【謁見】
微かに硫黄の香りがする湯煙の中、志々雄はゆったりと湯に浸かっていた。
そこへ全く邪気の無い笑みを浮かべた青年が入ってくる
「志々雄さん、志々雄さん」
「うるせえなぁ、今度は何だ」
「左頬に十字傷の男と、黒髪長髪の小柄な男に、日本刀を帯びた警官が
どうやらこの館に向かっている様ですよ」
その言葉に志々雄は薄く微笑う
「成る程・・・俺が挨拶に行く前に、わざわざ来てくれるとは流石は先輩・・・
宗次郎、お前迎えに行ってやれ」
宗次郎と呼ばれた青年は変わらぬ笑顔で快く返事をすると
志々雄は言葉を繋げる
「それと、尖角に戦闘準備をさせておけ」
そう言い、ざばりと湯から出た
、剣心、斎藤は無言で歩を進めていた
「「「!!」」」
「緋村抜刀斎さんにさん、それに斎藤一さんですね」
宗次郎は無邪気に笑い三人を迎えるが
剣心は宗次郎の声を聞き、顔付きが変わる
「(この声・・・)気をつけろ、あれが大久保さんを暗殺した男だ」
「嫌だなぁ、今日はただの案内役ですよ。
ほら、武器は一切持ってませんから
・・・奥の間で志々雄さんが待ちかねています。さぁ、どうぞ・・・」
ひらひらと手を振り、変わらぬ笑顔で受け答える宗次郎
剣心はそれでも警戒を解くことは無かったが、斎藤はフンと鼻で笑う
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「警戒したところで事は始まらんさ、行くぞ」
「そうだね、とりあえずついて行くのが無難かな」
頷きあい、宗次郎に続いて三人は門を潜り館に踏み入れた。
志々雄がゆっくりと紫煙を燻らせていると
綺麗な女性がさらりと畳を踏んで杯と酒を持ってくる
「志々雄様、どうです?湯上りに一杯」
「来た」
「あら・・・」
残念、とでも言いたげに志々雄の正面の襖を見ると
宗次郎の案内で剣心達が足を踏み入れるところだった
「お主が・・・・・・・・・志々雄真実でござるか」
「“君”ぐらいつけろよ、無礼な先輩だな」
「気にするな、無礼はお互い様でござる」
早速睨み合う志々雄と剣心を横に、斎藤は宗次郎に話しかける
「オイ、そんなとこにボーッと突っ立ってていいのか
抜刀斎なら一足跳びで志々雄の所まで斬り込むぞ」
「大丈夫ですよ、緋村さんは斎藤さんと違って
不意打ちなんて汚い真似絶対しませんから」
斎藤の皮肉にも宗次郎はにっこりと笑って返す
は何も言わず、剣心の隣に立ち成り行きを見ていた
「何故、この村を狙った?
お主の狙いはこの国そのもので、小さな村の一つ二つではなかろう」
「温泉」
剣心の問いに志々雄は至極真面目な表情で答える
「ここに湧いてる湯はこの火傷だらけの肌によく効いてな
でも他の湯治客が俺を見たら怖がってしまうだろ
だから、俺のものとしたんだよ」
「お前は・・・・・・たったそれだけの事でこの村をメチャクチャにしたのか・・・」
更に視線を鋭く剣心は志々雄を睨む
「冗談だよ、冗談。ムキになるなよ
噂に違わずくそ真面目な性格のようだな」
喉で笑いニヤリと剣心を見やる志々雄の肩に手を這わせ
先程の美女もくすくすと笑っている
「安い挑発だ、どこかの娘みたいにムキになるな」
斎藤が拳で剣心の頭を叩くと、隣にいたは操の事だとくすりと笑った
志々雄はトンと煙管の煙草を落とすと口を開く
「この村を取ったのは、東海地方制圧の軍事拠点にする為さ
ま、ここの温泉も本当に気に入ってはいるがな」
「志々雄───」
「お前は黙ってろ」
剣心が反論しようとすると斎藤がそれを遮った
「それで、ここを拠点に明治政府に復讐する気かい、包帯の若いの」
「・・・新撰組三番隊組長 斎藤 一さんか・・・
あんたは抜刀斎より俺に近い性質だからもっと理解っているかと思っていたけど
今イチの様だな、俺はねこの傷をつけた連中に今更復讐する気なんてさらさらないんだよ」
その言葉にはやはりと思った
志々雄ほどの男が殺されかけただけでこれほど大掛かりな復讐をするとはとても思えなかった
「むしろ感謝しているくらいだ、この傷は身に染みる程いろいろと教えてくれた
『信じれば裏切られる』『油断すれば殺される』『殺される前に殺れ』
それから『本当にいい男はどんなになっても女の方から寄って来る』って事もな」
「そうかい、だったらいい加減静かにしてくれないか
お前一人の為に日本中を飛び回るのは結構疲れるんだ」
トンと襖に背を預けて斎藤は一息吐く
その言葉に志士をは溜息を零す
「あんたも俺も先輩も同じ幕末を生きた男だろ
なのに何で俺の気持ちがわからないのかねえ・・・
尊皇だ倒幕だ攘夷だ開国だの言っても、所詮つまるところ幕末ってのは
戦国時代以来三百年を経てやって来た久々の動乱なんだぜ
尊皇か佐幕か薩摩か長州か土佐か、それぞれがそれぞれの『正義』って
錦の御旗を掲げて、日々争い殺し合った動乱の時代
そんな時代に生まれ合わせたのなら、天下の覇権を狙ってみるのが男ってもんだろ」
志々雄の語りに同意し手を叩くのは宗次郎と志々雄の隣に身を寄せている女性のみ
は(野心ってのは果てないなぁ・・・これだけ大掛かりな事をやってのけている
志々雄はある意味大きな器をもっている・・・今の明治政府にはいない人間だ)
などと志々雄を観察していた
剣心、斎藤に至ってはただ志々雄を見ているだけだった
そして、志々雄は話を続ける
「「・・・・・・・・・」」
「ところがどうだ、暗殺されかけてやっと傷をいやして出て来てみれば
動乱は終わって明治政府なんてもんが出来てやがった
しかも俺一人の死に損ないを抹殺するにも、西欧列強の目を気にして
軍隊一つ出せやしない弱々しい政府だ
こんな弱々しい政府に国は任せられねェだろ、ならば!」
くるくると回していた煙管をバキリと握り折り志々雄は高々と宣言する
「動乱が終わったのなら俺がもう一度起こしてやる!
俺が覇権を握り取ってやる!そして俺がこの国を強くしてやる
それが俺がこの国を手に入れる『正義』だ」
それを聞いて目していた剣心が口を開いた
「だが・・・・・・その正義のために血を流すのはお前じゃない
その血を流したのは、今を平和に生きていた人達だ」
「この世は所詮弱肉強食・・・と言っても先輩は納得しそうにないな」
「志々雄真実、お前一人の正義の為にこれ以上人々の血を流させるわけにはいかぬ」
剣心は鯉口をきりスラリと逆刃を抜く
「斎藤さん、さんあなた達は?」
宗次郎は変わらぬ笑顔をと斎藤にむけた
「俺はあいつの様に綺麗事言う趣味は無いがな
どうやら志々雄を仕留める方が性分に合っていそうだ」
「ん〜、志々雄の言う事も解らなくもないけど・・・時代の流れは止められない
国内で動乱起こされてる隙に外国からも・・・ってのはごめんだしね、開国してるからさ
だから、まぁ・・・弱々しかろうが外交はできてる今のままでいいんじゃないかな
あと、降り掛かる火の粉は払わせてもらうってとこかな」
斎藤は不敵に笑いながら答え、は自分の考えを素直に言った
「俺の方は闘るなら闘るでも構わないけどな
どうせ闘るなら『花の京都』としゃれこみたいもんだ、まあどうしてもやるというなら・・・
この新月村を統治する尖角が相手だ!」
とん、と志々雄が畳を叩くと剣心達の前に巨体が畳を破り出てきた

