【転機】
『四郎・・・っ!』
は目の前で崩れるように膝を着いている青年に叫んだ
そこは島原・・・辺りは炎と煙が立ち込めている
『っ』
『行かせてください父上っ』
青年に駆け寄れば、その手は血に濡れ
手だけでなく、顔も身体も血に染まっていた
『四郎っ!』
『・・・?ははっ・・・僕は皆を希望の道に導きたかったのに・・・
僕が導いたのは・・・死への道だったみたいだ・・・
僕は呼び起こしてしまったんだ・・・この刀の魔を・・・この僕が・・・っ』
青年、四郎は自嘲的に笑うと持っていた刀で自分の胸を貫いた
『四郎!?』
倒れる四郎を抱き起こし、胸に刺さったままの刀を抜き血を止めようと
必死に手で傷を押さえるがの手は四郎の血に濡れていく
涙を零し、ひたすら名を呼び続けるに四郎は弱々しく微笑む
『泣かないで、・・・これで・・・いい、んだ・・・
ぼ・・くは、の・・・わら・・た、顔が・・・す、きな・・・だ
だ、から・・・わら・・・て・・・?』
『嫌だよ、四郎・・・笑えない・・・よ。四郎がいてくれなきゃ・・・笑えない・・・っ』
『・・・・・・・・・しあわ・・せ、に・・・・・・』
四郎の血に濡れた手はの頬を撫で、そのまま力無く地に落ちた
『やだ・・・いやだよ・・・・・・四郎・・・目・・開けてよ・・・四郎?四郎・・・四郎 っっ!!』
「・・・!」
「・・・・・・ひ・・・むら・・・?」
「大丈夫か?随分魘されていたぞ」
「あ・・・うん・・・・・・」
は汗を拭い起きようとするが、剣心に止められる
「お前・・・昨夜、腹に穴を開けたんだぞ。寝ていろ」
「ん・・・(腹に穴って・・・)ねぇ緋村、今何時?」
「今は・・・八つ時(14時)頃だ」
「そ・・・か・・・」
「何か食うか?」
「ううん、起きたばかりだから・・・後にする・・・」
「・・・判った・・・・・・」
「「・・・・・・・・・(気まずい・・・)」」
は所在なさげに布団を口元までずり上げ
申し訳なさそうにもごもごと呟いた
「えと・・・手当て、とか・・・してくれて・・ありがと・・・
それと・・・その・・黙ってて・・・ごめん・・・」
「・・・いや・・・・・・どうして、隠してたんだ?」
「あー・・・癖というか・・・ほら、俺・・・ずっと父上と旅をしてただろ
娘の格好をしているより男の格好の方が動きやすかったし・・・
それに、時々父上と別行動をする事があって・・・娘姿でいるより何かと便利で
何より腰に刀が挿せるだろ?だから・・・父上も人前では俺の事息子扱いしてたし・・・」
「なるほど・・・な」
剣心はぽつりと言うと、視線を窓の外に移し悔しそうに呟いた
「・・・俺は・・・お前にとって、頼りない男・・・だったのか・・・?」
「え?」
剣心の声はあまりにも小さくての耳に微かにしか聞こえなかった
それに、寝ている状態のから剣心の表情は見ることが出来ない
は身を起こし剣心を見つめる
「緋村・・・?」
「俺はお前が自分の事を言えない程、頼りない男だったのか!?」
の方に向き直り、その細い肩を掴むとそう叫んだ
その表情は辛そうに歪められている
そんな剣心を見て、の瞳が揺れる
「ちが・・・違うんだ、緋村。本当は・・・京を出る時に話そうと思ってた
でも、留まる事になっただろう?そしたら、言い辛くなって・・・それに・・・」
「・・・それに?」
「そ、それに・・・言ったら、ここに居れなくなるんじゃないかって・・・
緋・・・村の、傍に居れなくなるんじゃないかって思ったら・・・」
「・・・・・・」
「はじ、めて・・・なんだ・・・父上以外の人で、背中を預けられるって思ったの・・・
それに安心、するんだ・・・緋村がいると・・・傍に居たいと、思ったんだ・・・」
「・・・俺も、背中を預けられると思ったのは初めてだ・・・
ずっと・・・独りだったからな・・・それに、お前が女だと判って・・・何故かほっとしている・・・」
「緋村?」
「俺は、自惚れてもいいのか?」
俯きながら、恥ずかしそうに頬を染めて話すにそう言うと
肩を掴んでいた手を朱に染まった頬へともっていく
「え・・・ちょ、緋村?」
「黙って・・・」
の軟らかそうな唇に自分の唇を重ね「おーい、緋村といるか〜?」
ゴッ
「いだぁっ」
スパーンと襖を開けてズカズカと入ってくる桂
「ん?お前ら・・・何やってんだぁ?」
「いや・・・傷のせいで熱があるかと思って・・・なぁ?」
「んぁ?あぁ・・うん・・・ってか、いた・・・痛いよっ緋村ぁっ」
ぐりぐりと額同士をくっ付けている二人に、桂は笑みを零す
「お前ら・・・ほんっと仲が良いよなぁ・・・緋村も丸くなったし
のお蔭だなっ・・・で、熱はあるのか?」
「いえ・・・大丈夫みたいです」
「桂先生・・・俺のお蔭って?」
俺、何もしてませんよ?と首を傾げる
桂は剣心を見てニヤリと笑う
「ん?いやぁ、と一緒に居るときの緋村は歳相応に見えるんだ
昔の姿からは想像できないくらいにな」
「桂先生っ」
「すまんすまん、あぁ・・・緋村、ちょっといいか?」
顔を赤らめ桂に抗議する剣心を廊下に連れ出し
意地悪そうにニッと笑いながら桂は剣心に囁いた
「お前・・・変な気を起こすなよ?今度花街にでも連れて行ってやるから
・・・まぁ、お前が男色家ってなら話は別だがな」
「・・・〜〜〜〜〜っ、桂先生っ!」
あっはっはっは、と笑いながら去っていく桂を恨めしそうに睨みながら部屋へ戻ると
は不思議そうな顔をして、赤くなっている額を擦っていた
「桂先生、何だって?」
「いや・・・なんでもない(何しに来たんだ、あの人は)」
「それより、緋村・・・さっきのは酷いよっ」
「どっちの事を言ってるんだ?」
「両方に決まってるじゃないかっ」
先程の事を思い出したのか、再び顔を赤らめるに
桂のように意地悪く笑って見せる
「む・・・なんでそんな意地悪そうな顔すんのさ」
「さぁな・・・あぁ、そうだ・・・近々、徳川が大政を奉還する事が決まったらしい」
「へ・・・ぇ・・・そっかぁ、将軍様も就任してまだ間もないのにねぇ・・・
ご先祖様が聞いたらさぞかし怒ることだろうねぇ」
「そうだろうな、そう言えば・・・、お前徳川が嫌いだとか言ってたな」
「うん・・・徳川のやり方が・・・ね。現状を見るばかりで先を見ようとしない
力で捻じ伏せるだけで、歩み寄ろうともしない・・・民を自分の物だと主張する
自分の物だから・・・自分の言う事を聞けないなら排除する。そんな考えが・・・ね」
「・・・?お前・・・幕府に、誰かを・・・」
「そうだよ、直接では・・・ないけどね。あの時、もっと先を見て歩み寄っていれば・・・
あんなに大勢の農民達が死ぬ事はなかったんだ・・・っ」
布団を握り締め、唇を噛み締め呟かれる言葉に剣心は疑問を抱いた
農民が大勢死んだ、それに幕府が関わっているということは一揆か何かだろう
だが、聞いた事がない。自分が生まれた後に黒船が来て鎖国が解かれ
幕府は一揆どころではなかっただろう。の言っている事が解らない
「どういうことだ・・・?俺が生まれてから、大きな一揆のような事があったとは
聞いた事がないぞ」
剣心の言葉にはっと顔をあげる。言い逃れはできそうにない・・・
まだ隠している事があるのではないかと
を見つめる剣心の瞳は鋭くその奥に寂しさが見え隠れする
ふぅ・・・っと深い溜息をついて、きゅっと唇を結んでは剣心を見つめ口を開いた
「・・・・・・俺、この時代の人間じゃないんだ・・・ 」