辺りは闇に染まっている
月明かりで辛うじて足元が窺えるくらいだ
一行は闇に覆われた山間を進み目的の場所に辿り着いた
16 Moria 1 -モリア 1-
周りに木々はなく厚い岩の壁に囲まれている
足下は石と砂利、生き物の気配もない
細い道を進めばその先に開けた場所があった
ミズランディアは何事もなく此処まで辿り着けた事に
アンドの溜息を漏らし口を開いた
「あれがモリアの壁だ・・・」
その傍らでギムリが斧で壁を叩きながら歩き始める
「入り口は隠されている。合言葉を忘れれば領主にも扉は見つからない」
「・・・だろうね」
呆れたようなレゴラスの言葉にギムリはむっと顔を顰める
暫く壁を触っていたミズランディアが
雲間から今にもその姿を現そうとしている月を見上げて言う
「“イシルディン”だ・・・星と月の光に浮き上がる・・・
こう記されておる、“モリアの領主ドゥリンの扉、唱えよ『友』そして入れ”・・・」
「その意味は?」
「合言葉を唱えれば中へ入れるということだ」
メリーの質問に簡単に答え、ミスランディアは杖を翳し言葉を紡ぐ
「
(エルフの門よ、今や我々の前に開け!)」
「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」
「
(ドワーフの玄関よ、我が言葉を聞け!)」
「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」
「開かない・・・」
「昔はエルフ語にオーク語、人間の合言葉を全て暗記しておった・・・」
「今は?」
「お前の頭で扉をぶち破れ!でなければくだらん事を言わずに黙っておれ!」
その場の空気を読めないピピンの一言にミスランディアは怒気を露にし近くの岩に腰掛ける
「合言葉を探すのだから・・・」
ミスランディアのその言葉を合図に一行はその場所に腰を下ろした
暫くはこの陰気な場所に留まらないといけないとは溜息をついた
辺りを見回せば闇をも飲み込みそうな湖、その湖面には月が映されている
はその湖に違和感を感じた
「・・・何か、いる・・・・・・」
「?」
訝しげにを見つめるレゴラス、の視線をたどり同じように湖を見つめていれば
その後ろではアラゴルンとサムが今まで旅に同行していた子馬のビルを放していた
「こんな勇敢な馬のビルもこの先は無理だ」
「さよなら、ビル・・・」
「さぁ、行け。ビル・・・大丈夫だ、ちゃんと家に帰る」
別れを惜しむようにサムはビルの鬣を一撫ですれば
ビルは振り返ることなく来た道を帰って行く
そうしていると暇を持て余したのかピピンが湖に石を投げ入れだせば
メリーもそれに倣う様に足元の石を投げようとする
「駄目よ・・・この湖にいる何か・・を起こしてしまう・・・」
「・・・何か、いるの?」
「ん・・・あまり良い気配はしない・・・ミスランディアはまだ?」
「あぁ、まだ考え中だ・・・」
の言葉にアラゴルンとレゴラスは湖に警戒心を持ちながら
ミスランディアに視線をむける
その隣で一緒に考えるように座っていたフロドが立ち上がる
「解ったぞ、“唱えよ、友”・・・友って言うんだ。エルフ語で“友”は?」
「メルロン(Mellon)・・・」
ミスランディアが呟くように言えば、大きな一枚岩でできた扉は
ギギギ・・・と鈍い音を立てながら両側に開いた
嬉々として中に飛び込んで行くギムリ
その後に続いて達も扉をくぐるが、辺りは暗く何も見えない
それでもギムリは嬉しそうにはしゃぐ
「持成し好きのドワーフが直に歓迎してくれるぞ。勢いよく燃える炎
モルトビール、それに骨付き肉!従兄弟のバーリンに紹介しよう
鉱山とは思えんだろ?だが、立派な鉱山だ!」
「鉱山じゃない・・・墓場だ・・・っ」
足元を確認していたボロミアがそう言えば
辺りには変わり果てた姿のドワーフ達が眼に映る
も顔を顰め辺りを見渡す僅かに感じる数体の魂魄
「そんな・・・なんて、なんて事だ!!」
「オークだ!」
「ローハン谷へ・・・!ここへ来たのが間違いだ!」
「逃げよう・・・早く!」
取り乱すギムリ、変わり果てたドワーフの胸から矢を抜きレゴラスは舌打ちをする
慌てるアラゴルンとボロミア、その場は一気に騒然となってしまう
はそれに気を取られて一瞬の殺気を感じ損ねた
「うぁ・・・!」
「フロド!!ストライダー、ストライダー!」
サムの必死な呼びかけに後ろを振り向けば
大きな触手に足を取られ湖に引き込まれようとしているフロドが映った
「「「フロド!!」」」
サムが腰に提げていた剣でフロドの足に絡みついている触手を何度も突けば
触手は足を放し湖の中に消える、その隙にメリーとピピンがフロドを引き上げようとすると
再び湖の中から触手が飛び出してくる。しかも今度は数が増えている
メリーとピピンはその触手に突き飛ばされ、薙ぎ払われる
そしてフロドの足を絡め取り中に持ち上げる
「「「フロド・・・!」」」
[破道の・・・チィッ狙いが定められない!]
が鬼道を放とうと構えるも、その触手はくねくねと動いて
最悪フロドに当たりかねないとは舌打ちをする
その隣でレゴラスが弓を射れば、湖の中に入り触手を相手に格闘しているアラゴルン達
フロドを見れば数本の触手がフロドの胸元を弄っている
「目的は指輪かっ」
「!?」
は地を蹴ると一気にフロドの元まで跳躍して〈胡蝶〉を抜く
足の下ではその触手の本体が顔を現す
「うげ・・・っ[ごめん〈胡蝶〉我慢してねっ]」
《ちょっと、!?》
そう言いながらフロドを掴んでいる触手を切り落とすと
先を失った触手を足場にもう一度跳躍してレゴラスの元へ降り立つ
触手の先と一緒に落とされたフロドはアラゴルンが受け止めていた
「逃げろっ」
後を追ってきたミスランディアがアラゴルンとボロミアに向かって叫ぶ
ギムリはメリーとピピンを連れて先に避難をしているのを確認しながら
は鬼道を放ち、レゴラスは弓を射続けている
「レゴラス、っ逃げろ!」
目的の物を捕らえられず激怒したその化け物は岸から上がり
ミスランディア達の待つ扉の元へ走るアラゴルン達を追う
湖面から現れた本体にとレゴラスは鬼道と弓を放つ
けたたましい唸り声を上げながら触手が怯んだ隙に一行は扉の奥へと駆け込む
後を追いかけてきた化け物は入り口であった扉をその触手で壊し、出口は封じられた。
先ほどまで射し込んでいた月明かりも閉ざされ、隣にいる者の顔さえも判らない程
辺りは暗闇に包まれた。奥まで逃げ込んでいた一行は
呆然と先ほどまであったであろう入り口の場所を見つめていた
「さて・・・この先に進むほかないな・・・どこまでも続くこのモリアの坑道を行くのだ・・・」
ミスランディアがそう言い、持っていた杖の先にぼんやりとした明かりを灯した
足下は覚束ないがこれで全員の顔を見ることができる
先ほどまで共にいた者の顔を確認するとはほっとして微笑んだ
「・・・が身軽なのも戦闘慣れしてるのも良く解ってる・・・
でも、僕の傍を離れないでほしい・・・」
「レゴラス・・・ごめん・・・これからはなるべく離れないようにするから・・・」
「なるべく・・・?」
「あぅ、ぜ、絶対に・・・」
「うん、そうしてね」
最初は哀しげな空気を纏って話していたレゴラスが
の「なるべく」という言葉に黒いオーラを放つのを間近で見ていたアラゴルン
(色惚けに腹黒、ついには過保護か・・・とんだエルフだな)
「・・・なにか、言いたそうですね?エステル」
「なんでもないっ、なんでもないぞっ」
少し騒がしい殿にも聞こえるような声でミスランディアが注意を促す
「気を許すな、暗い地底にはオークより太古から生きている恐ろしい奴らがいる・・・
ここを抜けるには4日はかかるだろう。気付かれぬよう音を立てるな・・・」
その言葉に誰もが頷き、静かに歩を進める
細く急な階段を上りきれば、その先には3つの道が用意されていた
「この場所は記憶にない・・・」
ミスランディアが低く唸った