【傷跡】





「俺・・・この時代の人間じゃないんだ・・・」

「は?」

「俺は、この時代の、人間じゃない」


いきなりの言葉に剣心が戸惑っていると、は言葉を区切りながらしっかりと言い放った


「・・・お・・まえ・・・頭大丈夫か?」

「俺だって最初はそう思ったよっ、自分の頭がイカれてるんじゃないかって・・・
 それか根来の坊主に変な幻術かけられてるんじゃないかって・・・
 緋村・・・初めて会った時の事覚えてる?」

「あぁ・・・覚えてる・・・」

「俺、結構突拍子もない事ばかり聞いてただろ?」

「そうだな・・・今の将軍は誰だとか、将軍家は何代続いてるんだとか・・・って・・・お前、本当に?」

「さっきからそう言ってるだろ、俺は・・・俺が生まれたのは寛永二年。三代将軍家光の時代だよ
 で、さっき俺が言ってたのは島原の切支丹キリシタン一揆の事」

「・・・・・・・・・」



信じられないような顔でを凝視する剣心に苦笑を零して話を続ける


「その一揆が収束して、俺は父上と江戸に帰る時に根来衆に会って・・・
 後は、緋村に話した通りだよ。信じられないのは解るよ・・・俺が一番信じられなかった
 どうすれば元の時代に戻れるかなんて判らないし・・・何時なのかも判らない
 こうして二年以上もここに居るんだから・・・」

「だからか、父親が死んでいると言ったのは・・・」

「うん・・・だって、二百年以上前の人間だよ?現在いま生きていたら化け物じゃないか
 まぁ、化け物みたいな人だけどさぁ・・・」

「そ、そうだな・・・それと、信じないとは言ってない」

「緋村?」

「最初、お前を見つけた時に不思議だった事があるんだ
 お前は雪の上に倒れていた・・・だが、足跡が無かったんだ・・・」

「へぇ・・・じゃぁ、その不思議の謎は解明出来たね」


そう明るく言うに今度は剣心が苦笑を零す
そして真剣な眼差しでを見つめずっと気になっていた事を聞いた


「・・・、お前の本当の名前を教えてくれ」

「・・・・・・緋村には敵わないなぁ、小柄と印籠の家紋を見たんだろ?」

「・・・あぁ・・・・・・」

「柳生・・・・・・・・・、は母方の姓なんだ。も俺の名前だよ
 ちゃんと父上が付けてくれたんだ・・・娘と息子、両方いるみたいで嬉しいとか言って」


の話す父親に剣心は眩暈を覚える


・・・お前の父親って一体・・・」

「あー、緋村もきっと知ってる・・・」

「知ってる?俺が・・・?」

「柳生十兵衛三厳みつよし・・・それが父上の名だ」

「・・・っ、あの剣豪の・・・」

「剣豪・・・ねぇ・・・確かに父上は剣を持てば誰よりも強かったけど・・・」



口ごもるに剣心は不思議そうにするが
今までのの話を思い出し稀代の剣豪も娘にかかれば形無しだなと思った


「まぁ、父上は自分の事を『天下の大たわけ』とか言ってたけどなぁ・・・」

「(聞くのも怖いが・・・)どうしてだ?」

「あぁ・・・俺はまだ生まれたばかりだったから知らないんだけど・・・
 将軍、家光公を掘割に叩き込んだらしいよ」

「はぁっ?よく生きてたな・・・」

「いやぁ・・・将軍様が辻斬りをしてたのを発見したんだって」



の話に剣心は絶句する
話した本人はケラケラと笑っているが、笑い事ではない


「将軍が・・・辻斬りだと・・・?」

「そ、俺は父上から聞いただけだけどねぇ・・・緋村もさぁ、経験あるんじゃないかなぁ・・・
 剣術を覚え始めて、上達した頃合にさ腕試ししたくなるだろ?それと
 将軍様を傷つけてはいけないとかで、真剣を使わなかった鍛錬も手合わせも
 だから人を斬ってみたくなった・・・でも家臣を斬る訳にはいかないだろ」

「それで、町民を・・・か」



二人ともが苦虫を噛み潰したような苦い顔をする
まぁ、昔の話だし。とは話を切り替え、お茶を貰ってくるね。と立ち上がろうとすれば
剣心が慌ててそれを止め、自分が行くと席を立った


「・・・ったく、あいつは自分が怪我人だという自覚はないのか・・・」






お茶を用意してもらい、盆を片手に部屋に戻ると
が晒しを取り替えているところだった


      っ、悪い!」

「ほぇ?」


素っ頓狂な声をだしては振り返るが、すでに襖は閉められていて謝った声の主がいない
その声の主はというと、慌てて閉めた襖に背を向けてこれでもかという程赤くなっていた
片手で口元を覆って悶々と考えていると
襖越しにが「痛ぁっ」と言っているのが聞こえてくるが
入るに入れない、なんとももどかしい状況である・・・と、の情けない声が聞こえてくる


「・・・緋村ぁ、血ぃ出てきた・・・」

「そうか・・・ってなんだとっ!?



勢いよく襖を開けて飛び込むと、は片腕で(一応)胸を隠し脇腹を押さえていた
剣心は持っていた盆を脇に置くと、用箪笥ようだんすの中から晒しを取り出す


「見せてみろ・・・・・・お前、何をした?傷口が開いてるぞ」

「あー、あててあった布がさぁ・・・貼り付いててゆっくり剥がすと痛いだろ?」

「・・・無理やり引き剥がしたんだな?」

「そー、こう・・・バリッと・・・」


しれっと言うに剣心はがっくりと肩を落とし項垂れる


「・・・(こいつは・・・自分が女だって自覚はあるのか?傷跡が残ったらどうする)」

「緋村?」

「はぁ・・・ちょっと待ってろ」



深い溜息を着いて部屋を後にする
昨夜のように手桶に水を張り、部屋とくりやを往復する間についた溜息は数知れず
廊下と部屋を隔てる襖を前に、もう一度深い溜息をついてから部屋に入る


「ほら、あて布を変えてやるから、そのまま脇腹の傷を押さえてうつ伏せになれ」

「は〜い」

「・・・はぁ・・・(こいつ・・・女としての危機管理能力もないな・・・)」

「緋村・・・あんまり溜息ばかりついてると、幸せが逃げちゃうよ?」

「誰のせいだと・・・はぁ・・・っ」



手拭いを水に浸して背中の刀傷にあててある布に水を含ませていく
その冷たさにの肩がぴくりと震える


「あっ・・・つ、冷たいよ。ちょ・・・ぁっ、緋村ぁ」

「・・・我慢しろ(我慢しろ俺・・・は怪我人、は怪我人、は・・・)」



普段からはかけ離れたの艶めいた声に
剣心は心の中で「は怪我人」と繰り返しながら己の理性を奮い立たせる

充分に水を含んだあて布を、そっと剥がしていくと白い肌に痛々しく朱い筋が覗く
予め貰っておいた傷薬を塗っていくと、今度はくすぐったいのかは身を捩じらせる


「動くな・・・(は怪我人、は・・・(まだ言ってる))」

「だって緋村・・・くすぐったいよ」


の白い柔肌に触れる度に身体が熱くなっていく
そうしている間に薬を塗り終わり、新しい布をあてる


「終わったぞ、次は脇腹だが・・・自分でできるか?(っていうか、やってくれ)」

「うん・・・」



の返事を聞いて、剣心はに背を向け座りなおす
今、剣心の全神経は背中の向こう側、に向いていて
それを振り払うかのように左右に首を振ってみる



「?緋村・・・なにやってんの?」

「・・・なんでもないっ、晒しは巻き終わったのか?」

「あー、一応?」

「なんで疑問系なんだ・・・」

「だって、背中にあててある布があるから・・・これをどうしようかなと・・・」


剣心は何度目かの溜息を付くと振り返り
が胸の上まで晒しを巻いていることにほっとして
「貸してみろ」と晒しを受け取り、丁寧に巻いていく



「・・・すまない・・・」

「へ?」

「いや・・・あの時、俺が気を逸らしたばかりに・・・
 傷跡・・・残りそうだな・・・」

「・・・いいんだ、気が付いたら勝手に身体が動いてた
 それに、緋村を守れたって証しみたいなもんだ。俺にとって勲章みたいなものかな」

・・・っ、頼むから・・・もう、俺を庇わないでくれ・・・
 俺を庇って人が死ぬのを見るのは一人で十分なんだ・・・っ」

「緋村・・・ごめん・・・・・・でも、それは約束できないな」

!」

「俺だって・・・目の前で大切な人が死ぬのをもう見たくはないんだ・・・」



の哀しそうな声音に剣心は胸がチクリと痛み、後ろからそっとを抱きしめる
己の腕の中にすっぽりと納まるに、愛しさが込み上げてくる
は自分を抱き締めてくれる細くて、でもどこかがっしりとした剣心の腕に手を重ね
やはり自分は女なのだと、今自分を抱き締めている剣心に恋心を抱いていたのだと実感した


以前の恋は淡くも甘く儚く散った恋だった
現在いまは・・・?
現在は剣心の過去を知っていて、時折過去の人に嫉妬してしまう
なにより自分が何時か元の時代に戻ってしまうのではないかと
そうなった時、自分は耐えられるのか?失いたくない・・・         
二度目の恋は辛く残酷なものなのかもしれない・・・
ならばこの気持ちは伝えない方が良いのかもしれないとは考えた・・・











  


今回は少し短めですね
しかも会話メイン・・・(汗
でも、まぁ・・・二人の仲は少し発展しました・・・よね?
ドリームっぽくなってきたと・・・思いたいです(笑