【兄妹】



泣き疲れ腕の中で眠るにふと微笑み
はた、と思いついたのは寝具の事だった

この庵には部屋は多少あるが住んでいるのは自分一人で
もちろん寝具は一組しかなかった

さて、どうするかと考え
とりあえず今日は自分の使っていたものを
自分は掻巻布団でいいかと完結した



「明日にでも源治に頼めばよいか・・・」



長政はをこの庵に留める事をも決めていた




翌朝、は長政の布団を使ってしまっていた事に頭を抱えていた
それを爽やかな笑みで流し、行く宛てもないのだからと言い包め
は長政の庵で生活する事が決まってしまった











日常の生活は二人でこなしていたが
どうしても必要な買い物は源治という初老の忍が変わりに行っていたが
時折というか頻繁には街に降りるようになっていた


この日は長政に頼まれ茶葉を買いに京の街に来ていた
馬を連れ歩くのは面倒だと馬屋に預けて大通りを歩く
目当ての茶屋で茶葉と茶菓子を買いふらりと行く当てもなく足を進める
その中で色々な情報を耳にする
それは父といた頃からの癖でもあった
家を飛び出したとはいえ諜報活動をしていた父
しかしその姿は大いに知れ渡っていたから街中での諜報はが担っていた

(っていうか姿が知れ渡っている諜報員ってどうなの・・・)

因幡国の鳥取城が兵糧攻めにあっているという話しがそこかしこから聞こえてくる

(・・・ということはあと一年くらいしたら本能寺か・・・)

ふむ、と頷き馬屋へ向けて踵を返した先に一頭の馬が見えた
遠目に見ても普通の馬より大きい
その馬は人並みから離れたところに繋がれることなく立っていた
元々好奇心の強いはその馬に近付いてみると
じっとを見つめ、鼻面を摺り寄せてきた



「わ・・・懐っこいねぇ、それに毛艶も凄くいい。大事にされてるんだね」


返事が返ってくるわけがないのに話しかけ続ける
肩の辺りをぽんぽんと撫でれば程好い筋肉がついていて
極上の軍馬と見て取れる
一頻り撫でながら話し掛けていると一つの気配が近付いてきた



「松風が懐くなんて珍しいこともあるもんだ」

「松風?」


振り返れば見上げるほどの大男
その髪型はどうなっているのですか?と聞きたくなるような風貌で
更にの目を奪ったのはその髪の色だった


「おう、こいつは松風っていうんだ。俺は前田 慶二、お前さんは?」

「あ、俺は と言います・・・、前田・・・慶二・・・ってあの!?」

「お?俺の事知ってんのかい?」



嬉しいねぇと高らかに笑い愛馬・松風を一撫でした
の頭の中では長政と出会った時に聞いた
『前田殿という御仁は某よりも薄い金色であった』という言葉を思い出していた
そして近くの木に立てかけてあった豪気皆朱槍を見て核心した
この時代、いや世界は自分が居た時代の過去ではないと
いくらなんでもありえなさすぎる
髪の色にしても体格にしても武器にしても・・・
瞠り固まっているを慶二は覗きこんだ



「どうした?」

「い、いえ・・・この子・・・松風が人に懐くのは珍しいことなんですか?」

「あぁ、こいつは気性が荒くてねぇ」

「そんな風にはみえないけど・・・前田、様は何を・・・?」

「俺かい?俺は戦人だ」

「いや、そうじゃなくて・・・」

「ん?あぁ、都見物だ。お前さん、だったな
 はこの辺に住んでるのかい?」

「え、えぇ・・・国境いになりますが・・・」



が言葉を濁しても気にした風はなくカラカラと笑っている
その雰囲気が何所か父を思い出させた
じっと慶二を見上げているとぽんと大きな掌がの頭に乗せられた


「松風に乗ってみるか?」

「えっ、いや、それよりも俺・・・もう帰らないと!」

「送っていってやろうか?」

「いえっ、馬屋に馬を預けていますし・・・大丈夫です!
 またどこかでお会いできるといいですねっ、失礼します!」

「あぁ・・・運があったらまた会えるだろう」


慌てて頭を下げて走り去っていくを慶二は面白そうに見ていた














が馬を駆り庵に帰りつく頃には日は傾いていた
完全に日が落ちていないのを確認すると安堵の溜息をついた
『日が落ちるまでに帰ってくること』それがと長政の約束だった
一度間に合わなかった事があったが、その日はそれはそれは長い説教をされた
心配されている、それがには嬉しくも擽ったくもあった
まるで兄のようだと、一度「長政兄さん」と呼んだらものすごく嬉しそうな顔をされて
それ以来は「長政兄さん」と呼ぶようになった



「ただいま、長政兄さん」

「おかえり、。何か面白いものはあったか?」

「面白いもの・・・っていうか、前田 慶二様に会ったよ」

「前田殿に?」

「うん、都見物とかいってたけど・・・」

「そう、か・・・長篠の戦いで織田家を出たと聞いたが・・・」

「自分の事を戦人とか言ってたよ」

「彼らしい・・・」

「それからね・・・         



は慶二に会い、思った事を話した
それは自分が今いるこの世界は自分のいた時代の過去ではない事
その理由もいくつか挙げた、それには長政も驚いていた



          ・・・成る程、確かにそうかもしれぬな」

「うん、それにその方がいいなぁ」

「何故だ?」

「だって、私のいた時代・・・好きじゃなかったもの」

「・・・そうか・・・・・・」

「分かり切った未来より何も分からない未来の方が楽しみがあっていいしね
 色んな可能性があるってことでしょ?」

「あぁ、そうだな・・・」


瞳を輝かせながら話すの頭を長政は優しく撫でた
それを嬉しそうに受けるは今の長政にとってかけがえのない妹なのだった
それはも同じでいきなり出来た心配性の兄は自分にとってかけがえのない存在だった











  


短っ(汗 さくさくと時間を進めていきます
史実通りにいくとヒロインさんがとんでもない年齢になってしまうので
完全無視で進めます(笑

戦の内容や世情の流れは史実に沿うかもですが
時間の流れはかなり速いです