〜」
「操・・・・・・昼ゴハンなら歩きながらでも食べれるだろう?」
「あ、そっか!それじゃあ早速・・・」
操は嬉しそうに懐からカンパンをだして齧るが
と剣心が黙々と足を進め、何も口にしていない事に気付く
「あれ?兄と緋村は?」
「生憎拙者は弁当を持ち合わせてござらん」
「・・・だろうと思ったよ、緋村」
は溜息を吐いて懐から干肉を出す
幼い頃から旅を続けていたは慣れたもので
食料が道中で調達出来ない時のためにいつも干肉などを携帯している
「はい、緋村は慣れてないから食べにくいかもしれないけど・・・」
「ありがとう、」
「いや・・・」
微笑みを交わすと剣心を見て、操は顔を赤らめる
「〜〜〜っ!!(兄のあんな表情初めて見たかも・・・
やっぱり恋人同士なのかな?い・・・いけない世界・・・・・・)」
「操殿?・・・どうしたでござるか?」
「操?」
「へ?な、なななななんでもないよっき、今日は良い天気だなぁ〜って・・・
(い、言えない・・・兄と緋村のあんな事やこんな事を想像してただなんてっ)」
「良い天気、か・・・?」
「拙者には曇っているようにしか見えぬでござるが・・・」
操がと剣心の『いけない世界』について妄想を爆発させていたこの頃・・・
左之助は山中にて修行という名の自然破壊をしつつ、道に迷っていた
恵は蒼紫に遭遇し、剣心の事を心配しつつ患者を診ている
薫と弥彦は・・・横浜から出航した船に揺られて弥彦は船酔いに苦しんでいる
「大丈夫?弥彦」
「・・・大丈夫くない
船がこんなに揺れるモンだとは知らなかったぜ・・・お前、よく平気だな」
「そりゃちょっとは酔ってるけど、これくらいでへたり込んでいられないわよ
この二日間いじけてばかりで、みんなに心配かけちゃったからね・・・
(剣心が京都に行った事ばかり気にしていたけど・・・今は剣心の言葉が気になる
『護りたい人がいる、傍にいると誓った人がいる』そう言ってた・・・
それって誰の事?もしかしなくてもの事・・・よね?今迄気にしたことなんてなかった
は本当に男なの?私より低い身長、男女の区別があまりつかない綺麗な顔・・・
確かめたい・・・剣心にもう一度会って ・・・)」
去り際の剣心の言葉を思い出し、疑問を持ちはじめた薫は両手の拳に力を込めた
ずっと塞ぎこんでいた薫が元気を取り戻した事に安心しつつ弥彦は死にかけていた
達は東海道を目指し山中を歩き続けていた
ガサッ
「「「!!」」」
「兄・・・今なんか音が 」
「シッ、出来るだけ静かに俺達から離れるんだ」
「もしかして・・・・・・兄達、本当に狙われて・・・?」
「いいから早く離れるでござる」
殺気立つと剣心に操は戸惑うが
達はそれに構ってはいられず、辺りを見回し気配を探る
「緋村・・・」
「ああ、先制・・・するか」
言葉少なに視線を交わすと同時に気配のする方へ駆け出す
「ちょっと待ってよ!私はこれでも御庭番衆の一員なんだから
少しは兄達の力に 」
操も達に遅れて走り出す
漸く追いついたと思った操の目の前に現れたのは
木の幹に身体を預け座りこんでいる血塗れの一人の男
「!?・・・・・・この人、死んでるの?」
「いや、だが・・・・・・」
「何か、言い残すことはないでござるか・・・?」
剣心が一歩踏み出し、男と視線を合わせるように片膝を付く
「こうして死を見とるのも何かの縁、できるだけの事はするでござる」
「・・・た・・・頼む、俺の・・・弟と村を志々雄の連中から・・・救ってくれ・・・っ」
そう言い、息を引き取った男を達は埋葬し
その男が護るように抱いていた弟であろう気を失っている少年を起こした
「起きて、ねえ・・・起きてってば!」
「ん・・・」
「気がついたか?」
「お・・・お前達は・・・・・・そうだ兄貴!」
兄の姿を捜す少年に操は言い辛そうに口を開く
「私達が見つけた時にはもう・・・・・・」
「ちくしょうっ!ちくしょうっ!!」
兄が埋葬された場所に泣き崩れる少年の肩に手を置き
剣心は何があったのかと聞いた
「他所者に話して何がどうなるってんだよ」
「拙者達は志々雄に会うために京都へ向かっているでござる」
「「!!」」
「それに・・・君の事をお兄さんから頼まれたしね・・・」
「・・・・・・二年前、志々雄の部下が突然やってきたんだ・・・ 」
政府に見捨てられたと言う少年
地図に名前すら載らなくなってしまったと言い操は言葉を失う
「兄貴はそれを見つけて村の異変に気付き
とりあえず、まず家族だけでも助け出そうとして、そして殺されたんだ・・・
志々雄の直属の配下で、この村を直接統括する『尖角』の野郎に・・・・・・!!
戻らなきゃ・・・村にまだ逃げ遅れた親父とおふくろがいるんだ!
兄貴が死んだ今、俺が助けなきゃ!」
少年は立ち上がり、墓標代わりに立てられている
兄の持っていたぼろぼろになった刀を手に、自分に力を貸してくれと呟く
それをと剣心は止める
「お主の兄に代わって拙者達が力を貸すでござる」
「操、この子を頼む」
「えーっ、私も行く!!」
「駄目だ、村には俺達だけで行く。ここで待っているんだ」
「・・・・・・・・・」
不満そうな操と少年を残してと剣心は『新月村』へと向かった
「ここか ・・・」
「ああ・・・まるで廃村、だな・・・」
の言葉に頷き剣心は村を見渡すが、人の影すら見当たらない
先程、少年が言っていた事が思い出される
『志々雄は半年に一度、必ずこの村に一週間ほど逗留する
何の目的でくるのかわからないけど、そのためだけに日頃
この村は尖角が統括しているんだ、そして丁度今、志々雄が村に逗留している』
辺りを警戒しつつ足を進めると剣心、それを木の陰から見ている影が二つ
操と少年が二人の後をついて来ていたのだった
は血の匂いに誘われて進んでいく。そして、剣心と共に足を止めた
血の匂いを放っていたのは無惨に吊るされた二人の遺体
「・・・処刑、か・・・・・・」
「惨いな・・・緋村・・・・・・」
「・・・弔おう・・・」
吊るされた二人を降ろそうと足を踏み出した時、少年の叫び声が木霊した
「親父っ!!おふくろ!!うあああぁぁぁあああ!!!」
その声に引き寄せられるように現れた揃いの着物を着た集団がと剣心を囲む
その集団を纏めているであろう男が前え出る
「貴様等、他所者だな。他所者は生かして帰えさん!」
言い放つ男に剣心は怒りを含んだ低い声で言葉を返す
「何故、この人達を殺した」
「そいつらの息子達はこの村から逃亡を企てた
そいつらはその責めを負って尖角様が処刑した、もっとも吊るしたのは我々だがな」
「つまり・・・見せしめか」
「ここは偉大なる志々雄様が政府のブタ共から勝ち取った領村!
ここでの生殺与奪の権利は全て志々雄様、もしくは村の統括を担う尖角様にある!!
尖角様の命により他所者には『死』あるのみ!!覚悟!!!」
「「覚悟するのはお前達だ」」
声を揃えてと剣心は刀を抜き払う
剣心の逆刃が躍りかかった男の顔を打つ
二人の殺気が一気に膨れ上がりその眼差しには怒気を含む
「普段なら・・・『怪我をしたくない者はさがれ』と言っているところだけど」
「今、この場ではそうはいかん・・・」
「「一人残らず叩き伏せる!!」」
この時、操もまた攻撃を仕掛けられていた
応戦するべく苦無を構えるが、それを使う事は無かった
槍を手にした男を後ろから刀で貫いたのは斎藤 一、舌打ちをしながら剣心を見やる
「あ、あんた・・・誰?」
「フン・・・あの野郎、京都へ向かっているとばかり思っていたら・・・
こんな所で何油売っていやがる!もだ・・・」
「・・・兄と緋村の知り合い?・・・・・・そうだ、兄っ緋村!!」
操が振り返り達を見た時には最後の一人が剣心に叩き伏せられていた所だった
は既に闘い終えていて刃についた血を懐紙で拭っていた
「オイ、こんな所で何道草食っているんだ」
「斎藤さん・・・」
「何故、お前がここに・・・」
「仕事だよ、ここに放った俺の部下から今、志々雄がいると連絡が入ってな
討伐隊の京都到着までまだ時間があるから少し足を伸ばした訳だが・・・・・・良い腕だ」
「!!!?まさか・・・」
「殺しちゃいないよ」
「まぁ・・・死んではいないが、死んだ方が楽だろうな・・・」
斎藤は足元に倒れている男を見ながら感心したように呟いた
その男は巧みに急所を外され、痛みに苦しみもがいている
これほど苦しむのなら、いっそのこと殺してしまったほうが良いのではという程だ
それはの怒りの表れであった
「人を『殺す』という事をなんの覚悟もなくやっていたみたいだったからね
せめて『死』という苦しみがどんなものか味わってもらおうかなと思ってね・・・
俺は優しくないから殺してなんかやらないよ、もっとも・・・この状況で
俺の声なんか聞こえていないだろうけどね」
痛みに苦しむ男達を見下ろすの視線は冷たい
操は初めて見るの姿に戸惑い
剣心は『殺していない』とは『死ぬ事はない』のだと得心して安堵の溜息を吐いた
「斎藤さん・・・先程ここに放った部下がいると言ってましたよね・・・」
「ああ、もっとも・・・そいつは行方知れずになっちまったがな」
「まさか・・・あの少年の兄は警視庁の密偵・・・」
「少年?・・・そうか、三島栄一郎は元々この新月村の出身
だからこそ怪しまれずに入れるだろうと送り込んだが・・・」
「恐らく正体がばれたのでござろう、それでせめて家族だけでも守ろうとして・・・」
「馬鹿な男だ、俺の到着を待っていればいいものを」
斎藤の言葉にカチンときた操は勢いよく斎藤に噛み付く
「ちょっと、あんたっ死んだ部下に対してそんな言い草ないんじゃない!?」
「オイ、なんだこの ・・・(恵→狐、薫→狸、操→鼬)イタチ娘は」
「(ブチッ)殺す!ブッ殺す!!」
「あーゆう男なんだ、いちいち腹を立ててたらキリがないでござるよ」
「斎藤さん・・・操は俺の妹分で、京都に向かう途中で会ったんですよ」
「フン、お前の・・・ねぇ・・・・・・もっとマシなのはいなかったのか?」
「・・・斎藤さん・・・・・・」
「私が兄の妹だと悪いのか !!」
斎藤の言葉に更に腹を立てる操を宥める剣心を横目に
は両親の亡骸の前に立つ少年に目を向ける
「それより、早く降ろして弔ってやろう・・・」
「・・・そうでござる「待て!!」
剣心の言葉を遮り、その場に現れたのは今迄姿を見せなかった村人達だった
「それを降ろしちゃあならん!勝手に降ろして、もし尖角の怒りに触れてみい
儂ら村の者はひとたまりもない、尖角の許しが出るまでそれはそのままにしておくんじゃ」
この村の長老らしき老人の言葉に操はいきり立つが、村人達の姿勢は変わる事はなかった
斎藤が操を諫めている時、が動き、剣心もそれに続く
は少年の母親の縄を切り受け止める、剣心は父親の方を担った
「兄!緋村!」
「き・・・貴様等何を・・・!」
村人が達に詰め寄ろうとするが、二人の怒気に逆に後退る
「これがこの村の現状だ、そして・・・これが志々雄が造る新時代の日本の姿だ
人はとかく暴力の恐怖に弱く、その統制下ではただただ生きる事だけが目的となり
誇りも尊厳も失う・・・」
「斎藤・・・政府は本当にこの村を見捨てたのか?」
「この村だけじゃない、既に十の村が見捨てられ志々雄の領地になっている
警察は既に『村の奪回』からは手を退いている」
「何かよくわからないけど、警察がダメなら軍隊を使えば・・・」
「阿呆、西南戦争からまだ半年だぞ。国の内乱にまた再び軍が出動しては
内政の不安を諸外国に露呈するだろ」
「そんな事いってる場合じゃないでしょ!」
「操・・・落ち着け、それに・・・仮に軍隊を使えるとしても政治家の連中が承諾しないよ」
ポンポンと操の頭を撫でながら言う、それを見て斎藤もまたの頭を撫でる
そしてそれを見て剣心の斎藤に向ける視線に殺気がこもる
「兄ぃ・・・なんで?」
「大久保先生の二の舞になるのが怖いんだよ」
「そうだ、軍隊を使えば村の奪回は可能だが
その後の『暗殺』という報復は必至、政府要人にとって『暗殺』が
いかに防ぎ難く恐ろしいものか、お前ならわかるだろ」
「政府の連中も結局は人間、我が身かわいさのあまり
『問題は誰かがどうにかしてくれる』と思ってるんだ」
「じゃあ・・・誰かって誰よっ!?」
「落ち着けって、操・・・だから俺達がいるんだ」
「兄・・・?」
「村も警察も、軍隊も政府も・・・そして何もかもこのままでは
志々雄真実の思いのままになる、だからこその言う通り
新撰組や人斬り達が必要なんだよ
志々雄の館の場所はわれている、京都より早まったが行くか」
の頭に手を置きながら言う斎藤にいい加減、剣心も限界がくる
「・・・その前に、から離れるでござるよ・・・斎藤・・・・・・」
「・・・フン、相も変わらず狭量なヤツだな」
剣心を煽るように更にの頭を撫でる斎藤
「斎藤・・・いい加減にしろよ?」
「口調が変わっているぞ、抜刀斎」
「〜〜〜っっ(何々?兄を挟んでの三角関係!?)」
妄想の世界に飛び込む操に
悋気を見せる剣心とそれを楽しむような斎藤に挟まれ
いたたまれないは焦ったように口を開いた
「い、行くなら早く行かないか?」
「・・・それもそうでござるな」
「・・・じゃあ、行くか」
と剣心に斎藤が揃って踵を返した時に
怪しい世界に飛び立っていた操が帰ってきた
「ハッ!待ってよ、私も行くよ!!」
「お前はダメだ、ここにいろ」
「なんでよ!私だってあんな事する奴、絶対許せないわよ!!」
「操・・・」
「兄!兄がなんと言おうと私だって 」
「操殿、お主は栄治のそばに居てやってくれ・・・」
の真剣な眼差しと剣心の言葉に操はその場に残る事にした
達は揃って志々雄の館に向かった

